※高城未来研究所【Future Report】Vol.280(2016年10月28日発行)より
今週は、小笠原諸島の父島にいます。
東京から南に1000キロ離れていますが、父島は東京都ですので、島内を走る車は品川ナンバーばかりな実に不思議な光景です。
およそ25年ぶりに訪れましたが、島中の道路は舗装され、港を中心とした街はとても綺麗になっていて驚きました。
メインストリートには、オシャレなカフェやイタリアン・レストラン、そして多くのツアー会社が立ち並び、かつては、漁師のトラックの荷台に乗せてもらって移動するしかなかった島と同じ場所とは思えません。
少しだけ、並行世界「1Q91」を彷徨う気分です。
しかし、いまだに島には空港がなく、東京の竹芝桟橋から24時間かけて船で来るしかありません。
かつてはダイバーと偏屈な旅行者しか訪れませんでしたが、2011年のユネスコの世界自然遺産認定以降は上質な観光客も訪れるようになり、さらにこの7月から唯一の定期連絡船「おがさわら丸」も刷新し、かなり快適に渡航できる旅先になりました。
ただ、まるまる1日はかかることには変わりありませんので、結果的にお金と時間がある高齢者が多く目立ち、船室も一等から満室になっていく富裕層のあたらしい国内旅行先になっているようです。
島内唯一のホテルも高齢者ばかりで、レストランでは音楽もかからず、独特の静けさが漂います。
さて、この島の美味しい料理として有名なのは、島寿司です。
サワラを醤油漬けにして、ワサビではなくカラシを入れて握るのですが、この島ではワザビが取れませんので、代わりに小笠原ならではのカラシを使っていた食文化がいまも残り、物資豊かな現代になっても、島固有の特殊性は食に残るものだと実感します。
そしてなにより珍味として有名なのが、ウミガメ料理。
歴史的に小笠原ではウミガメを食す文化がなかったそうですが、ハワイに住んでいたポリネシア移民たちが来島した際にウミガメが美味しいことを聞いて、その後食べるようになったとのこと。
時は幕末だそうで、小笠原は江戸幕府に属していても、事実上の鎖国外の存在かつ太平洋の島々のひとつで、当時から他国と多くの交流がありました。
それが、この島の食文化に残っています。
現在は、ウミガメを年間55匹までだけ採れる漁業制限がありまして、かつては観光客が少なかったことから制限されても需要と供給のバランスがとれていましたが、近年の観光客増加に伴い、供給が追いついていない様子です。
刺身から鍋料理までウミガメ料理は実に幅広く、驚くことにお土産用の「ウミガメカレー」(インスタント)まで販売されていました。
こうやって大量製品化してしまえば供給が追いつかないのは当然でしょうし、そのうち「もはや固有の食文化ではない」と他国からバッシングの対象になる可能性も否めません。
実は、この小笠原特有だと言われる島寿司とウミガメ料理を、遥か離れた沖縄の大東島で食べたことがあります。
大東島は、琉球王国の事実上管轄外で、太平洋の島々のひとつとして存在していました。
その昔、八丈島から大東島へと移り住んだ人たちが多いことから、同じく島寿司も持ち込まれたと想像しますが、食から100年前の人々の交流を紐解くことは実に面白く、いわば「食文化人類学」とも言えるものです。
ポリネシアからハワイ、そして小笠原から大東島。
いまや日本中、いや世界中、グローバル企業の食材供給とチェーン店化が進む中、その地ならではの食から紐解く「食文化人類学」は、正食を考える上でも今後注目を集めるかもしれません。
食文化から人類の大移動を探る旅。
僕の旅路は、まだまだ続きそうです。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.280 2016年10月28日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. マクロビオティックのはじめかた
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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