1歳の子どもが飛行機の中でずっと泣いていて、そのことについてある漫画家の方がクレームをつけた、という記事がネット上で公開され、大きな話題を呼んだ。
こんな時、私の結論は明確である。がまんするしかない。
正直、何を言っているのかよくわからない
子どもは泣くものだし、1歳の子どもだと、どんなに注意して、いろいろと配慮しても、泣き出したら泣き続ける。つまり、それは「自然」のようなものであって、人間がコントロールできるものではない。だから、諦めて、受け入れるしかない。
私にとっては、これは一つの「カモン・センス」だと思われるのだが、私のツイッターに寄せられた意見だけを見ていても、さまざまな感じ方、考え方が世の中にはある。それを見ていて、しみじみ、人間というのは不思議で多様な存在だと思うのである。
子どもが大きくなるまで、飛行機の旅は控えるべきだというような意見を書く人がいる。正直、何を言っているのかよくわからない。帰省したり、旅行をしたりする際にやむを得ず連れていくことはしばしばあるだろう。子連れは飛行機の旅を禁止する、みたいな社会が出来たら、それはカフカなみの管理社会だろう。
お母さんが悪い、という意見を書く人もいるが、これもよくわからない。子どもが泣いているのに放置して、周囲への迷惑を考えなかった、というような意味で書いているとしても、それは一種の「精神論」である。精神論は、それ以外のどのような態度、行動をとることができたのかという「具体」を欠くだけに、とらわれるとやっかいである。
結局、社会が実際にそうなっているように、子連れでも旅はするし、子どもは泣くこともある。お母さんもいろいろあやすが、それでも泣き止まない場合もある。そんな時は、周囲もしかたがないと諦める。特に、航空会社にクレームをつけることもない。このような「カモン・センス」に社会の体制は落ち着くし、法律やルールも、そのような線に沿ってつくられている。
今回のような「事件」が起きたときに、カモン・センスをもう一度確認することは大切だろう。自分たちが、どのような「プリンシプル」によって生きているのか、わかるからである。同時に、カモン・センスではない見解、意見を持つ人がいることも、許容し、尊重しなければならないのだと思う。
社会の重心が、極端になることはない。そうなると困る。しかし、時にエキセントリックな意見を持つ人が出ることは仕方がないのであって、そのような方の存在によって、社会全体としては「強靱」になっているのだろう。
カモン・センスに基づく結論が、たとえ妥当だからといって、それを押しつければ、逆にカフカ的な、息苦しい社会になる。カモン・センスから外れた、極論を持つ人もいて、ちゃんと意見を聞いてもらえる。それが、自由な社会というものであろう。だから、極論を持つ人を、「クレーマー」というラベルの下に封じたりするのもよくないのではないかと思う。
極論には、その人の体重や感情が乗っているものだ。つまり、その肉声が聞こえてくるのである。それは、森の中を歩いていて、突然聞こえてきた鹿の鳴き声に似ている。
<この文章は茂木健一郎のメルマガ『樹下の微睡み』より抜粋したものです。もしご興味を持っていただけましたら、ぜひご購読ください>


その他の記事
![]() |
「交際最長記録は10カ月。どうしても恋人と長続きしません」(石田衣良) |
![]() |
貧乏人とおひとり様に厳しい世界へのシフト(やまもといちろう) |
![]() |
所得が高い人ほど子どもを持ち、子どもを持てない男性が4割に迫る世界で(やまもといちろう) |
![]() |
なぜ人は、がんばっている人の邪魔をしたくなるのか(名越康文) |
![]() |
人生の分水嶺は「瞬間」に宿る(名越康文) |
![]() |
大揉め都議選と「腐れ」小池百合子の明るい未来(やまもといちろう) |
![]() |
『ご依頼の件』星新一著(Sugar) |
![]() |
偉い人「7月末までに3,600万人高齢者全員に2回接種」厳命という悩み(やまもといちろう) |
![]() |
残暑の中で日本だけに定着したマスク文化を考える(高城剛) |
![]() |
ヘヤカツで本当に人生は変わるか?(夜間飛行編集部) |
![]() |
「たぶん起きない」けど「万が一がある」ときにどう備えるか(やまもといちろう) |
![]() |
「時間」や「死」が平等でなくなる時代到来の予感(高城剛) |
![]() |
弊所JILIS『コロキウム』開設のお知らせとお誘い(やまもといちろう) |
![]() |
「暮らし」をシェアする時代がくる? 注目のシェアリングエコノミー(家入一真) |
![]() |
野党共闘は上手くいったけど、上手くいったからこそ地獄への入り口に(やまもといちろう) |