高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「どこでもできる仕事」と「そこじゃなきゃできない仕事」

高城未来研究所【Future Report】Vol.586(9月9日)より

今週は、エチオピアのカファにいます。

8世紀中頃、カルディと言う名の羊飼いの少年が飼っていた一匹の羊が、突然ピョンピョンと飛び跳ねはじめました。
なにやら木に成っていた見慣れない赤い実を食べた様子で、カルディも恐る恐るその実を口に入れてみたところ、なんとも言えない甘酸っぱさがあって、しかも、なんだかウキウキ気分。
こうしてコーヒーの豆(アラビカ種)が発見され、カファ→カフェ→コーヒーと名を変え世界中に知られることになります。

コーヒー発祥の地、カファ。
ここは、いまでも世界有数のコーヒーの産地ですが、実はエチオピアのコーヒーの大きな特徴は、国内消費が非常に高いという点にあります。
年間生産量650万袋のうち約半分が国内で消費され、残り半分が輸出される地産地消農産物なのです。

エチオピアのコーヒーは一人で楽しむものではなく、家族や友人、仲間たちとテーブルを囲み、会話や交流を楽しむソーシャルツールです。
女性が鍋でコーヒーを炒って挽いた後、ジェベナと呼ばれる特殊な抽出用ポットでお湯と混ぜ合わせます。
香木をモクモク焚きながら濃い目のコーヒーを小さなカップに注ぎ、さらに新しい熱湯を加えて2回を抽出。
およそ1時間ほどかけて行うこの作業は、おもてなしの心や社会的な規範とされ、家族の団欒にも欠かせません。

また、エチオピアの農家の多くは1ヘクタール以下の小作農で、販売予定もない自分たちの分を自分たちだけで育ている人も多く、これらは「ガーデンコーヒー」と呼ばれています。
その他、輸出向けを狙い、英国のブランドマネージャーが携わるプランテーションも多々ありますが(日本の大半のサードウェーブ豆はこちらです)、平均的な生産者は商業販売用のコーヒーをほとんど栽培していません。

つまり、エチオピアに行かなければ、輸出向け大量生産とは異なるエチオピアン・ガーデン・コーヒーを飲むことはできないのです、と五年前に訪れた時にわかり、今回、やっと再訪することができました。

各家庭によって異なるフレッシュなコーヒーを独自製法で作るエチオピアン・コーヒー。
今週は、先週に引き続き「2022年夏私的なベスト・ヘッドフォン(アンプ編)」を発表する予定でしたが、すっかり日々コーヒー三昧で心臓もバクバクし、それどころではありません。
たぶん一種の急性コーヒー中毒で、頭のなかの85%がコーヒーに占められています。
それほど、エチオピアン・コーヒーと紫の煙の中で行われる「儀式」には、中毒性があります。

改めて考えると、どうやら僕の文章はその地に出向かなかれば書けない様子です。
秋葉原に行かなければ書けない文章があり、同じく、エチオピアに来なければ書けない文章があります。
確かに今年キューバで撮った映画脚本の大半も、行ってから書きました。
これは、昨今話される「どこでもできる仕事」とはまったく逆で、「そこじゃなきゃできない仕事」を、僕はいつも行っているんだな、とコーヒー中毒になったいま、自分なりに考える今週です。
まるでビート・ジェネレーションの作家のように。

ちなみに成田空港はガラガラで、日本から出るのも入るのも、まだまだ相当な時間がかかりそうです。
世界は変わりましたね、良くも悪くも。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.586 9月9日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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