切通理作
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真の映画ファンが、ピンク映画にたどりつく入口! 高校生から観れる「OP PICTURES+フェス2021」がテアトル新宿で開催中

筆・切通理作

ピンク映画を60年以上作り続けてきた老舗である大蔵映画。いまでもオーピーピクチャーズとして現役で新作を送り出している。
そして、従来の成人向け(R18+作品)とは別に、中学卒業相当の年齢である15歳以上からを対象としたR15+バージョンを製作し、「エロティックな世界観はそのままに、老若男女問わず楽しめるバラエティ豊かな作品を送る」というコンセプトのプロジェクト「OP PICTURES+」(オーピー ピクチャーズ プラス)を、2015年から毎年続けている。
今年も「OP PICTURES+フェス2021」がテアトル新宿で11月5日から18日にかけて開催中。

 今回当サイトでは、上映作品全11本の内、竹洞哲也監督が、長年のパートナーである脚本家・小松光典と組んだ2本を紹介したい。

竹洞監督は1974年生まれ。2004年に監督デビューし、2年後の2006年には、早くもポレポレ東中野で行われた「R18 LOVE CINEMA SHOWCASE VOL.3」で作品の回顧展が開催された。ピンク映画の常設館以外で特集が上映されたオーピーピクチャーズ作品の現役監督としては、先駆者といえる。

 竹洞監督の作品は、田園風景や海沿いの街など、のどかな景色の中で繰り広げられる人間群像が特徴的で、いまだに多くの人がピンク映画に持っているかもしれない「暗く、ドロドロした」イメージとは一線を画す「入りやすさ」がある。

 初期には、若者が主人公の作品が目立った。東京に出ていったり、逆に田舎に戻ってきたりと、自然の中でのびやかに生きながらも焦りや不安にかられる若者たちの等身大の息づかい。

やがて、旅先で自分の寄る辺なさを見つめ直したり、その地で生きて死んでいく中高年の人々の哀歓にも主軸が置かれるようになるが、感情をそのまま描くのではなく、あえて軽いタッチで、行間からにじみ出るように伝わってくるのが竹洞作品の特徴だ。

 今回上映の『されどはまぐり』は、海沿いの街で営業する「民宿はまぐり」の女主人(倖田李梨)を軸に、宿泊客である3組のカップルのドラマが描かれる。そして、それぞれのドラマは「はまぐりのお吸い物」「焼きはまぐり」「煮はまぐり」と女主人が出す食事のメニューがタイトルになっている。

 1組目の、並木塔子と石川雄也演じるカップルは、「子作り」の仕込みのために泊りにきたらしい。だが妻は、夫が身体を抱き寄せようとするのを拒否する。どうやら、2人の思惑は、すれ違っているようだ。

 滞在中、妻は夫のマイナスポイントとプラスポイントをスマホに打ち込んでいる。その一方、夫は夕食のメニューとして、あるものを女主人に頼んでいる。そのメニューは、ギクシャクした2人の仲を、ほぐすことが出来るのか?

ピンク映画で「はまぐり」と聞いて、真っ先に、性的な隠喩だと思う人は多いだろう。だが、この映画はそれだけではないイメージの広がりを持っている。

熱したり、湯がいたりすればぱっくり開く「はまぐり」だが、やりすぎると煮詰まってしまう。そして、開くはまぐりと開かないはまぐりがある。一度固く閉じれば、2度と開かないこともある……。

それが男女の、お互いの気持ちのありようと重なるのが面白い。

2組目の、岡江凛とモリマサ演じるカップルは、セックスにロマンティックなムードを求める妻と、結婚するまでは童貞であったいつまでも「ヤリたい盛り」の夫。

この2人の顛末に向けて、女主人が、ただの傍観者ではなく、意外な関わり方をするのも見ものだ。

3組目の、辰巳ゆいと近藤善揮演じる歳の差が離れているカップルは、深く愛し合っている。結婚を真近に控えているが、女性の方には何か影があるようだ。

部屋で2人横になっている時、起き上って、まだ寝たままの男の顔を見て「好きって、けっこう苦しいよね」と独り言をつぶやいて、彼の手に自分の手を添える女性。

2人の間にはどんな溝があるのか、女主人はやがて知ることになる。

このように、カップルが、宿で過ごす2人の時間をゆっくり持てるように工夫するこの女主人自身にも、好きな人との、誰とも取り換えのきかない時間がある。

それを、映画の行間から見つけるのも、竹洞作品の醍醐味だろう。

 
本特集で上映される竹洞哲也監督、小松光典脚本によるもう一つの作品『こぼれ落ちた夜』は、歴史の長いピンク映画にも、まだこうした「攻め方」があったのかと感嘆させられる作品だ。

夫を事故で亡くした女性(乙白さやか)は、区役所を定年退職したばかりの義父・一雄(吉田祐健)と二人暮らしを続けている。お互いを思いやる気持ちの底には恋情もあった。
小松脚本は、本作においてはセリフを極力少なくし、そのセリフも、あくまで日常会話の中で、主語がなかったり、核心の部分を言わないまま、お互いの距離が縮まっていく様子を伝える、スリリングなものだ。

たとえば、女性の夫との死別は3年前。義父の妻との死別は20年前。それは長いのか短いのかという会話の中で、両者の感情がざわめいているのをそれとなく伝えるのだ。

ヒロインの夫つまり義父の息子は交通事故死であることが匂わされるが、いきなりだったために、自らの死に気づいていないのではないかという話題が命日にされる。これは、この2人が、お互いの間に横たわる大切な人の「死」を、自分たちの方が忘れることに葛藤を持っていることがあったうえでの会話だ。彼女がはめている結婚指輪は、そんな自分に対するブレーキなのだ。

また、そのような気持ちを抱えたまま一緒に暮らすことに決着をつけるため、ヒロインが旅行カバンに荷物をまとめていることがわかる場面も、そうだという説明なしに伝わるようになっている。
そしてついに、彼女が別れを決意した夜、それを察した義父との最初で最後のセックスシーンになるまでの、描写の積み重ねの丁寧さには唸らされる。

またそのセックスシーンは、エロとしての煽情性や、感情の盛り上がりを表現する道具としてそれを使うのではない、その場に居る人間たちの「いたたまれなさ」まで含めて凝視する。つまり実際のセックスの際の時間の流れを意識している。

 「OP PICTURES+」は他にも、ピンク映画はおろか、映画の枠をも超えるような野心的な作品が多数用意されている。

 私の知る限り、ピンク映画が好きな人は、映画ファンが昂じて、さらにその先を追及している人が多い。
 あなたもその仲間になりませんか?
 その入口として、最適な上映イベントです。

 
『こぼれ落ちた夜』
11/9(火)20:50〜
11/15(月)18:30〜

『されどはまぐり』
11/18(木)18:30〜
舞台挨拶あり
登壇者(予定):並木塔子、岡江 凛、石川雄也、近藤善輝、小松公典

 
映画『こぼれ落ちた夜』予告編

映画『されどはまぐり』予告編

R15+ピンク映画の祭典!11/5(金)より18日(木)までテアトル新宿にて開催中!『OP PICTURES+フェス2021』予告編

<上映作品>
「海辺の街の約束」
「ここではないどこかへ 〜わたしが犯した罪と罰〜」
「こぼれ落ちた夜」
「されどはまぐり」
「下着博覧会」
「新橋探偵物語 駅前サウナの怪人編」
「人妻、ジャンプする!」
「フルムーンラバーズ」
「ベロマリカ」
「真夏に出会ったら」
「胸騒ぎがする! 〜ヒールズ爆誕〜」

切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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