金融危機が起きたのは市場原理が働かなかったから
――具体的な内容に入っていきますね。この本では、負債総額64兆円という人類史上最大の倒産であるリーマン・ショックを題材に、世界の金融ビジネスの仕組みやそれが変わっていった様子を非常に明快に解説していきます。細かなところは本を読んでいただくとして、その中に「先の金融危機を、強欲な市場原理主義の失敗談として片付けている人がいるけれども、現実は違う。むしろまったくの反対で、先の金融危機は金融市場において、しっかりと市場原理が成り立たなくなっていたことが引き起こした問題だ」と指摘されていたのが、すごく面白いと思いました。
藤沢:世界中の会社が、それぞれ頭をひねってモノやサービスをつくる。それが顧客に受け入れられれば利益を生み出す。そうでない会社は市場から退場する。これは製造業なんかでは明らかですね。もちろん一定のルールはありますが、確かに市場は弱肉強食の世界です。でも、健全な市場原理が働いている限り、誰かが誰かを搾取するというわけではありません。自由市場での競争の過程で「大金持ち」が生まれるかもしれないけれど、それは誰かから収奪したわけではなく、それだけ新しいモノやサービスを世界に生み出したからなんです。こうした競争を通して、社会全体が豊かになっていくのです。市場原理というのは、これだけ大規模な経済を回すことができる、人類が手に入れることができた唯一の仕組みだといってもいいでしょう。
――藤沢さんは、「マネーゲームをする人がたくさんいるから市場経済が成り立つ」と書いていますね。
藤沢:そうです。市場でのマネーゲームは、まったく悪いことではありません。例えば、株式市場では、マネーゲームをする人のお陰で、市場に流動性が生まれて、多くの投資家も欲しい金融商品を買いたい時に買えるし、売りたい時に売れる。また、マネーゲームをする人同士が競争でお互いに打ち勝とうと、割高で買ったり割安で売ったりしないように必死で頑張るから、金融商品の価格が適正なものになっていく。いいことばかりですね。だからマネーゲームは何の問題もありません。金融業も製造業と同じように、新しい金融サービスを生み出しますが、金融業はこういったマネーゲームの中でも儲けています。あるいは損しています。これは確かにゼロサムゲーム的ではあるのですが、世の中には確かに役に立っているのですよ。
社会主義者っぽい人は「競争する」という点が気に入らないのか、金融危機が起きた後、「市場原理主義や競争社会の終わり」といった論を展開しました。でも、僕に言わせれば、てんで見当違いです。反対に、自由競争が尊ばれ、市場原理主義的に動いていると思われていた金融業界において、市場原理が働かなくなっていた。これこそが金融危機の本質なんです。
――具体的にはどういうことでしょう?
藤沢:一番わかりやすい例が“Too Big to Fail”(大きすぎてつぶせない)という問題です。個々の金融機関が大きくなり過ぎていて、あるいは各金融機関が複雑に絡み合っていて、金融機関は失敗しても経済への悪影響が大きすぎて、怖くてつぶせなくなりました。マネーゲームで大負けしたら会社がつぶれて市場から退場するのなら問題ないのですが、そうならなかった。簡単にいうと、儲けたときは自分のもの、損した時も自分でかぶるけど、会社が存続できないほどの大損が出た場合は、国民の血税を使って救済しなければいけなくなった。これは資本主義の原理原則に反しています。実は、金融業界の最前線こそ、もっとも市場原理が働かない場所になっていたんです。
儲かったお金は自分たちのものであり、大損した分は社会が負担する。こういう状況だと、金融機関のリスクの取り方が大きく歪められます。つまり、バブルに乗って、多くの場合には儲かるけど、万が一の時にはものすごく損する可能性のあるようなリスクを取った方がいいことになる。だって、万が一の時に大損しても、自分で払わなくてもいいわけですから。こうしてリスクを取れば取るほど儲かることになり、みんなが巨大なリスクを取っていったので、バブルを大きくしてしまったのです。深刻なモラルハザードが金融業界で起こっていました。
お金が余っている人や会社からお金を集めて、お金を必要としている人や会社に資金を提供したり、割高なものを売り、割安なものを買うといったサヤ取りをしているのはいいのです。でも世界の金融機関は、リスクを取れば取るほど儲かるという状態になってしまっていた。それが行き着くところまでいき、破綻した。こうしてリーマン・ショックが起こりました。

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