やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

俺たちの立憲民主党、政権奪取狙って向かう「中道化」への険しい道のり


 私のクライアントであるコンサルティング会社から急に言われて、突然変な研修会みたいなのに行ってきました。メルマガに書いてくれというので、そんなら書きますよということで記すわけですが… なんかこう、野党陣営の皆さんと時間をかけて話し合うということがこんなにも苦行だったというのはどうなのよという感慨も含めて読者の皆さんに共感の嵐を湧き起こしたいと思っております。

 そもそも、私ども情報法制研究所や関係団体に委託いただく調査業務というのは、大きく分けて官公庁系、シンクタンク系、コンサルティング会社系、メディア系(たいていは調査でのご協業)と分かれるものの、表に出てくるのはほんの一部で、支持率や投票関係に限られます。

 一方、景気や消費行動といったマーケティング系のデータと一緒に定点観測で調査をするには調査設計・手法のノウハウや過去の調査の積み重ねがどうしても大事で、やればやるほど門外不出になっていくのも仕方がないのかなとも思います。

 で、今回重要な選挙と位置付けられていた沖縄県議選のあと、都知事選と都議補選があり、政党もコンサル会社も皆さん「有権者は政治に対してどう思ってるのか」ってのが最重要課題だとテーマセットしていたわけです。そりゃそうだよねと思いつつ、よっぽど大きなスキャンダルや事件、天災でもない限り、国民が政治に求めるものというのはいきなり大きく変わったりはしません。

 例えば、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故に関しては、地震の多い日本人にとっても災害対応や復興、さらに原子力発電所に対する賛否で大きく動くこととなり、結果としてエネルギー政策・安保にも影を落とすことになりました。ただ、社会変革という観点からは「絆」だ「つながり」だとさまざまな情緒的な言葉が国民の間で飛び交ったにもかかわらず、政治手法に大きな変更点はなく、旧民主党が国民からの支持を失っても復権した自由民主党が安倍晋三政権や後継の菅義偉・岸田文雄両総理を経ても大きな枠組みの変更をすることはありませんでした。

 日本社会も大きなゴーイングコンサーンとして成立している以上、ちょっとやそっとの事件や事故では政体や政治に対する国民の考え方に変更はないので、憲法改正も社会保障もすぐさま手を入れようという話にならないのもむべなるかなと感じるところはあります。有権者にとって政治に対する最大の関心事は「生活」なのであって、その微分として「年金・社会保障」や「景気・雇用」が有権者の投票要件で上位に来るのは当然とも言えます。

 過去に、小沢一郎さんが私党を立ち上げるにあたり「国民の生活が第一」と掲げたのも、本来はこれらが実際の有権者の要望であって、実はここが本来の『中道』であったと言えます。つまり、生活に安寧をもたらす政治を国民の大多数が求めており、必ずしも、左傾化というか左翼がちょっと中道右派と仲良くなったから中道なんだってのはイデオロギーの話なのであって、大多数の国民からすればどうでもいいわけです。

 また、LGBTや移民問題とか人そのものの生きやすさや差別に関する社会的話題が争点になることもありますが、前者はしょせんセックスに関係することであって中年以降いまさら恋愛だ結婚だ妊娠だと騒ぐ人たちはすくなくなると教育問題よりも急速に加齢による関心の喪失を及ぼしますし、移民問題も移民に仕事を奪われるよりもいま目の前にある人手不足で働く意欲のある人たちは日本では完全雇用になっていますから、あくまで「安全・治安」というカテゴリーで吸収されるニーズになります。どちらの問題も(私個人にとっては)相応に重要と思っていますが、有権者からするとどうでもいい政策分野になってしまっている、ということは理解されていて然るべきでしょう。

 しかしながら、いま野党の政策立案や国民へのアピールにおいては、いまだにイデオロギー中心であったり、政治分野で人口に膾炙してきた定番の話題が前面に立ってしまっています。政治をやっている人たちからすれば重要だしこだわりの対象になっている政策だったとしても、有権者の大多数に興味がない分野は票になりません。「より良く生きる」ために必要な政策なのだと言われても、その属性ではない人たちからすれば「もっと大事な政策があるはずでしょう」という話になり、それらは結局景気であり年金であり賃金であり社会保障だぞという話になるのです。

 こうなると、そのような問題に対して前面に立ちようがないインディー政党やポッと出の新人のほうが、政治に毒され過ぎた既存政党よりも期待が持てそうだ、自分たちの「生活」に対してダイレクトに改善してくれる施政を実現してくれるかもしれないという期待感で票が集まるという現象が発生します。それが、仮にどうしようもない嘘つきや問題児によって引き起こされた政治運動であったとしても。

