やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

国民民主党を中心に動いていた政局が終わり始めているのかどうか


 個人的には国民民主党のようにポピュリズム的手法を取りつつも、いまの制度下で割を喰っている勤労世帯に対してしっかりと光を当て、社会保険料負担を減らす方向で政策審議をするというのは(手法として望ましいかどうかの意見はあれども)仕方ない面はあると思っています。

 実際、中道勢力を標榜しながらも立憲民主党よりも見た目の支持率が各種調査では高く出るようになり、勢いがあることは間違いありません。国民有権者が求めている政策像というのはおそらくそういうものなのだと思うので、あくまで国民有権者の生活者目線で必要な政策を主張していると思われているからこそ必要な政策を主張できているのだという小泉進次郎構文的なトートロジーさえ感じる面はあります。

 で、1月も中旬を過ぎると国民民主党と友党公明党との3党合意の中身について具体的な政策的着地をやろうとしていたら、急に「やらなくて良さそうな展開になった」と言われてしまうわけでありまして、あら、これはいったい何があったって話になるわけですよ。検討を加速していたら急ブレーキを踏まれたわけですからね。

 これは、並行で進めていた日本維新の会との高校無償化0.6兆円に関する政策審議が山場を(なんとなく)迎え、まあこれで合意できて維新が予算案に賛成してくれるんなら3月末は通せそうだし、他の面倒くさい法案(例えば選択的夫婦別姓制度)について吟味する必要もありませんから、これで乗り切れるなら当面いいじゃん、みたいな話になるのであります。

 ただ、人柄的なものはともかくとして、前原誠司さんをどこまで信頼できるのかっていう点では、過去に起きた様々なやらかしを見ている人たちからすると「ちょっと仕込みが早すぎるんじゃないか」ってのが気になるわけですよ。合意したものは着実に実現するであろう石破茂さんに対して、前原誠司さんというのはストレスに弱いというか、何か強い突き上げが発生すると割と簡単に流れて行ってしまう政治家としての「やさしさ」みたいなものを持っておられる人で、そのたびに、良いように利用されて、組織のトップに上り詰めた後にぶっ壊してみたり、小所帯だけどこれから盛り上げていこうと思っていたはずなのに代表選で負けた後にぶっ壊してみたり、良い人であるが故の弱ささえも感じさせる軌跡がそこにあるのです。

 それでも人望があって前原さんについていくぞという人がいるからこそ、という面もありますが、いまの維新で見てみると、正直申し上げてガバナンス的には非常に脆弱な状態であるにもかかわらず前原さんを上に持ってきてしまって、本当にこれでいいのかという議員さんも多数おられます。まあ、たまたま昨夜そういう話を飲んでて相談されたとかそういう話でもないんですが、みんな「絶対に前原さんについていくぞ」とか「俺の目の黒いうちは前原の好きにさせん」などの熱量高い組織運営で激論している、というのではなく、「あー、まあしょうがないんじゃないの、いまのウチは」とか「風頼みで成り立ってきた組織だし、風が止んだら停滞するのも当然だよねー」みたいなゆるーい冷めた見方で維新組織内が動いているんじゃないかとすら思えてしまう。

 吉村洋文さんはものすごく名声もあるし頑張るタイプの人なのでそこはみんな買っているからこそ代表選で勝って馬場伸幸体制の後継となったわけですけれども、そのポジションはあくまで「大阪府知事」であって、国政を担っている人物ではありません。ただ、党代表として責任ある政策協議を他党とするにあたっては、党内での決定は吉村さんが為すべきところ、交渉の前面はやはり国会議員で、かつ、その辺の経験が深い人が行わなければ話にならないということで、立っているのが前原誠司さんなわけです。

 これは、維新にとっても自由民主党にとっても嫌な予感しかしない枠組みなのであって、単に議会運営のために個別で相対の話をするよと言って出てきたのが前原さんでしたという話ではなく、ガチモンの予算折衝での多数派工作という政争ど真ん中のところで敷かれた座布団に前原さんが座って議論するというのはさすがに、こう、大丈夫なのと思ってしまうわけです。あなた、半年前は国民民主党にいた方ですよね?

 また、悪く言えば高校無償化0.6兆をお土産に石破茂政権の立ち上げた予算案を賛成してくれるというのは、その程度のお土産だけで維新さん賛同してくれてありがとうという話に過ぎず、さらに6月24日の通常国会会期末で飛び出す内閣不信任案も大阪万博で出る赤字を大阪府市だけでは負担できないだろうから国が肩代わりしてあげるので反対に回ってくれるよねっていう含意まで見え隠れするのは維新にとって良いことなのかどうか…。これで維新に勢いがあれば、こんなはした金のネタで釣り上げようなんてふざけるなよって言うんでしょうが、実際にはどういう形でもいいから政局にしっかりと維新が絡んで党勢の低迷に歯止めを掛けたいという実質的な負け組連合で当面の政策が決まるというしょっぱい流れになりかねません。

 正直本当にこれでいいのかと思わないでもありませんが、本当にこれでいい雰囲気になってきていて、立憲民主党も特別に攻め込むネタが政治とカネぐらいしかないため特に話題にもならず、緊張感はあるんだけど見た目は非常に弛緩した状況が続いています。

 前原さんを窓口に維新と詰めているはずが、決着しましたと言って外に出してみたら、維新の議員さんが前原さん裁定に同意できず維新の中が壊れてしまうことも考えられる状況の中で、自民党としてのガースー中心に一本釣りをしないといけない状況になってきたんじゃないのか、というのは思いますね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.467 政局の変わり目をそこはかと感じ惑いつつ、希望を見いだせない高額療養費制度の行く末やモラルを欠いたかに見える米国暗号資産動向を論じる回
2025年2月4日発行号 目次
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【0. 序文】国民民主党を中心に動いていた政局が終わり始めているのかどうか
【1. インシデント1】高額療養費制度の上限アップ問題に見るこれどうすんだ感
【2. インシデント2】米大統領選を契機に米国の暗号資産界隈が盛り上がっている件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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