津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

ソーシャルビジネスが世界を変える――ムハマド・ユヌスが提唱する「利他的な」経済の仕組み

(※この記事は2013年3月1日に配信されたメルマガの「今週のニュースピックアップ Expanded」から抜粋したものです)

慈善事業ではない、社会が抱える問題を解決するためのビジネス――社会的企業、いわゆる「ソーシャルビジネス」が世界的なムーブメントになっています。一企業でありながら利益を追求しないソーシャルビジネスというかたちになぜ注目が集まっているのか、世界や日本の状況はどうなっているのか。そこで今回は、今年2月、東京で開催された若者の夢を支援するための一大イベント「みんなの夢AWARD」の審査員として来日した、グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスさんにお話を伺いました。(構成:佐久間裕美子)

 

ソーシャルジネスという言葉すらなかった

津田:ユヌスさんが携わっている「ソーシャルビジネス」は、日本では社会的起業・社会的企業と呼ばれています [*1] 。ユヌスさんが大きく育てたソーシャルビジネスの概念は、世界のみならず、最近は日本でも少しずつ注目を集めています [*2] 。まずお伺いしたいのは、そもそもユヌスさんがこのソーシャルビジネスに自分で取り組まれるようになった――社会問題の解決に関心を持ったきっかけは一体なんだったのでしょうか?

ユヌス:当初は「ソーシャルビジネス」などという名前もなかったんです。貧困や医療問題など、多くの問題を解決しようとする過程で、何か問題があれば、それを解決するためにアイデアを考案し、ビジネスを作る。そうやってたくさんの事業を立ち上げてきました [*3] 。これはほかの人から見ると、奇妙というか、興味深いことに思えたようです。というのも、儲けようとしてやっているわけではない。オーナー――ソーシャルビジネスの創業者は利益を上げるためではなく、問題を解決することに興味がある。初期投資が戻ってきて、その企業が自立した存在になることが望みなわけです。余剰利益が出れば、それはその企業の資産として残ります。後に、名前をつける段になって、ソーシャルビジネスという言葉を作りました。あくまでも問題を解決するために作られた、配当を出さない企業形態で、NGOともNPOとも明白に違い、またチャリティでも財団でもない。あくまで自立した企業で、ビジネス的な理念に基づいて運用される [*4] 。ひとつの大きい違いは、オーナーに利益を上げるためではなく、問題を解決するために存在するということです。それをやっていたら、人々から、そして他の国から、興味を持たれるようになりました。そのうち本を書いて [*5] 、本を読んでもらえるようになり、さらにはその本が多くの言語に翻訳され、そうやってどんどんこの考えが広がるようになりました。

1 2 3 4
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

その他の記事

先行投資か無謀な挑戦か ネット動画事業に関する是非と簡単な考察(やまもといちろう)
大きく歴史が動くのは「ちょっとした冗談のようなこと」から(高城剛)
「日本の動物園にできること」のための助走【第一回】(川端裕人)
トランプは「塀の内側」に落ちるのかーー相当深刻な事態・ロシアンゲート疑惑(小川和久)
日本のエロAIが世界を動かす… ことにはならないかもしれない(やまもといちろう)
なぜ今? 音楽ストリーミングサービスの戦々恐々(小寺信良)
新型コロナウイルスの影響で変わりつつあるスポーツのあり方(本田雅一)
「狭霧の彼方に」特別編 その1(甲野善紀)
人工知能の時代、働く人が考えるべきこと(やまもといちろう)
宇野常寛特別インタビュー第5回「落合陽一のどこが驚異的なのか!」(宇野常寛)
2016年米国大統領選候補、スコット・ウォーカー氏が思い描く「強いアメリカ」像(高城剛)
社会システムが大きく変わる前兆としての気候変動(高城剛)
週刊金融日記 第310号【教育工学も基本は恋愛工学と同じ、米中貿易戦争勃発、目黒駅の安くて美味しい立ち飲みビストロ他】(藤沢数希)
そもそも国にGAFAなどプラットフォーム事業者を規制できるのか?(やまもといちろう)
中国マネーが押し寄せる観光地の今(高城剛)
津田大介のメールマガジン
「メディアの現場」

[料金(税込)] 660円(税込)/ 月
[発行周期] 月1回以上配信(不定期)

ページのトップへ