努力することの本当の意味
さて、ではここからが「努力」の本質についてなのだが、そういう「正のバイアス」を得られるのは、努力の何が作用してなのか? 努力の何が、人に正のバイアスをもたらすのか?それは「苦しさ」である。人は、努力をする過程で苦しめば苦しむほど、「正のバイアス」を持ちやすくなる。
なぜかといえば、それこそが「等価交換の概念」だからだ。人間は、生まれつき「等価交換の概念」に縛られている。何かを得るためには、何かを失わなければならないと信じ込んでいる。「胸の大きな女性は頭が悪い」というのは、誰に教わったわけでもないのに、まだほんの小さな子供ですら信じ込んでいる考え方だ。
そういう「等価交換の概念」が、努力においても生じる。つまり「これだけ努力した(=苦しんだ)のだから、勝てる(=いいことがある)」というわけだ。そのため、そうした正のスパイラルを得るためには、努力において苦しまなければならない。むしろ、苦しまなければ「努力」とはいえない。
ところが、これを理解できていない人が多い。多くの人は、「人間は苦しむべきではない」と考えている。苦しむことをネガティブにとらえている。だから、「練習も苦しむべきではなく、むしろ楽しんでやるべき」という人が多い。あるいは、「努力そのものも楽しんでやるべき」と考えている。
実際、練習を楽しみながらやっている人もいるし、好きでやっていたらその道の勝者になっていた――という人もいなくはない。特に、ミュージシャンやスポーツ選手が「自分も楽しんでいなければお客さんも楽しんでくれない」と言って、楽しむことの大切さを強調するケースが多い。だから、努力の効果を疑う人も多いのだが、しかしそれは、最初に述べたように本能や勘で知らず知らずのうちに努力しているだけであって、自分では気づいていないケースがほとんどだ。彼らは、自分でも知らないうちに苦しんでおり、それがゆえに正のバイアスを持て、勝利を疑わなくて済んだだけだ。
そのため、そういう人は二度勝つことができない。一度は本能や勘で勝てるのだが、継続しないのだ。実際「楽しまなければいけない」と語るようなミュージシャンやスポーツ選手は、2、3年で消えていく。その逆に、苦しみながら音楽やスポーツを続ける人は、長い間第一線で活躍し続ける。これに例外は一つもない。
これが、努力の難しいところなのである。苦しまなければ努力とはいえないのだ。しかしながら、人はどうしても苦しみから逃れようとしてしまう。そのため、正のバイアスに至ることができず、敗北の言い訳を探してしまうようになるのだ。
そうならないためにはどうすればいいのか? それは、正しく「苦しむ」必要がある。そこで次回は、「正しい苦しみ方」について述べていきたい。
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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。
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