茂木健一郎
@kenichiromogi

茂木健一郎メルマガ『樹下の微睡み』号外より

上杉隆さんのこと、日本のメディアのこと

みなさん、こんにちは。茂木健一郎です。私は今、ソサエティー・フォー・ニューロサイエンス(Society For Neuroscience)という学会に出席するために、ニューオリンズにいます。ニューオリンズにいながら、日本の様子をツイッターなどで見ていたのですけれども、様々な議論が行われている上杉隆さんの問題について、私なりに感じていることを、なるべく正確にバランス良く申し上げたいと思います。

 

上杉さんの意見は「一つの意見」

私が上杉さんお目にかかったのは、おそらく2年前ぐらいと思います。その時に、上杉さんが日本の報道のあり方について、特に、記者クラブの問題を指摘していることについて、私は非常に共感いたしました。上杉さんが、あるアメリカ系の媒体の取材の一環として、当時の首相小渕恵三さんに取材を申し込んだところ、 小渕さん自身は「取材を受ける」と言っているのに、官邸の記者クラブがそれを認めず、官邸の中に入ることが出来なかったというようなことをおっしゃっていました。そのような事件に象徴される日本のメディアの「閉じた」部分については、私も以前から問題があると思っています。そのことについて上杉さんは、非常に的確な指摘をされていると感じていたのですね。

その後、私は、上杉さんといろいろな会合でお目にかかったり、一緒に食事をしたりするようになりました。上杉さんは、ある種、個性の強い方で危ういところもありますが、そこがまた人間的魅力になっていると思います。会ってすぐに惹き込まれるような魅力を感じたものでした。

そして、2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。福島第1原発の事故が起こり、放射能の問題が立ち上がりました。上杉さんは、先程から申し上げている、日本のメディアの閉鎖性の問題と事故の影響の問題について、様々な発言されるようになりました。その時に上杉さんが指摘していた内容の中には、私自身の経験ないしは直感からすると、ちょっとこれは言い過ぎではないかとか、あるいは情報が偏っているのではないかと感じたことも正直ありました。

しかし、私は、このような問題については、様々な立場から様々な議論が行われることが大事だと思っておりますので、上杉さんの意見は一つの意見として聞いていました。上杉さんが様々な媒体で執筆したものについても、プライベートコミュニケーションに相当するものについても、私自身は、上杉さんの意見を「一つの意見」として聞いていました。それを鵜呑みにしたり、それを真実のすべてだと思ったりすることはありませんでした。

「日本のメディアは原発事故の全貌を報じていない」という上杉さんの指摘も、あくまで「一つの意見」だと思っていました。ただ、「日本のメディアに問題がある」という認識については同意していました。ですから、上杉さんの「自由報道協会」の活動については、私は非常に高く評価していましたし、今でも高く評価しています。

1 2 3 4
茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

その他の記事

身体に響く音の道――音の先、音の跡(平尾文)
かつて都市の隆盛を象徴した駅や空港の「行列」「混雑」は古くさい20世紀の思い出に過ぎない(高城剛)
テレビのCASがまたおかしな事に。これで消費者の理解は得られるか?(小寺信良)
「2分の1成人式」の是非を考える(小寺信良)
人間にとって、いったい何が真実なのか(甲野善紀)
東京の広大な全天候型地下街で今後予測される激しい気候変動について考える(高城剛)
成宮寛貴友人A氏のブログの話(やまもといちろう)
素敵な真夏を迎えるための身体の備え(高城剛)
「脳ログ」で見えてきたフィットネスとメディカルの交差点(高城剛)
週刊金融日記 第282号<日本人主導のビットコイン・バブルは崩壊へのカウントダウンに入った、中国ICO規制でビットコインが乱高下他>(藤沢数希)
TPPで日本の著作権法はどう変わる?――保護期間延長、非親告罪化、匂いや音の特許まで(津田大介)
観光客依存に陥りつつある日本各地の地方都市の行き着く先(高城剛)
感度の低い人達が求める感動話(本田雅一)
“美しい”は強い――本当に上達したい人のための卓球理論(下)(山中教子)
無意識の領域へアクセスするあたらしい旅路のはじまり(高城剛)
茂木健一郎のメールマガジン
「樹下の微睡み」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定) 「英語塾」を原則毎日発行

ページのトップへ