やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

『売れるネット広告社』加藤公一レオさんから派手な面白ムーブが出る一部始終


 正直『売れるネット広告社』って九州のほうのADKとやずやの広告を下敷きに独立した会社がそれっぽいことを言って強引に上場しただけなんじゃないのと思う人も多いんではないかと感じるんですが、その強引なことをやっているCEOである加藤公一レオさんが面白くてずっとヲチしているわけです。

 もちろん、一株も触っていません。うっかり買ったり売ったりしたら、その時点でステークホルダーになってしまいますからね。禁忌です。ダメ、ゼッタイ。

 言うても売れるネット広告社自体の市場価値は9月26日時点で85億円程度の時価総額に過ぎず、いわゆるグロース系の中小株に位置しており、さほど実績があるわけでもすごく期待されているというわけでもない、微妙な銘柄に過ぎません。頑張ってはいると思うんですが、何をやるにもまだこれからといったところなんですよね。

売れるネット広告社グループ(株):株価・株式情報

 しかも、6割以上を持つ大株主である加藤公一レオさんが持ち株をほんのり売っておられる話も出ていました。もともと浮動株もそんなに多くないので、市中に多く流れると維持している株価も下落して時価総額が下がってしまうのではないかと心配でおちおち二度寝もできません。大変です。

 さて、そんな売れるネット広告社グループですが、個人投資家であるSUAN氏との法廷闘争において、地裁で敗訴、高裁でも控訴棄却という連続敗訴を喫しています。現在は請求異議訴訟が係争中ではあるものの、もともと加藤公一レオさん側が勝てそうな訴訟だとは市場関係者の間でも見込まれていませんでした。削除命令に対する間接強制として日額10万円の支払いが命じられ、すでに債権差押命令まで発令されている状況です。第三債務者として三菱UFJ銀行福岡支店が指定され、1,130万円プラス費用が差し押さえの対象となっています。正直加藤公一レオさんはイキリ立ちすぎて下手を打ってしまい恥ずかしい状態になっているだけでなく、周りにこの手の盲動を止められる人もいなかったことを意味し、今回微妙な決算において売れるネット広告社が発表している「ガバナンス強化のための先行投資」って何なんでしょうかねという印象を持たざるを得ません。

売れるGについて、加藤公一レオ氏は保有割合が減少したと報告 [変更報告書No.4]

 ここで問題なのは、こうした法的に厳しい状況にありながら、加藤公一レオさんご本人がSNS上で「敗訴なわけないじゃん!!w」とか「すでに勝った」といった発信を続けていることです。自分が経営している会社をDISられてムカつくところまでは分かりますが、SUAN氏が書いた内容が相応に真実に基づくことは当事者である加藤公一レオさんや売れるネット広告社幹部・関係者だって承知していたはずで、裁判を起こしたところでSUAN氏の記載した内容の真実性が認められて敗訴に至るだけの話になりかねないのは仕方がないところです。司法の判断が明確に出ているにもかかわらず、このような虚偽とも取れる発言を投資家向けに行っているのは、上場企業の代表取締役としていかがなものかと思わざるを得ません。

 そもそも論として、公開企業のIRなどを駆使して企業経営に対する正当な異論を訴訟で封じようという姿勢自体が問題含みです。個人投資家が企業の経営方針や開示姿勢に疑問を呈することは資本市場において極めて健全な行為であり、それを名誉毀損訴訟という手段で抑え込もうとするのは、上場企業のあり方として根本的に間違っているのではないでしょうか。せいぜいいって「余計なことを書かれて腹が立つ」という心情に対しての理解までで、それが嫌なら上場するなとしか言いようがありません。市場は多様な意見が交わされることで適正な価格形成が行われるものであり、経営陣に都合の悪い意見を法的手段で黙らせようとする企業文化は、健全な資本市場の発展を阻害します。

 繰り返しにはなりますけども、この会社のガバナンス体制そのものがどうなってんのかというのは問われるべき問題です。本当に大丈夫なんでしょうか。普通の意味でのワンマン経営、独裁的経営というレベルの話を超越しているのではないかと感じます。削除命令が出た誹謗中傷サイトとされるものを表向き削除したように見せかけながら、実際には東欧の匿名ホスティングサービスを使って別ドメインにリダイレクトさせ、実質的に公開を続けていたという被告側の主張が事実であれば、これはもはやコンプライアンス以前の問題です。

