小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「HiDPIで仕事」の悦楽

小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2015年12月11日 Vol.061 <来年のこともにらみつつ号>より



ついに一太郎もHiDPIの時代

先日、ジャストシステムが、来年2月発売の「一太郎2016」の発表会を行った。同社は毎年この時期に発表会を行い、2月半ばに新しい一太郎とATOKを発売する。もはやIT業界年末の風物詩となった感がある(少なくとも、古株のPC系ライターには)。

そしてこの時、同時に新一太郎のβ版が配布される。今年も同様だ。昔はDVDで評価用β版を配るメーカーも多かったのだが、もはやジャストシステムくらいになってしまった。筆者としても、今年光学ドライブを持ち出したのは、これで3度目くらいのような気がする。

そんなことを思いながら、これまたテスト中のSurface Pro4に「一太郎2016」をインストールしてみて、筆者はちょっと驚いた。いや、予想はしていたが、想像以上にグッと来た。

「やっはり、HiDPIはいいなあ……」と。

・一太郎2016。別の環境との比較のために、あえて画面を分割し、右側ではTwitterクライアントを動かしている。

Surface Pro4の画面解像度は2736×1824ドット、画面サイズは12.3インチだ。すなわちDPI換算すると267DPIとなる。(ディスプレイにおいてはピクセル・パー・インチ、PPIで表記する場合が多いが、あえて本原稿ではDPIで統一している)

タブレットやスマートフォンがそうであるように、もはや解像度では紙への印刷物の世界に近い。こうした環境を「HiDPI」と呼ぶ。Windows 8以降、マイクロソフトはHiDPI環境をを意識した開発を行ってきたし、Windows 10ではそれがさらに進んでいるが、こと実際の使い勝手という意味では、HiDPIで快適に使えるソフトはまだまだ少ない。ブラウザーを含め、今年になっていくつかのソフトが対応しており、ようやくマシになってきたな……というのが筆者の印象だった。そして、一太郎は「HiDPI対応でない」アプリの代表だった。

それが今回、ようやく、ではあるが、HiDPI対応した。一太郎はWordに比べても日本語の扱いでは優位な点がまだある。そして近年は、パッケージに良いフォントをバンドルする例が増えている。

一太郎2016では、モトヤ系の書体が採用された。パッケージの種類によっても数は異なるが、さきほどの画面で使っている「モトヤUP新聞明朝」と「モトヤUP新聞ゴシック」はすべてに付属する。これで文章を書いてみると、Surface Pro4のディスプレイの優秀さと相まって、こう、なんとも言えない快適さを感じるのだ。

マイクロソフト製のアプリはすでにHiDPI化を終えており、Wordでももちろん美しい表示になる。「モトヤUP新聞明朝」と組み合わせると、これはこれで作業が捗りそうだ。

・マイクロソフトワード2016で、「モトヤUP新聞明朝」を使って表示。こちらもHiDPI化の効果は絶大だ。

 

フォントレンダリングではアップルに一日の長

筆者は普段、Windowsでなくマックを使って仕事をしている。理由は、2012年末より「Retinaディスプレイ搭載」という形で、いち早くHiDPI化しているからだ。現在一番使う時間の多いMacBookも、「薄くて軽いのにRetinaディスプレイ搭載でHiDPI」であることがなによりの魅力である、と思っている。こちらでは、OS X El Capitanより組み込まれている「クレー」というフォントを使って原稿を書くことが多い。

・MacBookで筆者は普段原稿を書く時の、一般的な画面。HiDPIでのフォント表示が、作業ストレスを軽減してくれる。

こうして書く時にフォントを変える理由は、単純に読みやすくなるからだ。修飾としての意味ではなく、他人に渡す時はこのフォントのまま見てもらうことはまずない。そもそも相手が持っているとも限らない。一見無駄に思えるかもしれないが、「自分が作業する画面の美しさ」にこだわることは、作業する上でとても大切なものだと、筆者は考えている。だから、どんなに面白そうでも、自分が実際に作業をする機器では、最低でも200DPIを超える環境が譲れない。

そういう観点では、最近発売されたばかりのiPad Proも、「HiDPIで文章を作る」のが快適な環境だと思っている。マックやWindowsのようにフォントに凝ることはできないが、元々のフォントレンダリングが美しいこと、画面分割のUIが「機能は少ないが使いやすい」良いバランスになっていること、そして、やっぱり画面が大きくて美しい(12.9インチで264DPI)ことが魅力だ。

・iPad Proでの作業画面。かなりマックに似ているが、画面分割の「Spritview」機能の優秀さから、実はこちらの方が使いやすい面も少なくない。

アップル系の美点は、なによりフォントレンダリング品質が良いことにある。マックも良いが、iOSはさらに良い。Windowsも改善は進んでいるものの、UI用に使われている「游ゴシック UI」とそのレンダリング品質がどうも今ひとつだ。前出のWindowsの画面を見ていただきたい。UWPアプリであるTwitterクライアントは強制的に游ゴシック UIが使われるため、美観的に一歩も二歩も劣る。

日本マイクロソフトも、不評であること、問題があることは認識しているものの、Windows XP時代から使われる「UIゴシック系」との互換性問題もあり、いきなり抜本的解決を実現するのが難しいようだ。

HiDPIハードウエアが当たり前になり、これだけのクオリティが実現できる時代なのだから、アプリメーカーも、HiDPIへの対応を積極的に進めてほしい。PCが売れない時代、と言われるが、「過去のPCよりもずっと美しい表示」が、苦もなく使える世界になるのなら、買い替えを考える人も増えるはず。PCが道具であるなら、まずこの問題に真剣に取り組むべきだ、と筆者は確信しているし、今回、改めて「もうHiDPI以外には戻れない」と思っているところだ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2015年12月11日 Vol.061 <来年のこともにらみつつ号> 目次

01 論壇【小寺】
 子供にスマホを持たせる前に
02 余談【西田】
 「HiDPIで仕事」の悦楽
03 対談【小寺】
 ブライダルビデオ業界の掟 (1)
04 過去記事【小寺】
 テレビだけではない、シャープ失速の理由
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

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筆者:西田宗千佳

フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

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