消費者事故はデータベース化されている
――消費者庁の設立にあたって、どのような問題意識が根幹にあったのかはわかりました。同庁が実際行っている業務についても、少し教えてください。
津田:消費者庁に期待されている役割のうち、もっとも大きなものの一つが「消費者被害の防止」です。そのために同庁は、消費者事故に関する情報を集めているんですね。
では、どのようにして全国から事故情報を吸い上げているか。[*13]
日本には全国各地に、消費者の相談窓口として「消費生活センター」が設置されていて、日ごろから各種相談が寄せられます。保健所や警察、消防署も、当然ながら消費者がからんでいる事故の情報を持っていますよね。これらの情報はまず、国民生活に関する情報の提供や調査研究を行っている「国民生活センター」[*14] に集約されます。同センターは、「PIO-NET」という消費生活相談データベースを持っていて、そこに事例が蓄積されていくんですね。これが最終的に、消費者庁に提供されます。
さらに消費者事故の情報は、モノやサービスを提供する事業者側からも直接、または関係省庁を通して寄せられてきます。
消費者庁は、こうして消費者や事業者から吸い上げた事故情報を、「事故情報データバンクシステム」というデータベースに一元化しているんですね。[*15] これはネットで公開されていて、いつでも利用できるんですよ。キーワードを入力すれば、視力回復のレーシック手術に関する事故や美容整形の事故、リチウムイオン電池の破裂事故など、さまざまな事例について調べられます。あまり知られていませんが、貴重なデータベースですよこれは。
今回発足した「消費者安全調査委員会」に期待されている役割は、こうして寄せられた事故のうち、重大なものの原因究明にあたり、再発防止を考えること。いわば、消費者庁の本義を背負う組織と言えます。
事故を未然に防ぐ策は
――消費者事故というと、起きてからの対応以上に、防止策を打つことが重要になってきますよね。消費者庁以前は、各省庁はどのように防止策を講じてきたんでしょうか。
津田:一口に消費者事故といっても、さまざまなケースがある。なので、それを防ぐための策は省庁や事案によって個別具体的に作られてきました。
具体的には、どんな制度があるか――身近な例を一つ挙げましょうか。
最近のライターには、ひし形のマークがついていますよね。[*16] 「PSCマーク」[*17] と呼ばれるこのマークには、「国の定めた技術上の基準に適合していますよ」という意味があります。
「消費者の生命・身体に対し、特に危害を及ぼすおそれのある製品にはこのマークを表示するように」と経産省の所管する「消費生活用製品安全法」[*18] という法律で事業者に義務付けられているんですね。
対象製品は、ライター以外に、乳幼児用ベッド、携帯用レーザー応用装置などがあります。これらの製品はPSCマークをつけないと、国内では販売できません。仮にマークなしの製品が出回った場合には、国が事業者に回収などを命じることができるんです。
ライターへのPSCマーク表示が義務付けられるようになったのは、ごく最近、2011年9月27日以降のことです。
この背景には、ライターによる火災事故があります。経産省が公表している資料によると、[*19] 132件の製品事故が2004年度から2008年度までの5年間で発生。また、12歳以下の子どもによるライターの火遊びで、東京消防庁管内だけでも500件あまりの火災が1999年から2008年までの10年間で発生しているんですね。
そこで経産省は「消費経済審議会製品安全部会ライターワーキンググループ」[*20] を発足し、ライターに関する話し合いを行いました。
そして、話し合いの結果を受け、ライターをPSCマーク添付の対象とし、子どもが点火しづらい「チャイルドレジスタンス機能」を備えたライターのみを、技術水準に適合しているとする方針に変えたのです。
こうして、本体にPSCマークがついていない使い捨てライターや多目的ライターは、販売が禁止され、市販のライターは「点火にあたって2段階の操作が必要」「レバーが固い」といったチャイルドレジスタンス機能付きのものになりました。喫煙者の方は普段ライターを使う機会が多いでしょうから、このことを身をもって知っているかと。
経産省の場合はこのようにして、一定の技術水準を満たし、安全な製品だけが市場に出回るようにしているわけです。
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