岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

近年の大ヒット映画に見る「作り方」の発明

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より



すべてのヒット作には「発明」が起こっている

『シン・ゴジラ』を見ていて、あるいは『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』を読んでいて強く感じたのは、何かコンテンツの大ヒット作品が生まれる背景には、「新しい作り方が発明されている」ということだ。

『シン・ゴジラ』の映画制作は、そのまま新しい映画制作スタイルの発明であった。平たくいうと、映画の作り方をこつこつと発明していたということである。

これは『君の名は。』にも『この世界の片隅に』にも共通しているだろう。両作品とも作品作りを通して新しい作り方を発明できた。だから、それが作品にフィードバックし、あれだけのヒットにつながったのだ。

あるいは近年の映画だと、『ゼロ・グラビティ』や『マッドマックス』も新しい作り方を発明していた。それが作品に反映されて、面白さが増していたし、ヒットにもつながった。

さらにいえば、ディズニーやピクサーなども、ここ10年新しい作り方を発明し続けていた。映画を作ることそのものが、新しいCG表現の発明の日々だった。それがエキサインティグだったから、あれだけ継続的にヒットしたのだ。
 
そう考えると、最近のCGはやり尽くされて、発明の余地というのがだんだん減ってきている。だからだんだん面白くなくなってきたのだ。これからますます面白くなくなると思う。

これはゲーム産業にもいえるだろう。今、連載でゲームの歴史を振り返っているが、思えば80年代は、ゲームの作り方そのものがまだよく練れていなかったので、ゲームを開発するには必然的に作り方を発明する必要があった。だからどのゲームも面白かったのだ。

しかし2000年代になって以降は、ゲームの作り方というのがある程度固まってきた。パターン化してきた。だから面白くなくなったのである。
 
 

作品と同じくらい「メイキング」が面白い理由

『アバター』がなぜ面白く、またなぜあれだけヒットしたかといえば、やっぱりジェイムズ・キャメロンが新しい作り方を発明しながら映画を作っていたからだ。手塚治虫がなぜ生涯現役でいられたかといえば、常に新しい描き方を模索していたからだ。

これは宮﨑駿監督にも当てはめることができよう。ぼくがここ10年で最も面白いと思っているコンテンツは宮﨑駿監督のドキュメンタリーなのだが、なぜそれが面白いかといえば、すなわち宮﨑監督が新しい作り方の発明をしている現場を見られるからだ。それこそが最もエキサイティングなエンターテインメントなのである。
 

思えばピクサーや『ゼロ・グラビティ』や『マッドマックス』も、内容と同じくらいに、もしくはそれ以上にメイキングの方が面白かったりする。

コンテンツの最大の要は作り方にこそあったのだ。そして慣れた作り方で作っていると面白くならない。慣れない作り方、というよりも全く新しい作り方を発明し、それに成功しながらでないと、真に面白い作品にはならないし、またヒットにもつながらないのである。

だから、クリエイターにとって最も重要なのは作り方を発明する能力となる。

村上隆さんも、これが非常にすぐれているから面白い。彼は日々新しい作り方を模索し、試行錯誤し、アイデアがひらめいて、それを発明している。

もちろん、それは非常に苦しい日々でもある。

作り方の発明というのはエジソンのしていたことと似ていよう。彼は「1%の才能と99%の努力」という言葉を残したけれども、今となってはそれがよく分かる。

発明というのはえんえんと苦労し続けないと生まれないのだ。ぞうきんをぎゅうぎゅう絞り続けていないとその一滴がしたたり落ちてこないのである。

だから、面白い作品を作ろうと思ったら、まずは作り方の勉強をしなければならない。

そして庵野秀明監督は、おそらく宮﨑駿さんの仕事を間近で、あるいは横目で見ながら、その方法を自分なりにアレンジすることで、新しい作り方を発明していったのだろう。
 
ぼくも、秋元康さんの近くに長年いたが、今になって振り返ると、折に触れて参考にしているのは彼の作ったものではなく、彼の作り方だ。

秋元さんもまた作り方の発明に長けていて、ぼくらの想像を絶するようなスキームで仕事というものをこなしていく。当時は、「秋元さんのやり方は想像を絶しているなあ」と他人事に見ていたけれど、今となっては、一番参考になり、しかも真似できるのはその部分なのだ。

つまり、クリエイターは作り方を他人から盗むことができるのである。そしてそれを発展させることで、新しい作り方を発明する才のヒントとできるのだ。

そう考えると、新しい作り方の発明をする上に置いて、最も重要なのは他人の作り方を見て、盗むことだということができよう。

ぼくは秋元さんのそばで、あるいは宮﨑駿監督のドキュメンタリーを見ながら、自分でも気づかないうちに、その作業を行っていたのだ。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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