正しく怒る
このように、「怒る」という行為には「正しさ」がどうしても必要である。実際、世の中の怒りっぽい人々は、おしなべて「正しさ」をだいじにしている。あるいは、正しいか正しくないかということをいつも考えているような人だ。
そして、ここからが重要なのだが、実は、その「正しさ」というものこそ、とても難しい概念なのである。難しいというより、ちょっと危険な概念でもあるのだ。というのは、人は「正しさ」を間違えやすいのである。油断すると、すぐに誤った「正しさ」にとらえられてしまう。そして、誤った「正しさ」にとらえられると、怒りを暴走させやすい。そうして、収拾がつかなくなり、深甚なトラブルにまで発展する。
誤った「正しさ」を暴走させる典型的な例として、ドメスティック・バイオレンス(DV)があるだろう。DVを振るう人には、必ずといっていいほどその前提として「正しさ」がある。例えば、子供に過剰な暴力を振るう人は、それを正しい「しつけ」だと考えている。「子供が正しくない行いをしたから、それを正そう」という意識があるのだ。
ではなぜ誤った「正しさ」による怒りが暴走しやすいかというと、それが問題を解決できないからだ。実は、正しい「怒り」と誤った「怒り」を判別する簡単な方法があるのである。それは、その怒りが問題を解決したかどうか、だ。上記のDVの例でいうと、子供が問題を起こしたとき、正しく怒れれば、問題は解決する。その子供は、二度と同じような問題を起こさなくなる。しかしながら、それが誤った「正しさ」による怒りだと、問題は一向に解決されない。子供は、その問題を何度でもくり返す。そのため、もし怒ったとしてもその問題がくり返されるようなら、自分の感じている正しさは誤りだと思った方がいい。その問題の解決のされ方を見て、逆算して自分の「正しさ」の正誤を計るのである。
ただ、もちろんそうなる前に「正しさ」を見分けるに越したことはない。自分の正しさを正しく持てるようになれば、自然と怒れるようになるし、またその怒ったことによって、問題も解決できるようにもなる。
では、「正しさ」を正しく持つためにはどうすればいいか? 次回は、そのことについて論じてみたい。
大好評新刊!『部屋を活かせば人生が変わる』
夜間飛行、2013年11月
部屋を考える会 著
※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!
岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」
『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。
【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日
ご購読・詳細はこちら
http://yakan-hiko.com/huckleberry.html
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。
その他の記事
女子高生に改正児童ポルノ法の話をした理由(小寺信良) | |
『デジタル時代における表現の自由と知的財産』開催にあたり(やまもといちろう) | |
『「赤毛のアン」で英語づけ』(2) 何げないものへの〝感激力〟を育てよう(茂木健一郎) | |
「幸せの分母」を増やすことで、初めて人は人に優しくなれる(名越康文) | |
『マッドマックス 怒りのデスロード』監督ジョージ・ミラーのもとで働いた時のこと(ロバート・ハリス) | |
高城剛のメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』紹介動画(高城剛) | |
川端裕人×オランウータン研究者久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて>第2回(川端裕人) | |
やっと出会えた理想のUSBケーブル(西田宗千佳) | |
冬の京都で酵素浴によるデトックスに励む(高城剛) | |
「代替」ではなく「補完」することで「統合」する医療の時代(高城剛) | |
コロナとか言う国難にぶつかっているのに、総理の安倍晋三さんが一か月以上会見しない件(やまもといちろう) | |
「実現可能な対案」としての『東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(宇野常寛) | |
日本の脱原発は本当に可能なのか?――ドイツ10年の歩みに学ぶエネルギー政策(津田大介) | |
創業メンバーをボードから失った組織の力学(本田雅一) | |
脳と味覚の関係(本田雅一) |