1989年を舞台に、地方都市でのゆるやかな日常から物語は始まるのだけれど、女子高生であるヒロインの弟(小学生)が交通事故死したことから、暗い影が差し始め、まるでバブルがはじけリーマンショックに見舞われる世情と期を一にするかのごとく、この後何もかもがうまくいかなくなる一家の数十年が描かれていく。
やがて中年女性となった現在のヒロイン(鈴木杏)は、ひょんなことで、願い事が叶うといわれる橋を渡ったことから、1989年にタイムスリップする。その日はまさに、弟が事故に遭う前日だった。
かくしてヒロインは、弟の事故死を「なかったこと」にするために奔走し、歴史を変えさせないように働く「見えない力」に抗っていく……。
その渦中で、1989年の自分を取り巻く環境を違う角度から見る経験をする。たとえば、わからず屋だと思っていた父(板尾創路)が実はどれだけ自分の事を想っていたのかを知るのだった。
しかし高校時代の彼女の認識の方が正しい部分もあった。「学校の勉強は何のためにするの?」という彼女の問いに、教師たちは、生きるために必要な知恵を君たちに伝えたいからだという答をすることが出来ず、ただひたすら、そうすればいい会社に入ることが出来ると、ことなかれ主義のお題目を繰り返すのみ。大企業、あるいは大手銀行でさえ倒産する未来がやってくるなど、バカげたことだとしか思えないのが当時の大人の認識だったが、それこそが間違っていたのだと、映画はヒロインの目を通して訴えかける。
この社会批判の姿勢が、やはり過去改変への願望を描いた2016年のヒットアニメ『君の名は。』には希薄だった視点であり、『朝日のあたる家』『向日葵の丘 1983年・夏』と、文明の発達が果たして人々を幸せに出来たのかを問いかけてきた太田隆文監督の面目躍如だろう。
それに加えて、過去の悲劇をいかに回避できるか/出来ないのかというサスペンスを描く「一本で二度おいしい」映画を目指したのならば納得だ。
だが一方で、筆者としては、「過去改変」が、ある一家の中のことだけでなく、社会批判というかたちで中盤視野に収められてきた「時代」と、どう関わったのかが、やはり気になる。
もちろん、そこまで描いていたらより大規模な映画になるし、収拾がつかなくなるのも予想出来る、しかし、一端だけでも、どこかに示しておいてほしかった。
『君の名は。』は、震災と原発事故という、天災と人災が不可分だった大災害を、「彗星落下」という劇中のフィクションに置き換え、そこから社会性を抜き取った。それは欺瞞にも感じられるが、災害の爪痕による喪失感という、国民規模の共有体験に焦点を絞ることが出来たのも事実だ。
『明日にかける橋』の場合、ある一家の中の子どもの事故死という出来事と、バブル崩壊後の世相が特に意味のあるリンクをしない。
クライマックスを飾る、日本最大級の規模を誇る静岡県の袋井花火大会の美しい光景を見上げる、この30年間を生きてきた主要登場人物たち。そこに「しあわせとは何か」を象徴させたかったのだとは思うが、すべてを止揚するには、作劇上もう一考必要だったのではないだろうか。
とはいえ、建物の広告看板を合成処理したり、久米宏のソックリさんを使って『ニュースステーション』を模したテレビ番組でその都度の事件を挟み込むなど、途中途中でかなり細かく時代相を演出しているこの作品。観客の中で一緒に築き上げてきたそれぞれの時代を思い返しつつ、未来を考える良い機会となるのは間違いない。
監督:太田隆文 脚本:太田隆文 プロデューサー:太田隆文 アソシエイトプロデューサー:小林良二 撮影:三本木久城 照明:いしかわよしお 録音:植田中 美術:竹内悦子 衣装:丸山江里子 ヘアメイク:大久保恵美子 編集:太田隆文 整音:丹雄二 効果:丹雄二 音楽:遠藤浩二 助監督:富澤昭文 制作担当:酒井識人 題字:大石千世
出演
鈴木杏
板尾創路
田中美里
越後はる香
藤田朋子
宝田明
草刈麻有
冨田佳輔
田崎伶弥
長澤凛
弥尋
山下慶
山本淳平
天玲美音
大石千世
栩野幸知
宮本弘佑
岡村洋一
嵯峨崇史
増田将也
本間ひとし
真木恵未
遠藤かおる
6月30日より公開中
映画『明日にかける橋 1989年の想い出』公式ホームページ
切通理作のメールマガジン「映画の友よ」
キネマ旬報ベストテン、映画秘宝ベストテン、日本映画プロフェッショナル大賞の現役審査員であり、過去には映画芸術ベストテン、毎日コンクールドキュメンタリー部門、大藤信郎賞(アニメ映画)、サンダンス映画祭アジア部門日本選考、東京財団アニメ批評コンテスト等で審査員を務めてきた筆者が、日々追いかける映画について本音で配信。
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