高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「コントラスト」と「ダイナミックレンジ」

高城未来研究所【Future Report】Vol.604(1月13日)より

今週は、東京にいます。 

数日前まで滞在していたウエウエテナンゴとの気候の違いが身に沁みる日々ですが、グアテマラと日本が違うと感じるのは、気候もさることながら社会に漂う情報量の差です。
日本は良くも悪くも様々な選択肢があり、常に判断したり決めなければならないような感覚があります。

21世紀に生きる我々は、わずか100年ほど前に生きた人たち一生分の情報を一日に満たない時間で体験し、また、随時判断を迫られます。
その数、毎日およそ3000〜5000。

久しぶりに東京の都心部を歩くと、年々輝度が高くなる情報看板の洪水で頭がクラクラするほどですが、二日もすればスッカリ慣れてしまいます。
地下鉄に乗れば、皆さん俯いてスマートフォンを凝視し、情報を浴びるように摂取しないとどこか不安になる1億総情報中毒が伺えます。

一方、グアテマラの山間部の街ウエウエテナンゴは、少し中心部から離れればコンビニもなければスマートフォンの電波もロクに届かないような場所ばかり。

果たして、一体どちらの環境が幸せなのか、と問われれば、このふたつの環境を行き来できる「幅の広さ」こそが、21世紀的な幸福なのだろうとあらためて実感します。

デジタルカメラにはダイナミックレンジと呼ばれる指標があり、一番暗い部分と一番明るい部分を同時に撮影できる「明暗の幅の広さ」がフィルムと違う現代的描写の秘密であり、テクノロジーがもたらした新しい可能性です。
一般的に人間の目は22段の明暗階調を見分けることができると言われますが、最新のデジタルカメラでは15段から17段程度のダイナミックレンジを持つまで高まっており、どこかで人間の目に追いつき追い越す日が来るかもしれません。

翻って、現代人の生活はどうでしょうか。
テクノロジーに則し、生活の幅に広がりを見せているのか?
それとも、ネットワークの奴隷となり、固定化された暮らし(と見えづらい階級)を送るようになってしまったのか?
ここに、移動が困難になった時代のリモートワークの本質が潜みます。

いまや世界的観光名所となった渋谷のスクランブル交差点と、スマートフォンの電波が届かないウエウエテナンゴの森の中。

いや、新型コロナウィルス感染拡大のニュースが街角の情報端末から溢れ出る世界と、心地よい風が吹く誰もマスクしていない世界。

このふたつの世界を往復するように暮らさなければ、真実を体感できるどころか、正気を保てなくなるのではないか。

かつて生活も視覚情報の描写にも「コントラスト」という言葉が当てられ、主には「対比」の意に使われていましたが、いまやカメラの「ダイナミックレンジ」同様、「明暗の対比」ではなく以前では考えられなかった「明暗が同時に存在できる」可能性が追求できる時代です。

今後、いままで考えられなかったような個々の可能性(つまり「ライフ・ダイナミックレンジ」)がもっと広がるのだろう、と感じる今週です。

今年は、再び移動距離を伸ばす一年になりそうです。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.604 1月13日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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