※名越康文メールマガジン 生きるための対話より
誰もが抱える普遍的な欲求
誰かに認めてほしい、ほめられたい、賞賛されたい……こうした欲求を「承認欲求」といいます。承認欲求は、人が仕事や趣味を通して自己実現を果たしていくうえでエネルギーとなってくれることがある一方で、さまざまな問題を引き起こす原因となることがあります。
特に、承認欲求が「認めてほしい」というアピールの形で前面に出てくると、ちょっと厄介です。自分の実力や、実際に行った行動以上に評価ばかりを求めてくるのは周囲の人にとっても面倒ですし、本人にとっても満たされないという不満ばかりが募ってしまうことになる。
承認欲求をうまく解消できないのは、親との関係性が悪く、幼い頃から受け入れられた感覚を持てなかったからだ、という人もいます。そうしたトラウマを抱えた人は、大人になってからも強迫的に、他者からの承認を繰り返し求めるようになってしまうのだ、というわけですね。
そういう人がおられるのは、おそらく事実でしょう。ただ、そもそも「承認欲求というのは誰もが持っている、普遍的な欲求である」ということは忘れてはいけないというのが、僕の考えです。
どれほど成熟した人であっても、心のうちに全く承認欲求を持たない人というのはいません。
たとえば結婚式の挨拶を頼まれたとしましょう。結婚する2人を祝福する気持ちはもちろんあるし、そのためにいろいろと準備をして挨拶に臨むわけですが、心のどこかには「いい挨拶だった」「面白かった」と誰かにほめてほしい自分がいる。
この「面白いと思ってもらいたい」という気持ちがあまりに強くなりすぎると、挨拶が長くなったり、肝心の2人への祝福のメッセージがうまく伝わらない、ということになることが起きる。
この程度の承認欲求であれば、誰もが持っているし、こうした失敗は、誰しも心当たりがあるんじゃないでしょうか。人は誰しも、承認欲求のとりこになり、失敗してしまう可能性を抱えながら生きているのです。
「確認したい」が地獄への道
承認欲求は、確かに厄介です。付き合い方を間違えると、身を滅ぼす原因にもなり兼ねないものです。
ただ、他人からほめられたり、認められたりすることを一切期待しないのは、ちょっとペシミスティックでつまらないと僕は思います。仕事の先輩なり、芸事の師匠なりからほめられたり、認められたりすることは、かけがえのないエネルギーとなります。
自分の中にも承認欲求がある。そのことを認め、受け入れる。その上で、重要なことは「認められ対」という気持ちに囚われてしまわないよう、承認欲求に囚われてしまった瞬間に「手を放す」ということだと思います。
承認欲求はあっても構わない。しかし、「ほめられた」「認められた」ことを確認したり、証明したりしようとするのは地獄の始まりです。
できる人というのは、ほめられたり、認められたりしたとしても、その次の瞬間には、そのことを忘れ、次のことに目を向ける習慣を持っているものです。
承認欲求を動機に努力すること自体は決して悪いことではありません。しかし、認められたかどうかを確認しようとしてはいけない。金の卵を産むガチョウの腹を割いても、腹の中に金はないのです。
もしもあなたが、強い承認欲求によって苦しんでいるとしたら、考えるべきことは、それを捨てることではなく、承認欲求がよぎった瞬間に「手を放す」ための方法論です。
特に、仕事などで成果を上げ始めると、周囲の人があなたをほめたたえてくれる機会が増えていきます。この時にふと湧いてくる「もっとほめてほしい」という気持ち(これも承認欲求です)をどう手放すか、ということは、人生を大きく左右するほどのテーマだと思います。
「自分と対話する時間」をつくる
承認欲求を手放すために必要なことは、普段から自分の心と対話をする習慣を持っておくことです。
目を閉じて、自分の心と対話する時間を作ってください。「対話」といっても、自分の心との対話というのは、言葉を介したものとは限りません。むしろ、身体の感覚との「対話」こそが、本当の意味での「自分との対話」です。自分の身体を観察することによってふと「あぁ、このごろどうも人の評価ばかり気にしているなぁ」と気づく。
そういう自分との対話を習慣にしている人は、他者からの承認を確認するよりも、それを求めている自分を認め、正直に振舞おうとするようになります。そして、自分との対話によって心の安定を得た人は、他者と居合わせた時に揺れ動く心も、正確にモニタリングできるようになるのです。
自己と対話をするというのは、小さな自分の殻の中で、ああでもない、こうでもないと思い煩うことではありません。他人から評価されたか、されなかったかではなく、自分自身の中で「満たされた感覚」を得ること。それが何より大切です。一瞬でも満たされた感覚を得ることができれば、それまであれほど心を焼いていた承認欲求から、スゥッと手を離すことができるのです。
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