やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

思考実験のための『もし、トランプさんが米大統領になったら』


私たちもそろそろ「いざ」を考えなければならない時期なんでしょうが、各種調査でトランプ優勢の結果が出たという記事が出始めました。

個人的に私淑する統計家がDCにいて、現在月間の情勢を取りまとめているそうですが、彼女をして「今回に関しては、本当にどう転ぶのか分からない」と申しておりました。ですよねー。

といいますのも、今回の大統領選挙においては各種データを参照しながら政策評価別に積み上げていくような統計学が得意とする解析手法の一部が使えなさそうだ、ということが分かってきているからであります。誤解を怖れずにざっくり申し上げるならば、過去のデータが使い物にならないぐらい、今回の大統領選はいままでと違うメカニズムで動いているように見えるという点です。

過去と違うメカニズムで代表的なものでいうと、今回はいままで以上に「負の支持率」という見えない指標によって動いている票が大きいということであります。つまり、過去にあるデータはまず固有名詞としての共和党支持者対民主党支持者、そこから支持属性が分かれ、政策別の支持率があり、中間層がだんだん選挙戦が深まっていくごとに投票態度を決めていって、最終的に大口の州で選挙人が決まり、大勢が決して行く… という流れですので、最後のフロリダで決まったといってもその前から「おそらくは」というのが見えていたわけです。

ところが、今回は「トランプが好きだ」対「クリントンが好きだ」ではなく「トランプにだけはなってほしくない」「クリントン大統領なんて絶対に嫌だ」というDISLIKEが織り成す選挙戦で、何気にいままであんまりこの人嫌いっていう評価でデータ取ってなかったので参照できないケースが増えたってのが大きいんですよね。

たとえば、私たちの出口調査で「誰々が好きだ」や「どこの政党を支持するか」は聞くことはあっても、どこかの政党は支持したくないとか、投票したくないなどの設問を造りませんし、答えさせません。類推として、支持政党が割合として少ないけど投票になると強くてちゃんと議席を取る政党は、その政党支持をしない人たちは基本的にその政党が好きではないと判断することはできます。自民党は絶対に嫌だといっても、対抗馬の候補者で微妙なのしか出てないと自民に投票してしまう人は一定数出たりするわけですが、逆に強い組織率の支持基盤を持つ政党はその政党を支持しない人たちからすると投票の選択肢から外れていたりするわけです。

なので、大阪でうっかり橋下徹知事とかが誕生してしまうと、補助的な調査として「橋下徹が好きな人、あるいは嫌いな人」というデータを毎月とって補正をかけたりします。いわゆる「負の支持率」というやつです。で、どうやら公明党支持者で橋下さんが嫌いなやつが多そうだとか、旧民主党支持者のうち12%とか少なくない数が橋下さん支持に回ったぞとか計算するわけですよ。

しかも、橋下徹さんは政治日程を無視して好き勝手なことを言うわけです。従軍慰安婦がどうとか、大阪都構想で住民投票だとか、討論にやってきた高校生に面と向かって馬鹿にしたりとか、子沢山なのにイメクラで不倫してたりとか、まあやりたい放題ですからね。そういう個性的な政治家というのは、良い意味で嫌われるわけです。その代わり、著名だし人気も得やすいので、適性関係なく選挙には勝ち残りやすいという点で、タレント候補の票の動きと似たところがあります。

翻って、トランプ対クリントンとなると、もはや政策評価や実績など関係なく、完全に「こいつらのどちらがより嫌いか」という世界になってくるんですよね。そんなデータ取ったことねえよ。なので、まともに支持率の調査をいままでのモデルで組むと、クリントン嫌いが多く出てきて、トランプはどうせ口ではああは言っても補佐官人事で酷いことにはならないだろうということと、茶会の流れもあるから既存の政治風土批判の票も積まれてトランプ優勢になってしまうわけであります。

これが、サンダースみたいなガチ左翼の堅物が民主党から出ると、既存の政治が嫌いなアメリカ有権者からすれば、サンダースならいままでと違う政治をするだろうということで、トランプへの投票をサンダースに鞍替えるので、トランプ対サンダースだとサンダース勝ちみたいなクソみたいな現実が待ってるわけです。そのサンダースは民主党の支持者からするとガチ左翼だしヒラリークリントンなみに嫌われているので実績評価でクリントン有利になって、たぶんクリントンがそのまま民主党指名を受けてトランプ対クリントンになるのでしょう。

馬鹿馬鹿しいと切り捨てたくなるのが2016アメリカ大統領選挙の現実でもあるわけですが、実のところ7月10日投開票が予想される我が国の参院選も負けず劣らず馬鹿馬鹿しい現実が待ってます。どうも衆議院解散も含み、さらに都知事選まであればトリプル選挙だー、みたいな馬鹿加減が出てきて大変なことになっているわけですよ。個人的には衆議院解散はしないんじゃないかと思ったりもしますが(肝心の自民党に衆院選で出す新人候補が出揃ってないしお金も集まってない)、我らが安倍ちゃんのことですから何をしでかすか分からないところはあります。舛添要一都知事にいたっては、愛人2人に子供3人、さらに重度の知的障害を持つ子供をほったらかして現在に至るとかいうヤバ目のネタまで改めて開陳されてしまい、完全な迷走状態に陥っている模様です。もうどうにもならないのではないかと思うわけですよ。

そんなこんなで、世界的に政治が混迷しているわけでありますけれども、明日はどっちだ。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.154 米大統領選や日本再興戦略の話題からあまり明るくないかもしれない未来に思いを馳せる回
2016年5月27日発行号 目次
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【0. 序文】思考実験のための『もし、トランプさんが米大統領になったら』
【1. インシデント1】安倍政権第四の矢? 新たな成長戦略「日本再興戦略2016」とインダストリー4.0
【2. インシデント2】家庭向けスマートデバイスの動向が妙な方向へ慌ただしくなってきたようです
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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