やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「リボ払い」「ツケ払い」は消費者を騙す商行為か


 消費者情報なんとかというところで、集中講義的にお話をしてきました。

 昔、私がネット上のステルスマーケティングを問題視して記事を書いていたころからのお付き合いのある先生方からご指名をいただいたので、光栄なる凱旋なのか門外漢の戯言なのか良く分かりませんでしたが…。

 前回メルマガでも問題意識を書きましたが、TikTok日本法人でのステルスマーケティングが話題になる直前のことでしたので、いわばペイドコンテンツがダマテンでステマすることが与える消費社会に与える悪影響を、どうやって我が国のデジタルプラットフォーム規制で排除し、消費者の権利を守るのかと言われると、ハッキリ言えば打つ手なしのタレコミ待ちなところがあるわけです。

 もちろん、ネタが入ってくれば問答無用で何かするというわけではなく、さまざまな調査を経てできることを… となるわけですけれども、とりわけ消費者庁や公正取引委員会がすべての案件に手を入れることができるほどの状況ではございませんので、関係先に情報を提供し、いろいろと吟味し、手法について確認し、などなどやっているうちに手遅れになることもまた多いのが残念な現実です。

 また、いまちょうど同様にマネーロンダリング系のお話も出てきておりますが、いわゆるステマ絡みもマネロンもやっている人の属性が近いうえに、やられる人たちも似たような感じであるという点で、世に犯罪の種は尽きまじという感じはします。ただ、それを公が全部監視して悪いことが起きないようにするというよりは、悪いことをして稼いだ人たちに対してきちんと事後的に制裁を打ち、そういう商売をやりづらくするためにどうするのが望ましいかという議論にせざるを得ないというのが実情であります。そのために、国税庁が持つ徴税情報を使えるようにしようとか、デジタルプラットフォーム事業者に明確な査察権を設定しようなどのファンタジー提案も多数飛び出して、なかなか刺激的です。やれれば確かに効果的だろうけど、国家権力が税務当局などを通じて行える手法にはおのずから限界があるんだよというイロハのところからお話をしなければならない程度にはつらい立場なのであります。

 さて、最近になってとみに出てきた議論として、むしろ金融筋からのマネロン対策(FATF勧告絡み)で金融事業に対する包括規制のネタがあります。個人的には筋が悪いなあということであまり気にしたことはなかったのですが、ネット上で簡単にショッピングができるようになり、また、そういう資金需要が個人向けにどんどん増大していっているので、それに対する小口金融や信用構造に対して適切に規制を敷きなおすべきだ、という議論が結構な濃度で出るようになってきました。

 とりわけ、先日のファクタリングでの摘発事案もそうでしたが、いくつか議論としてまあそうだなと思うのは個人に対する信用スコアリングが適法な形で行われているのかというネタは重要だと思うんですよ。中国ではゴマ信用ほか当り前のようにスコアリングをやっている一方、日本の場合は一応は個人情報保護法も改正され、GDPR原則やOECDガイドラインといった制約条項も踏まえて適切なビジネス上の手当をしましょうよというのは民主主義的なプロセスとしてやって当然な面もあります。

 ただ、それらは越境データとなり、利用者にデータ処理の国名が明らかになったところでその国の憲法や法律はその国の国民を保護することはあっても日本人の人権や情報を保護してくれるわけではありませんので、出ていった先で容易照合性があるデータ群はさんざん付き合わされて信用スコアリングにされるのもまた当然のことです。

 究極には、VISAやMasterなど海外のクレジットカード会社による決済業務はほぼ全量がデータ解析の具になり購買者の履歴から信用状態、購入物からその人のライフサイクル的にそこの場所でそういう価格やテーマのモノを買うかどうかまで派手にスケール化されてスコアリングされています。

 それがスコアリングなんだと言われればそれまでですが、ここまでくると個人情報保護法制で個人情報をガイドラインなどにのっとって適切に管理されているかどうかなんて議論もへったくれもなく、問答無用であることは言うまでもありません。そこにさらにアメリカ系大手ビッグテック各社などによるデータ解析もされているわけですから、事実上、ネットショッピングが流行れば流行るほど個人から企業へ政府から守られない情報が流れていくのは当然のことです。

 一番吸い上げられているセクターってどこなのよと言われると、これがまた明確にリボ払いを駆使して可処分所得をやりくりして消費型都市生活を謳歌している国民であって、ここへのサービスをどうするのかというのは我が国の中長期における金融行政の根幹にくるんじゃないのというのもまた当然のことです。

 さらに困ったことには、我が国には金融コングロマリットが成立しづらい側面が多くあります。端的な話、三菱グループだろうが三井住友だろうがみずほだろうが自前で何かしようにも銀行法で縛られる一方、新興系のネット企業ならばSBIすらも適当に楽しく金融事業を営めるわけでありまして、古くからの銀行はメガも地方もろくなビジネスチャンスにもあずかれないまま高成長金融事業はおおむね非銀行系による新規サービスに搔っ攫われるという非常に残念な経緯になっていることはつとに主張されるところです。

 そこへきて、地方銀行が食うに困ってあまりよろしくない金融派生商品を地方在住のお年寄りに売りまくって、お前ら布団の訪問販売かとまで揶揄されるような悪質さで社会問題になりつつあるのもまたご承知の通りです。というか、ヤバイものはヤバイ。なので、ある程度は我が国の金融行政はしっかりとした指導体制を維持しつつも、実際には新しいことや付加価値の高いことをやれる状況にないのでそろそろいい感じの規制最適化をやらないと地方経済から先に死に、信用が大切なはずの金融機関がまず潰れるという話になるわけです。

 結果として、いままでは上から見て業界を中心に産業政策が組まれてきた点を一部改め、やはり消費者、生活者目線でどのような情報が保全されてきたのかを問い直しながら政策を組んだらどうかという議論は出てこざるを得ません。善意からそうしようというより、もうもたないからそうせざるを得ないという話です。最たるものは、金融事業の金城湯池でもある消費者金融、さらにはリボ払いのような割高な小口貸金事業に対する「規制の最適化」をどうするかという議論が、再来年ぐらいから明示的にボンボコ出てくることでしょう。

 それは誰のものか、というのは政策を固めるうえで永遠のテーマだと思うんですが、まあいろいろと雑な議論も多いのでどうにかしないといけないよなあとも感じる次第です。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.361 このところの新興金融ビジネス周りの微妙なあれこれに触れつつ、ネットに流れる情報の諸行無常などを語る回
2022年3月1日発行号 目次
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【0. 序文】「リボ払い」「ツケ払い」は消費者を騙す商行為か
【1. インシデント1】俺たちの「大樹総研」とそれ界隈のステキ事案の炙り出しの件
【2. インシデント2】ネットの情報は未来永劫不変というわけにはいかないという話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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