騙される人、つまり詐欺にあったりマインドコントロールされたりする人というのは、純粋で素直な人――という場合はほとんどない。その逆に、疑り深く、小心で、捻くれている人ほど、実はよく騙される。
なぜかというと、疑り深い人には一つの大きな「落とし穴」があるからだ。それは、「疑り深い自分自身を疑わない」ということである。
疑り深い人は、「自分は疑り深い性格だから騙されない」という妙な自信を持っている。あるいは「疑り深いのはいいことだ」と、疑り深いことそのものに強い肯定の気持ちを抱いている。
実はそれこそが、詐欺師やマインドコントローラーにとって「つけいる隙」となっているのだ。
疑り深い人に信用されるのは簡単だ。一言、こんなふうに言えばいいのである。
「あなたは『用心深い人』ですね」
こう言われると、疑り深い人は鼻息を「ムフー!」と荒くして喜んでしまう。そして、疑り深い自分に対する信頼をますます強める。
それと同時に、そういうふうに褒めてくれた人に対しては好意を抱く。あるいは、思わず心を開いてしまう。
「この人は、おれの用心深さを認めてくれた、良い人だ!」
そうして、その人を信用するようになるのだ。
ではなぜ、疑り深い人はそうした人を簡単に信用してしまうのか?
そこには、一つのカラクリがある。
それは、「この人は、自分のことを用心深いと分かっている。だから、わざわざ騙すようなことはしないはずだ。騙すなら、もっと不用心なやつを騙すはず」というある種の合理的な思考によって、「自分を騙すはずがない」という思い込みを抱いてしまうからだ。その思い込みが、命取りになるのである。
そうして、その人の言葉に熱心に耳を傾けるようになるのだ。
するとほどなくして、その人の発言の中に、ある種のパターンがあることに気づく。
それは、「世の中のウソを暴く」という姿勢だ。ウソつきたちのウソをあぶり出し、それに騙されないよう、無辜の人々に警告を発しているのである。
「この世はウソに溢れている。そのために、人生をムダにしている人が大勢いる!」
「まず、『やればできるとわかっていることばかりする』人」
「これは、失敗を認めようとしない日本社会に飼い慣らされた『社畜』の行動だ」
「続いて、『楽しいとも思えないことを、お金や義務感や惰性のために続ける』人」
「これは、ブラック企業によって精神を改造され、正常な判断力を奪われた『ロボトミー』の行動だ」
「さらに、『「スゴイですね!」「さすがですね!」と言ってくれる人ばかりの環境で長く働く』人」
「これは、新興宗教や自己啓発セミナーの術中にはまった『オナニーをやめられないサル』の行動だ」
この手の言葉が、延々と続くのだ。
すると、それを聞いた疑り深い人たちは、さらに強く、その人を信じるようになる。
「この人は、そもそもウソをつくような人ではない」
「なぜなら、ウソに騙されている人たちに対して、『それはウソだ』と警告してあげているのだから」
「つまり、ウソつきの敵なのである」
「ということは、おれたちの味方だ」
そうした思考を経て、最終的に辿り着く結論は、以下のようなものになる。
「この人だけは信用できる!」
こうなると、もうマインドコントロールの完成である。以降、その人が何か言えば、それをほいほいと信じてしまうようになるのである。
だから、その人が「そんな人生を送らないために……新しく本を書いたので買ってください」と言えば、喜んで買ってしまうのだ。
ここまでで分かったように、「疑り深い人」には、一つだけ疑えないものがある。それは、「疑り深い自分」である。
そのため、そんな「疑り深い自分」を認めてもらえると、その認めてくれた人を簡単に信用してしまうのだ。
その信用は、「この人は自分が疑り深いことを知っているから、わざわざ騙すはずがない」という思い込みによって、揺らぎにくくなっている。そのため、騙されているということに最後まで気づかないケースが多い。「自分は疑り深い」という自信が、それに気づくのを妨げてしまっているのだ。
こうならないために大切なのは、「自分に自信を持たないこと」である。特に、「疑り深い自分」というものを信用せず、それを疑うことなのである。そうして、疑り深い性質を捨てることだ。
そうなると、「全くの無防備になり、かえって騙されやすくなるではないか」と思われるかもしれないが、しかし実際は、そうはならない。なぜなら、一度「疑う」という過程を経てからそれを捨てているので、相手を信用するにしても、あまり深みにはまらないのだ。そのため、もし仮に騙されていたとしても、すぐに気づいて後戻りできるのである。そうして、被害を最小限に食い止めることができるのだ。
これだと、疑り深い時のように「騙されていることに最後まで気づけない」という状況も防ぐことができる。だから、一番騙されにくくなるのである。
※この記事はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」に掲載されたものです。
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