やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

環境省が目論む「炭素税」の是非と社会転換の行方


 ということで、本丸の議論が出てきました。

環境省、「炭素税」を要望 税制改正、温暖化対策強化

 お笑いネタとしては、03年に民間有識者も集めて炭素税研究会を担いだ際には、具にもつかない議論が並んでいて、さすがに18年経過すると議論も成熟するのかなあという趣であります。

気をつけよう! 炭素税、3つの落とし穴

 炭素税を含むグリーン税制の問題は、私も門外漢ながらいろいろとヲチさせていただいてきたのですが、いわゆる「三重の配当論」や、カーボンプライシングを社会実装するためにどういう税負担を行うのが国民にとって適切かという話になるのは当然のことです。

 一連の議論においては環境省が「俺の出番だ」とばかりに小泉進次郎さんを陣頭において頑張っているところなのですが、炭素排出削減の目標と、それに至るエネルギー政策や住宅・オフィスなどの断熱も含めて熱利用効率の問題など、いくつか並走する問題を解決していかなければなりません。

 単純な話、炭素税は純粋増税となる可能性が高いだけでなく、カーボンプライシングも含めた議論であるならば当然のように二酸化炭素を排出する製造業や輸送業、サーバなど大量の電力を使うソフトウェア産業には大きなマイナスの影響が出ます。つまり、経済において付加価値を高めて外貨を稼ぐ産業に、コルステロールのようにコストが乗っかり資金が流れなくなってしまう怖れがあるので、脱炭素社会が実現できそうな技術革新に投資を進めるにせよその実現が可能かどうかの見極めが大事だとも言えます。

炭素税と三重の配当論

 ネックになるのは、日本国内のエネルギー効率や炭素排出量と一口に言っても、県によって全然状況が違う、という点です。

 例えば、大正義東京都は人口が多いうえにエネルギー効率の良い大規模な輸送機関(中央線)があるので、国民生活で脱炭素やという話になると車両の総量規制や稼働していないエスカレーターを止めたり、中長期的には断熱をしっかりした住宅への転換支援といった施策がメインになります。

 ところが、県民一人あたりの二酸化炭素排出量上位はとなると、順に大分・岡山・山口・和歌山・広島となり、さらに平均上位には北海道・秋田・青森・山形とずらりと寒冷地が並びます。世帯で見れば、実に東京の二倍近くの二酸化炭素を排出していることになります。これも、単純に住宅の断熱を含めたエネルギー効率と、生活のための足が車に依存していることが根拠になります。確かに近くのコンビニまで50kmもあるような豪雪地域は「二酸化炭素出すな」と言われても無理というのはうなずけます。

家庭CO2の市町村別推計:地域特性に応じた対策の推進に向けて

 なので、脱炭素社会時代の産業は、二酸化炭素をある程度出してしまう産業は国内向けに、海外サプライチェーンなどに加担して猛烈な排出削減とグリーン電気の調達に走らなければいけない多国籍企業へと経済が二分されていくことでしょう。おそらくは、それ以外に我が国が一般的な脱炭素を実現するのはまず不可能ということでもあります。

 そのうえで、トヨタやトヨタ、トヨタなどの自動車産業については自前のクリーンエネルギー創出に向けて技術革新のお金を出しつつ、EV中心の自動車社会への転換を促していかなければならないという地味に難易度の高い無理ゲーへと突入します。大変だと思うけどやらないといけない流れなので、トヨタイムズとか見てていろんな正論は言ってるけど世の中正論だけじゃ駄目なんだろうなあと思わずにはいられない流れになっているのが興味深いところです。 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.342 来るべき炭素税に向けての覚悟を問いつつ、米大手プラットフォーマーと反トラスト法の軋轢やこれからのサイバー防衛を考える回
2021年8月27日発行号 目次
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【0. 序文】環境省が目論む「炭素税」の是非と社会転換の行方
【1. インシデント1】アップルストア「寺銭30%撤回」の反トラスト話と余波
【2. インシデント2】ひっそりとはじまったACD議論と着地点に関する考察
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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