城繁幸
@joshigeyuki

城繁幸×竹田圭吾特別対談(その2/全3回)

「ブラック企業」という秀逸なネーミングに隠された不都合な真実

国ができること、個人がすべきこと

 

竹田:国ができることというのは、格差が固定化しないようにある程度の分配機能を構築するということと、「セーフティネット」の整備だと思うのですが、アメリカの例を見ているとここでヘタを打つと、笑いごとでは済まないリスクに発展するということです。

アメリカでは共和党の政権の時代に富裕層を優遇する税制を10年以上続けました。その後、息子ブッシュ政権も同じような税制を続けたおかげで、格差が完全に固定化されてしまいました。この固定した格差を突き崩そうとオバマが手をつくしましたが、8年間では何も変えられないところまできていた。

こうなると格差の下の方に位置づけられた人たちは働く意欲もなくなるし、社会としては治安の悪化や社会不安などの潜在リスクを抱え込むことになる。同じ轍を踏まないように、ここは日本も注意を要すると思います。

 

:「セーフティネット」という点では、生活保護と失業給付、それから年金を一本化するべきだと私は考えているんです。今は、生活保護は自治体が窓口だけれど、就職・再就職の斡旋は厚労省のハローワークが担当しているなど、非常に効率が悪いんです。

もし、こうした社会保障をすべて自治体に移管できれば、こんなことができるようになります。さまざまな理由で、生活のためのお金が足りなくなった人が出たら、とりあえず審査もせずに、その場で生活保護を支給してあげる。187A6418smその後で、「あなたにマッチする求人は3つあります。だからその企業の採用面接を受けてください。もし受ける気がないのなら、生活保護の支給は打ち切ります」と。

こうすれば、本当に生活に困って餓死するようなこともなくなるし、雇用のマッチングも改善していくと思います。年金まで一本化すべきだと思うのは、どのみち年金支給開始は70代になるはずなので、失業問題と強く結びつくことが目に見えているからです。厳しいかもしれないけれど、動けるうちは働いてもらう。どうしても働けなくなった人には、しっかりケアをする。これくらい単純な思想でシステムを構築していかないと、とても機能する制度は作れない気がします。

 

竹田:セーフティネットは絶対に必要ですけど、187A6574smせっかくですから働くことについての「インセンティブ」も欲しいですね。その点、城さんの新刊は、「終身雇用に問題がある」ことを指摘している本でもありますが、「雇用が流動化することで、自分が潜在的に持っているスキルを活かして働くことができるチャンスが生まれるようになるんだ」というプラスのメッセージを伝える本でもありますよね。

今までの日本の終身雇用には“終身”という単語が入っていることで、キャリアパスとライフパスがごちゃまぜになってしまって、自分の人生とキャリアを切り分けて考えることができなくなっていた人が多かったと思うんです。でも本当は、自分のライフパスを見つめた上で、仕事や会社を決めていくという手順を取っていくものですよね。終身雇用がなくなれば、世の中がバラ色になるというものではないわけですが、少なくとも人生と仕事の関係を考えるきっかけを与えることにはなるように思います。

 

:本の中でも書きましたが、今後は、「非正規雇用」の人と「正規雇用」の人が同じ土壌に立つ形になっていくと思うんです。今までは、「非正規雇用の人」というのは、ぶっちゃけ「弾除け」でした。

経団連の出した『新時代の日本的経営』というガイドラインの中には、「長期雇用を守るためには、非正規雇用をバッファとして活用して調整する」とはっきり明記してあるんです。だから、「派遣切り」というのは、ある意味で経団連のデザイン通りに機能した結果です。労組も納得の上でそのガイドラインに乗っかっていたはずなんですけどね(笑)。

でも、それはやっぱり不公平です。非正規雇用の人に話を聞いてみると、単純に「もっと給料をあげてくれ」という話をする人もいますが、やっぱり「公平な競争をしたい」という人が多いんです。今、日本の経済は元気が無いとか言われていますけれども、私としては、非正規雇用の人と正規雇用の人が同じ土俵に立つだけでも、かなり状況は改善するような気がするんです。非正規雇用の人が一生懸命働くインセンティブが生まれたら、これはかなりのインパクトになるはずです。

別に「全員1年契約にしろ」と言っているわけではありません。「労使で自由に決めさせろ」という話をしているだけです。「勤続年数に応じて必ず社員のスキルが上がっていくので給与も上げていくのが当然だ」と確信している企業は、それはそれでいいと思うんです。

以前、九州のテレビに出演したときに、終身雇用はこんなに素晴らしいという例として地元の工業メーカーで70~80歳の職人がバリバリ働いている人が取り上げられていたので、「でも、これはどの会社でもできるわけではないし、強要するものでもないでしょう。(職人スキルの要求される)ゼロ戦を作っているような会社だったら、それでもいいかもしれませんけど」と冗談で言ったら、取り上げられていた会社が本当に終戦末期のときに戦闘機を作ってたという(笑)。

実際、職人芸が必要で、売上が固い会社であれば、社員と終身契約をすればいいと思います。ただそれをあらゆる企業、産業に適用するのは無理がある。反対に、雇用される側も、終身雇用を望む人がいてもいいし、一年単位の契約を望む人がいてもいい。雇用契約というものは、絶対的な答えがあるものではないので、企業と雇用者側で自由に決めればいいことだということなんです。

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城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

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