
このところ、幾つか発達障害や2Eと言われるギフテッドな子どもと特殊な能力を併せ持つ医療の現場を見ていて、ようやくADHDが「障害」ではなく「才能の一つ」と認知されるようになってきた、という話が出てきました。
私自身も幼少期はディスレクシア(失読症)傾向と診断され、母親や周辺の支えもあって何とか乗り越えてきた経験もあるので、脳の機能が正常であっても障害とされてしまう世界についてはずっと違和感を抱いてきました。また、一種の過剰記憶については長年悩まされてきていまでこそそういう特殊な高揚感を自分の中で処理できるようになったものの、小学校から高校ぐらいまでは本当に苦しかった記憶しかありません。
一方で、EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシーメイキング)と呼ばれる一連の潮流は、実際にはPBEMと揶揄される「政策方針に説得力を持たせるためにエビデンスを作る」状況を惹起し、日本では特に厚生労働省の統計問題に端を発した統計不信にまで広がってしまったというのは残念な経緯です。
そして、社会福祉や教育の観点からも、これらのEBPMはより透明性を高める必要が出てくるわけですが、マクロ経済とミクロ経済の垣根を実質的に壊した行動経済学と同様に、単なる統計的な処理で学習効果が上がった下がったと見ながら政策決定していく教育経済学についても過剰すぎる期待感に見合う成果を出さなかったことが明確になりつつあります。
というのも、臨床の中でも教育や精神障害に関わる部分は教育経済学では「捨て」の部分であり続けました。例えば、子どもは褒めて伸ばしましょうという教育経済学や教育心理学の根幹の部分にある問題は、別に私たちは褒められたくて学んでいるわけでもなく、褒められたところで目の前の文字が読めていないのですから(光景としてしか記憶できていない)、いくら教育経済学的に正しいとされる教育技法で5割以上の児童が学習効果があるとされても常に外れ値として扱われ続けてきた人生だったと思うわけです。
おそらくそのような閾値の外、外れ値として扱われ続けてきた発達障害の子どもたちや、私たちのような一種変わった特性を持つ人間にとっては、ICT時代で人工知能でという昨今の流れは福音以外の何物でもありません。しかしながら、現在文部科学省と経済産業省の間でテーマは違えども結論としては似たようなPC配布とデータ活用という教育改革の骨子が並立し、2025年までに対応するという話が出てきて唖然とするわけであります。もちろん、予算がついて良い形で話が進んでくれればそれに越したことは無いのですが、なぜこの時期に、類似した二つの報告書や提言が出てくるのでしょう。このままでは、文科省がやってます、経産省が取り組みますと二つの予算が… 出るわけもなく、財務省から「まとめろ」と言われてしまうことになるのでしょうか。
「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」について(文部科学省)
令和の教育改革に向けた、「未来の教室ビジョン」をとりまとめました 「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言(経済産業省)
子どもに一人一台のPCを配ることだけが目的なのではなく、きちんと学習データを吸い上げ、学習の習熟度に応じた適切なカリキュラムが個人個人に組まれて高い学力を目指す、これがICT時代を迎えたこれからの学習の基本になっていくと思います。その場合、生徒と先生のあり方も変わっていくでしょうし、学校の仕組みも役割も、どんどん変容していくのではないでしょうか。
最後に、私が大学生のころは、教諭になるための教員試験の倍率はだいたい5倍ぐらいで、みんな教諭になるために頑張って勉強していました。しかし、昨今の教員資格認定試験の倍率は実効で概ね1.2倍ぐらいと言われ、いまや優秀な人が教師を目指さない時代となったと言えます。
馬鹿が教える教育の現場は悲惨ですが、現実には大変に厳しい環境で長時間労働を強いられるのが日本の現状であることを考えると、教師教員教諭のなり手不足は教育の荒廃を意味します。これはもう待ったなしでICT化を進めていくべき状況で、学校教育を取り巻く環境の激変をどうカバーしていくべきなのか本気で考えなければならない時期に差し掛かったと言えるのではないでしょうか。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.265 教育経済学について語りつつ、NewsPicksはどうなっているんだという話や顔認識テクノロジーと治安維持について考える回
2019年6月28日発行号 目次

【0. 序文】教育経済学が死んだ日
【1. インシデント1】NewsPicksの乱調話とネットメディアの相克
【2. インシデント2】顔認識テクノロジーと個人のプライバシーと治安維持とビジネスのバランス
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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