岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

人はなぜ働くのか

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「仕事」とは何か

「人はなぜ働くのか?」という問いに答えられない人は多い。

なぜなら、「仕事」はもう何千年も存続してきたものなので、在ることが当たり前となってしまい、今さら疑問に思う人が少ないからだ。

しかし、「仕事」というのはそれほど古い概念というわけでもない。例えば、「空気」や「人間」といった概念よりはずっと新しい。

「空気」や「人間」という存在は、人間より以前からあった。だから、それがなぜ存在するのか、その理由を答えることはなかなかに難しい。

しかし、「仕事」というのはそれよりもずっと後にできた概念だ。少なくとも「人間」よりは後にできた。だから、「なぜ仕事が存在するのか?」という質問に答えることは、「なぜ空気が存在するのか?」や「なぜ人間が存在するのか?」といった質問に答えるのよりは、ずっと簡単なのである。

「仕事」というのは、確かに古くからある概念だ。しかしそれは、人間が作ったものだろう。もちろん、自然発生的にできたという側面もあるだろうが、いずれにしろ、人間の都合で生まれたものであることは間違いない。

つまり、この世に仕事が存在するのは、人間の側に何か理由があってのことなのだ。「空気」や「人間」と違って、その理由を「人間」そのものの中に求めることができるのである。

そもそも「仕事」という存在は、「人間にとって絶対に必要」ともいえないものだ。仕事がなくとも、人間というものは成立する。実際、仕事をせずに生きている人もいる。

それでも、多くの人が仕事を必要としている。そうしてこれまで、それは何千年もなくならなかった。その意味で、人間にとって仕事は、絶対に必要というわけではないが、しかしとても需要の高い存在といえるのだ。

 

人が働く、本当の理由

そんなふうに、仕事を取り巻く状況を概観することで、その「存在理由」がおぼろげながら見えてくる。そういうふうに外堀を埋めることで、その存在の輪郭のようなものが浮かびあがってくる。

では、上記を踏まえた上で、あらためて考えてみる。

「人はなぜ働くのか?」

その答えは、こうである。

人が働くことの本当の理由――それは、仕事があると心が安らぐからだ。

それが、ほとんど唯一にして最大の理由なのである。

多くの人は、仕事が存在する理由を「それをしないと生活できないから」ととらえている。しかし、それは大きな誤りだ。

なぜなら、仕事というのは、えてして生活に困っていない、お金持ちほどするものだからだ。もう一生遊んで暮らせるような大富豪でも、人一倍働く人は数多くいる。

だから、人が仕事をするのは、生活をするためではない。またもっと別の理由によるものだ。

ではそれが何かといえば、「心が安らぐ」ということにつきるのである。

人間は、仕事をすることによって「この世に生きていてもいいんだ」という実感を得ることができる。簡単にいうと「居場所」ができる。そして人間は、社会の中に居場所ができると、とても心が安らぐのである。

しかし、居場所がないと、とても不安になる。精神が不安定になり、いてもたってもいられなくなる。有り体に言って、心が病む。心が病むと、生きていくことも覚束なくなる。そうして、早晩死ぬこととなるのだ。

仕事をしない人には、2種類のタイプがいる。

一つ目は、仕事をしないことで心を病む人。

これには、例えばニートなどが該当する。ぼくは寡聞にして、ニートで心が安らいでいる人というのを聞いたことがない。皆、いいようのない不安に苦しめられている。

二つ目は、仕事をしなくても、何らかの方法で心を病まない人。

これには、例えばリタイヤした老人などが該当する。老人は、体力の衰えから働くことを諦めてきた経緯があるから、居場所がないことにもそれほど頓着しないですむ(もちろん、それも程度の問題に過ぎないが)。あるいは、これまで働いてきたことで「もう十分」というエクスキューズを得ることもできるため、働かなくてもある程度精神が安定していられるのだ。

人間は、たとえ衣食住が足りてようと、あるいはどれだけの自由があろうと、社会の中で居場所を見つけられないと、心が落ち着かないものなのである。DNAのレベルでそうプログラムされているのだ。

だから、例えば「未来少年コナン」の中では、ハイハーバーへと逃れてきたコナンとジムシーがまず取り組んだのが、自らの仕事を見つけることだった。そうしないと、落ち着いてごはんも食べられなかったからだ。

 

就活生が考えておくべきこと

これから就職しようとする就活生は、まずそのことを念頭に置く必要があるだろう。仕事をする上で何よりも重要なのは、「社会に必要とされている」という実感である、と。だから、仕事を探すときは、まずそれを得られるものかどうかという眼差しで見る必要があるのだ。

ただし、そこで間違えてならないのが、その実感を「今すぐ」にでも得ようとすることだ。

社会人一年目からそれを確保しようとすると、非常に浅いものしか得られなくなる。「社会に必要とされている」ということの深い実感を得たいのなら、その前段階として「長い修練」を積む必要が出てくるのだ。

人は、修練を積めば積むほど、自分が社会から必要とされているという実感を得られるようになる。長い努力の末、他の誰も持っていないようなスキルを身につけ、それが他者から必要とされるとき、人は、「この世に生きていていいんだ」という心の安らぎを、深々と実感することができるのだ。

まとめると、就職活動をする際に見極めるポイントは、以下の3つとなる。

1、そこで修練を積めるかどうか。
2、修練を積んだ末、他の人にはないスキルを獲得できるかどうか。
3、そのスキルが社会から必要とされているかどうか。

この3つをクリアすることができれば、人は心安らかに生きていける。
そしてそのために、人は仕事をするのである。

 

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岩崎夏海

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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