本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

“今、見えているもの”が信じられなくなる話

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.061「“今、見えているもの”が信じられなくなる話」(2020年1月29日)からの抜粋です。


“サーチエンジンへの最適化(SEO)”という技術が一時話題になりました。SEOはインターネットの利用者がサーチエンジンで目的の情報に到達しやすいよう、さまざまな“パン屑”(キーワード)をページの中に忍ばせたり、サーチエンジンが正しく文書の内容を把握できるよう工夫することです。

しかし、文書を探しやすくする工夫を悪用すれば、質の悪い情報でも検索上位に導くことができます。これはSEOが悪いのではなく、テクノロジーを悪用している例というだけなのですが、こうした話はネット社会が進化してくると、さらに深い問題になっていきます。

実は消費者庁が主催する「デジタルプラットフォーム検討会」に、参考人として出席してきました。ここで話し合われているのは、大手のECサイトを通じての商品販売において、消費者が正しい情報を取得できているかどうか。僕の役回りは「とてもではないが、正しい情報は取得できる状況ではない」ことをわかりやすく知ってもらうことでした。
 

それはなぜ“推奨品”なのか

私は多くの商品をAmazonから購入しています。指名買いで“この製品”という場合には、もちろん商品名で検索しますが、もっと曖昧な買い方をすることもありますよね。

例えば「オリーブオイル」と検索すると、少し見ただけではどれがいいのかわかりません。そこで頼りにするのが周辺情報です。

・ユーザーレビューの数
・評価点の分散具合
・レビュー内容
・Amazon Primeマークがあるか
・Amazon’s Choiceがもらえているかどうか

しかし、これらの参考パラメーターが、どれも操作可能であるとしたらどうでしょう? 昨今、不正レビュー投稿で、偽の評判をつくるテクニックが話題になっていますが、それらは単なる「不正レビューの有無」だけに留まるものではありません。

これはAmazon内のSEOとも言えるもので、不正レビューを程よいペースで集め、実売やギフティング(レビュアーに出品者出庫で評価用製品を送ること)などでAmazon内の優先順位を上げていき、推奨品を獲得したりするのです。

つまり、SEOが検索エンジンのアルゴリズムを利用するように、不正レビューで固めた製品を出品する人たちはAmazonのアルゴリズムを使い、自分たちを探しやすく、買いやすくし、ライバルたちが選ばれる確率を減らしていくのです。

上記ではオリーブオイルと書きましたが、食品類ではこうした不正表示は多くありません。もっとも多いのは、中国・深センなどで容易に手に入るデジタルガジェット類です。

「Amazon’s Choice」は売上げ数や評価の星、コメント数など多様な要素を見て決められます。そこにAmazonの人為的な操作はありません。言い換えればAmazonのシステムを誤認させれば、Amazonの推奨品に仕立て上げることが可能です。

Amazonに限らず、現代のECプラットフォームは多様なアルゴリズムで推奨製品が決められることが多いのです。しかし、アルゴリズムに入れるパラメーターが操作されていれば、どんな結果が起きるでしょう? どんなにアルゴリズムを調整しようとしても、入力するデータに不正があれば結果は違ったものになります。

不正レビューの投稿パターンなどを工夫して、「Amazon ’s Choice」を獲得していたり、信頼できないセラーなのに「Primeマーク」が付いているという状況で、何を頼りに消費者は製品を選べばいいのでしょう? 検索で発見される順番さえも、簡素なハッキングや大量の類似製品の出品で、公正な出品をしているセラーの製品が埋もれています。

こうした簡素なハッキングは、ネガティブキャンペーンでも使われていることがわかっています。しかも、ものすごく単純です。単に不満を漏らしているコメントに大量の「役に立った」ボタンを押して、コメントを目立つ位置に 引き上げるだけ。

「Amazonというプラットフォーム」は、ある種の閉鎖的な環境で、この閉鎖環境の中で“評判を作っていくノウハウ”が使われ、ノウハウを使わない出品の情報が埋もれてしまう。「悪貨が良貨を駆逐する」状況がモロにあるわけですね。


 
(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
 

本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」

2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

ご購読はこちら

本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

その他の記事

ゲームを通じて知る「本当の自分」(山中教子)
「GOEMON」クランクインに至るまでの話(紀里谷和明)
5-10分の「忘れ物を取り戻る」程度の小走りが脳を変える(高城剛)
今週の動画「払えない手」(甲野善紀)
スマホv.s.PC議論がもう古い理由(小寺信良)
「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか(津田大介)
「スターウォーズ」最新作は台北のIMAXシアターで観るべし(高城剛)
人生の分水嶺は「瞬間」に宿る(名越康文)
憂鬱な都知事選(やまもといちろう)
いまそこにある農政危機と農協系金融機関が抱える時限爆弾について(やまもといちろう)
三浦瑠麗の逮捕はあるのだろうか(やまもといちろう)
世界を息苦しくしているのは「私たち自身」である(茂木健一郎)
ひとりの女性歌手を巡る奇跡(本田雅一)
五月病の正体 「どうせ……」というくせものキーワード(名越康文)
時代を超越した自然と人間の融合(高城剛)
本田雅一のメールマガジン
「本田雅一の IT・ネット直球リポート」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 毎月2回(第2、4木曜日予定)

ページのトップへ