高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

21世紀の黄金、コーヒー

高城未来研究所【Future Report】Vol.617(4月14日)より

今週は、コロンビアのボゴタにいます。 

都市圏人口1000万人を超えるメガシティであるボゴタは、アンデス山脈に囲まれた標高2640メートルに位置しており、赤道が近いにもかかわらず、気候は高山気候性に入るため、雨季である現在は暑くないどころか寒い日が続きます。

かつて、北部にあるグアタビータ湖では首長が全身に金粉を塗って水中に奉納品を沈める儀礼など「金」に纏わる祭事が多かったため、このあたりは「エル・ドラード」(黄金郷)と呼ばれていました。
先史時代からこの地を支配していたのはコロンビアの先住民族ムイスカ族でしたが、黄金郷の噂を聞きつけたスペイン人が、16世紀に次々と来襲。
ゴンサロ・ヒメネス・デ・ケサーダ率いる探検隊が大西洋岸のサンタ・マルタから南下してこの地にたどりつき、ムイスカ族を征服して、植民都市サンタ・フェ・デ・ボゴタを建設しました。これが、いまのボゴタの原型となります。

このような由来から年間4000万人近い旅行者が利用するボゴタ国際空港も「エル・ドラード国際空港」(Aeropuerto Internacional El Dorado)と名付けられています。

そして現在、パナマのコーヒー「ゲイシャ」のように、21世紀の黄金を求めて、この地に多くのハンターたちが訪れるようになりました。
その黄金の名は、「ユーゲニオイデス」。
コロンビアでしか栽培されない超希少品種のコーヒーです。

一般的にコーヒーの種類は、「アラビカ種」「カネフォラ種」「リベリカ種」の三種だと言われますが、「リベリカ種」は栽培地や生産量も限られていてほぼ流通していないため、実質的に「アラビカ種」「カネフォラ種」が、コーヒーの二大種です。

繊細で慎重に育てなくてはならないけど美味しい「アラビカ種」は、「ブルボン」「ティピカ」「ゲイシャ」など、その土地に適した品種が栽培され、高級コーヒーの代名詞と目されてきました。

一方、病気に強く頑丈な「カネフォラ種」は、アラビカ種ほど品種が多いわけではなく、その多くが「ロブスタ」なことから、一般的に「カネフォラ種」=「ロブスタ」と考えられていますが、最近は「ファイン・ロブスタ」と呼ばれる高級「カネフォラ種」も登場しています。

そんな中、人間の遺伝子解析で用いられていた次世代シーケンサーを活用してコーヒー豆の遺伝子を深く追いかけると、実は「アラビカ種」は原種ではなく自然交配種である、つまり親品種があるということが判明したのです。

では一体、世界中でエチオピア原種の超高級品だと思われていた「アラビカ種」の父と母は、どこのどの種なのでしょうか?

遺伝子解析研究によれば、父方=「カネフォラ種」と母方=「ユーゲニオイデス種」だと判明。
「ユーゲニオイデス種」はブルンジ、ルワンダ、コンゴ、ケニア、タンザニアなどに生息していましたが、樹高5mにまで成長するので収穫が困難な上に、1本の木からたった150gしか実をつけないこともあって、長年放置状態でした。

この栽培に挑戦したのがコロンビアのいくつかの農園で、長年かけて「実」を結びました。
こうして収穫された希少な「ユーゲニオイデス種」に目をつけた世界中のバリスタが、かつてのスペイン人同様いち早く黄金を求めようと、この数年、続々とエル・ドラード目指して訪れました。

そして、2021年開催の「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」では、なんとトップ3位までのバリスタ全員が「ユーゲニオイデス種」を使って入賞を果たしたのです。

さて、僕がコロンビアまで来て飲んだ「ユーゲニオイデス種」のコーヒーには、なんとも言えない甘味がありました。
その上、カフェインが少ないことから何倍も飲めてしまう不思議なコーヒーでした。
ただし、現地価格でも一杯5000円以上します。

21世紀の黄金とも言うべきあたらしいコーヒーを巡る冒険。
僕の旅は、まだまだ続きます。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.617 4月14日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

「OP PICTURES+フェス2022」石川欣・髙原秀和 80年代デビューのピンク俊英たちが新しい時代に放つ爆弾!(切通理作)
米朝交渉を控えた不思議な空白地帯と、米中対立が東アジアの安全保障に与え得る影響(やまもといちろう)
ファッショントレンドの雄「コレット」が終わる理由(高城剛)
津田大介メールマガジン『メディアの現場』紹介動画(津田大介)
ガイアの夜明けで話題沸騰! 15期連続2桁増収のスーパーの人事戦略を支える「類人猿分類」のすごさ(名越康文)
kindle unlimitedへの対応で作家の考え方を知る時代(高城剛)
中国人が日本人を嫌いになる理由(中島恵)
雨模様が続く札幌で地下街の付加価値について考える(高城剛)
玄米食が無理なら肉食という選択(高城剛)
貧富の差がなくなっても人は幸せにはなれない(家入一真)
ポストコロナ:そろそろコロナ対策の出口戦略を考える(やまもといちろう)
Adobe Max Japan 2018で「新アプリ」について聞いてみた(西田宗千佳)
一から作り直した「非バッファロー的なもの」–『新おもいでばこ』の秘密(小寺信良)
メタ視点の鍛え方(岩崎夏海)
「控えめに言って、グダグダ」9月政局と総裁選(やまもといちろう)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