やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

迷子問答 公開質問【正しい努力とは】


Q 【正しい努力とは】

迷えるハイスペ社会人です。帰国子女かつ国内大学院、海外そこそこMBA持ちのもうすぐ30代中盤の独身です。

ただまぁ、友達いないんですよね。片田舎のDQN高校からラッキーヒットで都会の国立大学に入れたあと、周りに追いつこうとがむしゃらに勉強して、留学して。親のすねも齧り尽くしまして、先日父親が他界した時は、数年ぶりの帰省だったんですけど声を上げて泣きました。

ぶっちゃけ、カネはあるんです。

人生で悔いがあるとすると、結婚相手選びに失敗し続けたことぐらいですか。みんな、肩書や年収で人を見るんだなということと、友達は役に立たないんだなということでしょうか。

いまは、某ローファームで、年齢や仕事に見合わない高い給料をいただいていますが、来月クビになるかもしれない、そのまま偉い人になるかもしれない、というところで不安な毎日ではあります。

それで、質問は「正しい努力ってなんだろうね」って最近すごく悩むのです。

申しました通り、社会的には、まぁ、一応は成功の部類です。運が良かったことはあるにせよ。自分なりに考えて、頑張って、いい地位、いい給料までは来たかなとは思います。

でも、将来の不安はものすごくあります。カネ以外の面で。

いままでは、周囲の環境もあって、頑張ればほかの人よりも良くなれる。努力すれば良い人生を歩める。そう思ってきていたんですけれども、カネ目当ての変な女性しか現れない。努力をしても、この後良くなる保証がないことに気づいた。理想とする幸せな家庭や、職業人として目指すべきものから遠ざかって行っている気がする。

健康に気を使いながら、激務があってもどうにかやってきました。充実感という意味では、やはりすごくあります。でも、たまに土曜にオフィスに入って、そのまま泊まって、日曜の朝に帰る時に公園で子供と遊んでいる父親の姿を見る。思い込むつもりもないし、見下す気持ちはないけれど、僕より安い給料で、でも奥さんがいて、遊んであげる子供がいて。

そういうのを見ると、僕の人生ってどういう価値を未来に残しているのだろうと不安になるのです。

人生、おカネじゃないですから。

それは分かっているつもりでも、迷いがある、だから、今できる方法で、できるだけおカネを稼ぎたくなってしまう。

前に一歩出るのが怖いのです。だから、分かっているやり方を続けてしまう。
どうしたらいいのかなー、と。

そして、怖ろしいことに、相談できる人がいないことに気づいた。

尊敬できる上司、気持ちを分かち合える同僚、そんなものはいません。人生相談をしたら、それにつけこんでくるような環境であることは、今まで社内で人生の問題を相談した人たちの末路を見れば、すごく良く分かるんですよ。ストレスなんてものじゃありません。

その代わりの高給取りだと割り切るにしても、自分の見失い方は半端ないと自分でも思います。なもんで、メルマガに相談を送ってみることにしました。読み返してみたけど、漠然としているし、ながなってすみません。

 

A 【「正しい」ってのは存在するんですかね】

 結論から申しますと、どうも貴殿は「やらなければならない解がある」ので、その解を目指して努力しなければならないと勘違いをしているように思います。

 私の立場で申し上げるならば、貴殿は「何をしたいと思っているのか」がゴボッと欠落をしていて、なにか環境の中で与えられる目標をこなすことに集中し過ぎているようです。

 正しい努力をすれば、それに見合う結果が必ず与えられるに違いない、という考えかもしれません。

 高い給料をもらえるからストレスがあって信頼を置ける人がいなくても頑張れる、という部分がプライドの根源になっているように感じられ、しかし価値観としては情愛に満ちた家庭を築いたり、お父上のように立派に貴殿を育てるような存在になりたいと考えているところまでは分かります。

 そうだとするならば、貴殿がいくらいまの職場やお持ちのスキルを伸ばしたところで、より良く稼げることはあっても貴殿が本当にしたいことにはいつまでも到達しないか、運を天に任せるような状態になり、独身のまま40代を迎えることになるかもしれません。

 もちろん、幸運に恵まれることはあります。私なんかは、本当に結婚できるなんて思っていなかったところに家内と巡り会って結婚をし、幸せな家庭を築くところまではできているわけですけれども、じゃあ何か巡り会うのに「正しい努力をしたか」と言われると微妙なところになるわけですよ。そう考えると、生まれてきてくれた子供のデキも、私たち夫婦の健康も、重要なところはかなりの部分が正しい努力とは無関係のところで、神の意志のような全然違う力が働いていることが分かります。

 一方で、幸せを掴むために何を準備しておくのかは常に考えておくべきです。目の前にチャンスが来たのに逃す、というレベルならまだしも、後から振り返って「あれはチャンスだったのに、何で気が付かなかったんだ」ということはザラにあります。アンテナが低いと、幸運を掴む機会を逃すわけです。

 アンテナがなぜ低いかは自明で、それは「自分がどうなりたいか」「何が望みなのか」がきちんとイメージできていないからです。カネが欲しい、高い地位でありたいと願うことは誰もがしていますが、貴殿はどうやったらカネが稼げるのか、地位を確保できるのかを理解しているので、どう「正しい努力」をすればそれが可能になるかは見えている範囲内で確実にできるようになっています。

 ただ、自分の人生において何を成し遂げたいと思っているのか、どういう人物でありたいと考えるのか、何をもって幸福とし、目指していこうとするのかが明確でなければ、目の前に止まっている電車に乗るべきかどうかも分からないはずなのです。

 同じところで悩んでグルグルするのではなく、悩んでいることや、進むべき道筋を導くためのしたいことをきちんと見定め、簡単なことでもいいので自分なりに定義しながら進んでいくことを強くお薦めします。人間は、イメージしていないことを自分で努力して実現することなどできないのです。ご自身が、こういう状況が幸せだ、と感じるものを、漠然とではなく、なるだけ細部まできちんと考え、再現し、踏み固めていくことが必要なのではないかと感じます。思い描けない限り、自分から結果を創り上げられるよう努力することなどできないのですから。

 それができて初めて、何かチャンスが巡ってきたときに「これは」と飛び乗ることができるのでしょう。それが本当にチャンスだったのか、モノにできるのかは神が決めることですが。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.172 やっぱり変な安倍昭恵女史や、デマやガセネタが客観的事実を淘汰するネットの今を眺めつつ、「正しい努力とは何か」について考える回
2016年11月29日発行号 目次
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【0. 序文】迷子問答 公開質問【正しい努力とは】
【1. インシデント1】安倍昭恵女史がなんか変な話
【2. インシデント2】デマやガセネタが客観的事実を淘汰するネットの今
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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