※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年10月7日 Vol.099 <記念まであと1回号>より
テレビ業界としてはわりと大きな話だと思うのだが、世の中的にはまったく話題になっていないのが、米国で自動録画のレコーダを展開してきたTiVoを、番組情報サービス大手のroviが買収したというニュースだ。
・Rovi、TiVoの買収を完了。今後は「TiVo」ブランドで展開
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1019154.html
しかも社名が、買収したroviではなく、TiVoのほうを残すという。そもそもroviも複数の会社の買収によって出来上がった会社で、元の社名はMacroVision。アナログ時代のコピーガードを作っていた会社である。これがTV Guideをはじめ複数の会社を買収、合併した結果、Mac"roVi"sionの真ん中のところをとってroviという社名になったという経緯がある。
日本法人もまもなく登記が終わり、TiVoに変わるはずだ。今回は丸の内にある日本法人のオフィスを取材させてもらった。
・すでにオフィス入り口にはTiVoロゴが
TiVoとは何か
日本国内でTiVoを知っている人は少ない。日本で製品展開していないからだ。おそらく日本で最初にTiVoを詳細に取材して記事にしたのは、2003年の筆者の記事だったと思う。
・DVRの“事実上の標準”になるか――全米を虜にした「TiVo」の秘密
その後もCESの際にも取材を続けてきたが、ついに買収されるということで、個人的にも感慨深い。
・拡張を続ける米国のデジタル放送サービス 〜 TiVo、XMの最新動向を探る 〜
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060110/zooma238.htm
TiVoの面白さは、録画アルゴリズムにある。ユーザーの好みを学習して、それに関係のあるものを自動的に録画するのだ。この考え方は、日本のレコーダ、特にソニーの「おまかせまる録」に大きな影響を与えた。初期のソニーのレコーダは、背面にTiVoのロゴマークが入っていたので、おそらくパテント料を払って実装していたのだろう。
・TiVo最新モデル「TiVo BOLT」
ただこのアルゴリズムが生きるのは、アメリカのCATVのように200チャンネルぐらいある世界である。到底網羅できないから、最初から決め打ちで録画するしかないのだ。一方日本では、地上波の人気が高く、しかもチャンネルは限られるので、全部録るという力技が可能だ。
TiVoは、低価格でレコーダを売り、月額使用料を払いながらサービスを使っていくというモデルである。そもそもレコーダが売れない米国で、一時は数千万台を売上た大ヒット商品ではあったのだが、最近では売上はかなり減少していたようである。
その理由は、ネットだ。TiVoは元々、CATVの多チャンネルに対応するための装置である。だがNetFlixやHulu、Amazon Primeなど数多くの動画配信サービスが立ち上がり、ケーブルテレビを解約する人たちが激増した。いわゆる「ケーブルカッター」と呼ばれる人たちである。
これに対応すべく、TiVoでもテレビ番組からネット上のコンテンツまで貫き検索できるようになったり、関連番組がNetFlixにあるよとレコメンドしたりといった機能を追加してきた。つまりそういう動きというのは、roviがCATVのSTB用にインクリメントしている番組メタデータサービスと同じである。今回の買収の前に、両社の社長は3年ほど前から事業統合についてディスカッションしてきたようだ。
・TiVoにもSVODサービスが組み込まれている
TiVoの日本進出はある?
roviはこれまで日本国内では、「Gガイド」という形で番組表サービスを展開している。採用メーカーはパナソニック、日立、三菱、シャープ、フナイの5社に上る。テレビの世界では、パナソニックとシャープだけでも恐らく6割ぐらいのシェアになるだろう。レコーダならこの2社で7割ぐらいまでは行きそうだ。一般にはroviの名前は知られていないが、テレビ関係者では知らないものはいない。
それがTiVoに社名変更するわけだから、テレビ関係業界はいよいよTiVoが日本に来るのかといろめきだった。だが結論からすれば、TiVoは元々アルゴリズムやUIなどの知財の会社であり、ハードウェアメーカーではない。TiVoのレコーダが日本に入ってくることはないだろう。それでも社名をTiVoに変えたのは、一時よりは衰退したとは言え、米国では圧倒的な知名度があるからである。
日本のテレビ産業は米国とはスタイルが違うとはいうものの、ハードウェアメーカーとしてはすでにNetFlixを機能の中に盛り込んでいる。今はまだテレビとネットの切り換えで使っているに過ぎないが、ゆくゆくはテレビもネットも同じ比重で扱われるときが来る。
つまり録画していれば、コンテンツがレコーダ内にあろうがクラウドからやってこようが、検索で見つけられるものであることは変わりないからだ。見逃したものをNetFlixで見るか、あるいはテレビ局自身が運営する見逃しサービスで見るかというのは、1つの番組から派生する導線の太さ次第となる。どっちの導線が太くなるかは、どっちがよりお金を出すかの問題だ。
すでにテレビ局とSVOD事業者が争う時代は終わり、相乗りして太る未来を模索する時代がスタートした。これにいつ、どのタイミングで乗るのか、キー局横並びのゴールインを目指していては、テレビそのものが時代遅れになる。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2016年10月7日 Vol.099 <記念まであと1回号> 目次
01 論壇【西田】
iPhone 7とPS4を「市場構築」視点で考える
02 余談【小寺】
「コンテンツで町おこし」のハードル
03 対談【小寺・西田】
地方から世界に打って出るよしみカメラの秘密 (3)
04 過去記事【西田】
iPhoneが海外で騒がれる理由
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!

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