 しかも、加藤公一レオさんご自身は普段から「匿名の隠れ蓑」に対して辛辣な批判を繰り返しているにもかかわらず、自らが匿名サーバーを使って情報発信を続けているという疑惑があるわけです。この矛盾した行動様式は、経営者としての一貫性や誠実性に大きな疑問符を付けざるを得ません。

 これ、常識的に考えて、SUAN氏だけでなく被害に遭った人物や企業は、反訴するだけでなく刑事告訴を進めるレベルですよねえ。売れるネット広告社にではなく、加藤公一レオさんに対して。

 企業経営において、ベンチャー初期の、事業の立ち上げでもの凄いパワーが必要となるある段階まではこうした強引かつ剛腕な経営者が好ましい場合も確かに多いのだろうと思います。創業期や成長初期においては、細かいことを気にせず突き進む推進力が必要とされる場面もあるでしょう。しかし、売れるネット広告社の現状を見ると、収益を上げるゴールデンルール的なノウハウが完備されているとは到底言えません。時価総額85億円程度の規模で、確固たる競争優位性や再現性のあるビジネスモデルが確立されているわけでもない状況において、こうした強引な手法で突き進むことが果たして株主価値の最大化につながるのでしょうか。そもそも、売上が3倍増(前年比207.2%)になりましたと言っても、それM&Aで取得した事業の売上が乗ったのが含みですから、本当に売上が伸ばせるのかはこっから先だという話になります。むしろ、これは売れるネット広告社が突き進むべきいばらの道ではないのではないかと思わざるを得ません。

 最近の展開はさらに香ばしさを増しています。どうやら発信者情報開示請求が通ったらしい市況かぶ全力二階建の発信者情報をネタに、内々で身元をばらしにいく輩(やから)のようなムーブに発展しているという話も聞こえてきます。発信者情報開示制度は本来、重大な権利侵害に対する救済手段として設けられているものであって、批判的な言論を封じるための威嚇手段として使うべきものではありません。もしそのような使い方をしているのであれば、これは制度の濫用と言わざるを得ず、上場企業の経営者として極めて不適切な行為ですし、もしもやらかしたのならば普通に訴訟を起こされて然るべき状況になるでしょう。

 さらには、あろうことか「当社代表取締役社長CEO 加藤公一レオが堀江貴文氏、溝口勇児氏、三崎優太氏がFounderである『REAL VALUE』のメンター&プロフェッショナルに就任」とかいうパブリシティまで昨年以降打ち込んできています。これはこれでヲチ対象としては愉快なところはありますが、堀江さんも溝口さんも三崎さんもまあそういう方面ですから、要するに自己承認欲求か何かが理由でそっち側に転んじゃった人だとも言えます。

当社代表取締役社長CEO 加藤公一レオが堀江貴文氏、溝口勇児氏、三崎優太氏がFounderである「REAL VALUE」のメンター&プロフェッショナルに就任

BreakingDown溝口勇児さんが判決で反社会的勢力との関係を疑われることを否定されず、大手企業からの出資を拒絶された件が裁判所に真実として認定されている話

 投資家の立場からすれば、こうした一連の行動は大きなリスクシグナルです。経営者が司法判断を軽視し、SNSで虚偽とも取れる発言を繰り返し、批判的な意見を法的手段で封じ込めようとする企業に、果たして長期的な成長を期待できるでしょうか。周りにちゃんとした大人がいない、ガバナンスが機能していないと見られる企業は、いずれどこかで大きな問題を引き起こすものです。売れるネット広告社の今後の動向は、投資家にとって非常に興味深い観察対象となりそうです。もちろん、私は一株も触りませんけどね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.489 加藤公一レオさんの動向をひたすらヲチしつつ、デジタルプラットフォーム規制のあり方や米国TikTok買収話などに触れる回
2025年9月30日発行号 目次
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【0. 序文】『売れるネット広告社』加藤公一レオさんから派手な面白ムーブが出る一部始終
【1. インシデント1】デジタルプラットフォーム規制:違法広告規制とか摘発どうしようねの話
【2. インシデント2】TikTokをめぐる微妙に不穏なあれこれを適当に書き散らかしてみる
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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