やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

最近「オタク叩き」の論調がエクストリーム化して理解が非常にむつかしい件


 騒ぎが広がっていたのでピックアップするのですが、先鋭的なネタのひとつにこんなのがあり盛り上がっていました。

フェミ、グリッドマンが公式で抱き枕を出したことで発狂し、抗議しようと呼びかける

 フェミ(ニスト)であれネトウヨであれパヨクであれマスゴミであれ、自分の意見と合わない、かつ、自分の属性ではない誰かに何らかのレッテルを貼り、それに対して藁人形論法で叩きに行く手法はネットでは定番になってきました。先般のAV女優出演強要問題でも、また、オタクの抱き枕でも、おそらく双方には双方なりの言い分はありますし、そこに至るまでの経緯もコンテクストも積み上がっているはずです。

 今回の件も、この発言者がフェミニストであるかどうかは別として、思い入れのある作品のキャラクターが「公式に」性的な抱き枕にされてしまったことに対して憤慨しているのを、賛否両側から論戦になるという典型的なパターンとなり、レッテルの張り合い、価値観の違いの応酬が繰り広げられて千年一日のごとくです。好きな作品のヲタ芸商品を出してほしくないという気持ちも分かるし、そんなもの声高にいちいち批判するなという側の意見も理解できます。少なくとも、いいたいことはどんどん言い募ればいいんじゃないかと思うんですよね、害はないので。

 で、この手のネタはどうしてもフローになってしまいます。消費の対象にならざるを得ないと言いますか、議論に相応の決着がつくことなく、根底の対立部分を残したまま、消費されて新たな話題に移っていくだけです。その前は「クッパ姫」がどうとか議論になり、無原則な女体化は気に入らんという人からネタとして楽しいからいいじゃないかとなり、最後は任天堂の版権ビジネスがどうたらという話に発展していくのは定番の流れと言えます。

 それもこれも、ネットで特殊な意見が可視化されやすくなり、ノイジーマイノリティーが出てきたときに一斉にみんなで指さして笑うという「儀式」を経て、数時間後に「まあ、そうは言っても」と良識派が出て、そこそこ議論がなされたところでみんな飽きて解散、次の話題へ、というネット論壇のむつかしさを感じます。

 私個人で言えば、まあ節度も大事だし、何でもかんでもエロにしないほうが本来は良いんだろうけど、そういうビジネスをそういうものに期待を寄せる人向けにやるのは仕方のないことなので、不快な人はなるだけ見ないようにしようね、というレベルの話だと思います。しかしながら、この手のコンテンツは特殊であることも含めて、がっつり告知されてしまうものなのです。あの戦隊モノ深夜アニメの女性キャラクターが、円谷プロ公式でエロい抱き枕に! と言われれば、そりゃ拡散する人も多いでしょうし、拡散されればそういうのが見たくない人の目にも止まり、ノイジーマイノリティモードが発動し、爆発したらそれをみんなが指さして… という。

 これがネットマーケティングなのだ、と言われれば終わりです。実際、そういう仕掛けをやりたいわけですし、燃えた人には失礼ながら、これは成功事例になってしまいます。物議を醸すほど過激に、エッジの利いた商品を出す意欲がより高まり、さらにエロく、さらに不謹慎になっていくのだろうなあと思うと、まあなかなかネット社会も修羅だなと思う次第です。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.242 エクストリーム化するネット言説のあれこれを憂えつつ、データ民主主義と対峙する我が国の行き着く先がどこなのかをうっすらと考える回
2018年11月1日発行号 目次
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【0. 序文】最近「オタク叩き」の論調がエクストリーム化して理解が非常にむつかしい件
【1. インシデント1】「それはお前の仕事じゃない」対GAFA聖戦を主張する不思議な業界カルトの雰囲気
【2. インシデント2】ヤフーとドコモが「芝麻信用」的な信用スコアビジネスへ参入する件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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