やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

孤立鮮明の北朝鮮、どうにもならず製薬会社にハッキングして見抜かれるの巻


 ワクチン開発で先行している薬品会社からどうにか情報を得ようとハッキングを繰り返している北朝鮮が、先日アストラゼネカ社にハッキングをした件を見破られたうえ報じられてしまうという恥ずかしい事態になっていました。

Exclusive: Suspected North Korean hackers targeted COVID vaccine maker AstraZeneca - sources

 もちろん、対外的には北朝鮮にコロナウイルス感染者はいないとしつつも、中朝露国境地帯では当局が把握していないコロナ感染者が「巣のようになっている」とされ、また、先進国のように高齢者や慢性疾患の既往歴がある人たちに対する高リスク以上に「栄養失調かそれに近い人たちの感染が長引く」とも言われていることもあって、北朝鮮国内には相応にコロナが蔓延していることも予想されます。

 どうにか対処しなければならないからこそ、北朝鮮はハッキングしてでも有効なコロナ対策に資する情報を確保したいと躍起になっているのでしょうが、正直なところ知的財産の塊とも言える製薬会社のシステムは北朝鮮の力をもってしても門前払いであり、それどころか各国当局に先回りして情報提供が為された結果、北朝鮮の(おそらくは)ハッキングチームの仕組みが逆に割り出されてしまいそうだというオチまでつきました。貧すれば鈍すると揶揄したいのではなく、おそらくは先進国の対コロナネットワークに入り込むことができず、中国からも正式には関係情報を入手することもできない中、国内の医療体制では拡大する感染者を防ぐ手立てがなく北朝鮮当局は完全に手詰まりになっているのではないか、と思います。

 また、日本や韓国経由での情報入手もそれほど期待できるものではないのか、全体的にこの方面での北朝鮮の動きが低迷しているのが非常に気になります。内容が高度過ぎて北朝鮮側の要員が問題の把握をできておらずキャッチアップできていないのかもしれませんし、日本国内には彼らが期待するような情報はないと判断している可能性もあります。ただ、この手の話をしていると毎度出てくる「お馴染みの顔」が見当たらず、先方にゆかりの深い団体も大きな動きを示したという話が伝わってこない(マスクの転売に手を貸そうとしたという話があるぐらい)なので、なんだろうと感じるわけですね。

 一方で、ロケットマンなどと揶揄しつつも一定の信頼関係らしきものをもって接してきてくれていたアメリカ大統領・トランプさんが再選できず、中東の核輸送ルートは途絶し、韓国との関係も信頼できない(これは韓国政府にも責任は大であるとはいえ)となると、コロナ危機に便乗して何か新しい危機をでっち上げるような話も出てくるのではないかという危機感も抱きます。

 コロナウイルス流行前までは、比較的景気も落ち着いてたという北朝鮮が、コロナ対策でもっとも弱い輪となり、一番しんどい感染拡大の巣になってしまう可能性も否定できず、いわゆるコロナ対策できる国とできない国の分断の最前線に立たされる危険性があります。いわば、持たない国の持たない度がさらに上がったとき、偶発的な衝突や、暴発のリスクが高くなっていくことになりますし、なかなかしんどいことになるのではないでしょうか。

 安倍政権末期に、対北朝鮮外交において拉致問題などの進展を期待する向きはありましたが、これもおそらく米バイデン新大統領のもとでは劇的な解決はむしろ遠のいたように感じます。

 アメリカ大統領選の結果は、イスラエルとサウジアラビア、UAEとの外交にも影響を及ぼし、東アジアでもアメリカの政権移行による権力の空白によって中国が得点を稼ぎまくっている状況の中で、ぽつんと取り残された北朝鮮の取扱のむつかしさは非常に悩ましいものがあります。北朝鮮関連の(重要な)報道が減っているいま、話題にしてもらわないと死んじゃう彼らが何をしでかすかはヲチしておいたほうが良さそうです。
 

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Vol.Vol.316 北朝鮮に覚える危惧を論じつつ、携帯電話料金値下げを巡る混迷や経済の危機的状況、ファクタリング商法の悪辣さなどを語る回
2020年11月30日発行号 目次
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【0. 序文】孤立鮮明の北朝鮮、どうにもならず製薬会社にハッキングして見抜かれるの巻
【1. インシデント1】料金値下げを巡る政府と携帯キャリアの諍いがグダグダな件
【2. インシデント2】さすがにこの経済状態はヤバくないですかねという話
【3. インシデント3】国税庁の頑張りに期待したい件と、世に憚る高利貸しがファクタリング屋になってぼろ儲かりの話
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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