というわけで、有識者検討会が始まってしばらく経つわけなのですが、その内容のアレさ加減に界隈は騒然となっています。もちろん、これは総務省が悪いわけではなく、プラットフォーム事業者間の競争が激化したいま、論点整理して「その競争の仕方はやめろ」「個人情報は大事に扱え」「きちんと日本国内に事業所を置いて日本に税金を払え」と言っても、制限をかければかけるだけ海外に軸足を置かれて規制が規制にならなくなってしまう、という問題を抱えてしまっているわけであります。
Google、Appleなど巨大IT企業の規制強化へ 政府の有識者会議が提言「透明・公正性の確保必要」
朝日新聞はもう一歩踏み込んで、書面ですらヒヤリングに報じなかったAmazonが名指しになっています。
これらの海外資本のプラットフォーム事業者に対する規制論のむつかしさは、論点として大きく分けて2つあります。
1つは、国内法であれやこれや制限をかけてみても、海外で日本語向けサービスとしてリリースされてしまうと規制の実効性が伴わないこと。
もう1つは、いかに合理的な規制であったとしても、海外勢はそもそも守る気はありませんので、日本国内事業者だけが制約をされてしまう可能性が高く、国内事業者が不利になることです。
なので、二言目には必ず「国際協調が大事だ」という話になりますが、これらの有力な事業者を抱えているアメリカと、日本も含めたそうでない国や地域とでは、利害関係が全く異なります。そして、日米の二国間交渉を行っても、埒が明かないのは戦後日本経済の輸出産業の歴史を振り返れば誰もが簡単に思い出し、理解できるような不毛さを感じるようになるのです。
ここに中国政府と中国共産党というパラメータも入ってくるわけなのですが、中国政府がGoogleに対して「中国政府による検閲を受け入れれば中国国内での事業を認めてやる」という話をするだけのパワーは日本にはありません。また、優秀な技術者や抱えている技術、社会風土による浸透圧もありますので、基本的には退勢である日本はむしろ真剣に考えて「何を守り、何を譲り、生き残るべきか」を考える必要に迫られているとも言えるのです。
結果的に、有力な国内のプラットフォーム事業者が海外で苦戦し、海外事業者が日本法にあまり縛られることなく日本でやりたい放題の現状が続く限り、日本のデータは外に流出していってしまう前提で物事を考えなければならない、という点で、常識的な産業論や規制の在り方とは非常に性質が異なります。平たく言えば、これほど打つ手がなく、勝ち目のない戦争も珍しいというぐらいに、日本の当局が知恵を絞れば絞るほど負けが込むという状態からどう脱するべきかということになるわけであります。
基本的には、この暴風のような国際資本やデータ資本主義の圧力は、いずれ訪れるグローバルリセッションがあれば、いったんは生き残ることもできましょう。しかしながら、不況はより合理的なほうを残します。つまり、今の日本の既存の社会や産業、サービスより、他国のほうが優れていたら、一時的に勢いが止まったとしても次に来るのは国内産業の崩壊にすぎません。やはりみな、カネがなければより効率的で、便利で、採算に合うほうを使おうとし、劣後なサービスしか提供できない国内勢は、一息ついたあとで一気に沈没することだって考えられるわけです。
あり得るとするならば、「透明性と公平性が大事だ」と言って、これらが欠ける疑義が出るものについては、きちんとプレッシャーをかけられるように準備をしておくことに尽きます。有識者の皆さんに情報提供をする過程でお話をしてみると、非常にエレガントなことを仰るのが気になるのです。背広を着て上品にやって負けるよりも、徒党組んで槍持って突入したほうが勝利に近いことはあり得ると思うのですが。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.245 GAFA問題について率直に思うこと、野党が抱える大変さ、停滞気味なスマホビジネス界隈を語りつつ、ちょっとだけ怪文書の話なども
2018年12月3日発行号 目次
【0. 序文】そもそも国にGAFAなどプラットフォーム事業者を規制できるのか?
【1. インシデント1】「野党大変」
【2. インシデント2】 iPhone販売不振などのニュースから感じるスマホビジネスの転換点
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント4】エイベックス関連などで不審な怪文書が出回って騒ぎが広がるの巻
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