 その点で、立憲民主党がいま揺れている「共産党と組むか」「連合と一緒に国民民主党や、場合によっては維新などとも繋がるか」という政策論争のベクトルは、今回の代表選とも別に、立憲民主党のファンではない一般の国民からすれば極めてどうでもいいことという話になります。国民からすれば、特に無党派層は、良い政治をやってくれさえすればよいのであって、立憲共産党だろうが、もとの旧民主党・民進党の元鞘に国民民主党とおさまろうが、景気が良くなり年金が増え生活が楽になりさえすればよいわけです。そういう一連の国民の生活がいまよりも良くなるであろう政策のパッケージが期待感を持って提示されることを求められているのであって、そこに貼られているラベルが仮に「立憲共産党」であったとしても、国民にとって期待の持てるものであればまったく許容されます。私は共産党を許容しませんが。

 左派政党と目される立憲民主党が、中央の無党派層を取らなければ政権奪取はできない、だから代表選をやり多くの人たちに支持される代表を選ぶのだ、というときに、まさに中道に寄るというのは彼らの言葉で言う右派にすり寄るのかという話ではなく、イデオロギーを抜いて国民の生活を良くする可能性があると期待できる政策を打ち立てることなんだよ、という話を誰かちゃんとしてやるべきだと思うんですよ。その点では、野党間の組むの外れるので翻弄され続けた泉健太さんが自前の経済政策を掲げる余裕もなく党の結束維持に腐心せざるを得なかったのは彼にとって不幸ですし、まともな党議拘束もなく好き放題いろんなことを言うことを良しとする個人主義者の集まりである立憲民主党の限界であるとも言えます。私が米山隆一さんを強く支持するのは党内の立場を維持するために繰り出す党派性の高い発言を抜きにすれば経済政策を固めるにはほぼ唯一と言っていいほどまともな判断を下せる知性の持ち主であり、そういう人が野党にいてしっかりと自公政権のアンチとして居てくれないと日本の政治が良くならないと思うからです。

 また、辛うじて結束を保ち立憲民主党が分裂することなく数年持ちこたえたのは泉健太さんの組織運営の賜物と思っていて、これは立憲の中でも評価する声がありながらも、外で多くは語られないという点で、非常にもったいないと思っています。逆に言えば、自由民主党がこれだけスキャンダルを連発し、政治とカネの問題で国民からおおいに批判され、岸田政権だけでなく自民党支持率さえも大きく落としながら、その代替・受け皿として立憲民主党の支持率が浮上しないどころか、スキャンダル前の水準にまで戻ってしまっているのは、他ならぬ中道が立憲民主党のような既存政党に自公政権から移行させても期待が持てないから支持しないと言っているに他なりません。個別には、スピリチュアルや極左、ホモ優先のようないかれた議員が発言権を持っている立憲内部の問題は由々しく、自民党も相当いかれた議員はいるけどそういう馬鹿を黙らせるメカニズムが平場にある一方、立憲にはそういう変な議員ほど悪目立ちしてしまう構造については党を上げて体質改善するべきだろうとも思います。いわば、党の政策としてイデオロギーを優先させているにもかかわらず、そのイデオロギーの定義があいまいなため、党を運営するためのプリンシプルの策定までには至っていない、というのが最大の課題なのではないか、と思います。

 そのような話を割と率直に立憲の人たちにもするわけなんですが、なんか惨敗した蓮舫さんへの同情論とか、あの選挙戦術は良かったのだからもっと浸透するように党は後押しするべきだとか、むしろマイノリティの人たちへの政策的支援が足りないのだからその辺をアピールするべきだとか、いかれたことしか言わないので、ああ立憲は立憲なんだなと感じます。たぶん、戦略は組織に従うというか、組織の文化がそうである以上は代表がいくら方針を打ち立ててもなかなか改善しないのでしょう。まあ大変だろうけど頑張ってね。

 蛇足ながら、立憲民主党にも政治とカネの問題というか、野党であるが故のパトロン問題というのはあります。私が何で立憲とつるむのと言われれば特定議員の金主とコンサル会社の繋がりで水面下で話をしないといけない立場であるからで、岡っ引き的にはお奉行が何を言うとしても幕府方が政権交代する可能性が1%でもあるのならば繋がっておかないと仕事にならないというだけなんですよね。困ったものです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.449 立憲民主党が抱える問題をあれこれ語りつつ、日本のコンテンツ産業のすそ野を守れない政府の無策やカジュアルなAI利用の増加につっこみを入れる回
2024年8月1日発行号 目次
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【0. 序文】俺たちの立憲民主党、政権奪取狙って向かう「中道化」への険しい道のり
【1. インシデント1】「クールジャパン」と言いつつ、なぜ政府は日本のコンテンツ産業のすそ野を守れないのか
【2. インシデント2】カジュアルなAI利用機会が増えている件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】河野太郎さんがデジタル大臣として壊滅的無能を晒している件について

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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