※高城未来研究所【Future Report】Vol.241(2016年1月29日発行)より
今週はマルチニークにいます。
カリブ海に浮かぶ小国マルチニークはフランスの海外県で、近隣の「英国領」や「米国領」とは違う、欧州の飛び地です。
通貨もユーロであり、言語ももちろんフランス語。
警官はフランス本国から派遣され、住民もフランスのパスポートを保持し、ここはカリブ海ですがフランスなのです。
主力産業は農業と観光で、バナナ、さとうきび、パイナップルやマンゴーなどは欧州に輸出され、いまは、国土の大きさが生産性と大きく関係してしまう農業の次としての観光業に、急速に力を入れています。
しかし、この国の最大の観光名所は、決して明るく輝く場所ではありません。
周囲のカリブの島々が美しい海やビーチを売りにしているのに対し、マルチニークの最大の観光地は「死の街」なのです。
悲劇は、1902年に起きました。
この島の県庁所在地でカリブ海のパリと呼ばれていた街、サン・ピエールの背後にそびえるプレー山が大噴火を起こします。
高温の火砕流は一瞬にして街を飲み込み、住人約30,000人が死亡、20世紀最大の火山災害となりました。
いったい、なぜ多くの人が亡くなることになったのか?
それは、報道が原因でした。
火山が噴火したのにも関わらず、直後にサン・ピエールの市長選挙が行われる予定だった事もあって、新聞は何度も「サン・ピエールの街は安全である」と主張したのです。
非難する時間は十分にあったのに、報道を信じた人々や選挙のため街を離れることができなかった人たちは本噴火から逃れられず、一人残らず亡くなることになりました。
そして、「噴火の危機を煽らないように」市政府が新聞社に圧力をかけたことが、のちに発覚するのです。
その上、軍隊により住民の退去を強制的に阻止していたこともわかりました。
いまも、このサン・ピエールに行くと、黒こげになった劇場や刑務所のあと、そして他のカリブ海のビーチとは違う火山によって焼け焦げた岩と黒砂のビーチが残ります。
ここが、この島の最大の観光名所なのです。
現在、このプレー山は休火山となっていますが、マルチニークに住む多くの人は、「100年に一度は大噴火を起こす」と話しています。
しかし、それをあまり大声で話すと観光客が来なくなってしまいます。
ですので、あくまでも「ここだけの話」=実際にすでに島に訪れた人だけに、それとなく話していると、タクシードライバーは僕に教えてくれました。
そして、かつての教えに従い、「もし、噴火の兆候が少しでも見えたら、観光客だろうが住人だろうが、誰になにを言われてもすぐに逃げなきゃダメだ」と自戒するように話していたのが印象的です。
天災は、その時々のちょっとした私的な欲望で大災害につながります。
それは、いまも昔も変わらないと、カリブの小さな島で実感する今週です。
┃高┃城┃未┃来┃研┃究┃所┃【Future Report】
Vol.241
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/ 2016年1月29日発行 /
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. マクロビオティックのはじめかた
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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