高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

真の働き方改革、いや、生き方改革は、空間性と移動にこそ鍵がある

高城未来研究所【Future Report】Vol.442(2019年12月6日発行)より

今週は、台北にいます。

来月2020年1月11日に行われる、台湾のトップを決める4年に1度の総統選挙が近いため、台湾の友人たちは香港の二の舞にならないよう反国民党一色に見えますが、中国市場を前提にしたプロジェクトも多いため、心中は穏やかではなさそうです。

今週も、オーストラリアに亡命した中国共産党の元スパイ王立強が、自身が中国共産党のスパイとして台湾に浸透工作を働いていたとインタビューで答え、2020年の総統選に向けて台湾内に複数の情報拠点を設立し、そのうちの1つが台北101のホテル内にある中国諜報当局が情報拠点だったと暴露したニュースが、台湾でも大きな話題になっています。
もし、国民党が政権を取るようなことになれば、台湾も数年以内に香港と同じような騒乱が起きてしまうかもしれません。

さて、この一週間でスリランカ→シンガポール→東京→台北と移動しまして、東京は人が多すぎると、正直感じています。

単純に人口だけで見れば中国やインドのほうが多いのは間違いなく、台北も台北駅に出向けば、東京とあまり変わらない印象を受けるのですが、改めて「世界の駅別乗降者数ランキング」を見ると驚きます。

1位 新宿駅 東京都
2位 渋谷駅 東京都
3位 池袋駅 東京都
4位 梅田駅 大阪府
5位 横浜駅 神奈川県
6位 北千住駅 東京都
7位 東京駅 東京都
8位 名古屋駅 愛知県
9位 品川駅 東京都
10位 高田馬場駅 東京都
11位 パリ北駅 フランス・パリ
12位 難波駅 大阪府
13位 新橋駅 東京都
14位 天王寺駅 大阪府
15位 秋葉原駅 東京都
16位 京都駅 京都府
17位 三宮駅 兵庫県
18位 大宮駅 埼玉県
19位 有楽町駅 東京都
20位 西船橋駅 千葉県
21位 目黒駅 東京都
22位 浜松町駅 東京都
23位 上野駅 東京都
24位 押上駅 東京都
25位 台北駅 台湾
26位 町田駅 東京都
27位 シャトレーレ・アル駅 フランス・パリ
28位 川崎駅 神奈川県
29位 ローマ・テルミニ駅 イタリア・ローマ
30位 田町駅 東京都

まるで、「世界の駅別乗降者数ランキング」ではなく「日本の駅別乗降者数ランキング」のようですが、
こうやってみますと、日本の首都圏は狭い地域に驚くほどの人口が密集していると、改めて実感できます。

今週滞在し、それなりに人が多いと感じる世界25位の台北駅の乗降客数は、1日およそ30万人に対して、世界1位の新宿駅の乗降客数は、1日およそ350万人ほどですので、十倍以上の開きがあります。
その上、新宿駅は、新宿三丁目駅から都庁前駅まで有機的に地下でつながっており、これらを合わせますと1日の乗降者数は400万人を遥かに凌ぎます!

人は、窮屈な場所に生きるように設計されていません。
その上、人は身体以上に「気」の大きさを持ち、見知らぬ人を含む動物がそばによると、本能的に警戒心から戦闘モードに身構える生き物です。
英国の心理学研究では、通勤ラッシュ時の満員電車に乗った際のストレスは、臨戦態勢に入った戦闘機のパイロットや機動隊の隊員よりも高く、ジェットコースターが落下する寸前の2倍以上と試算されています。

先週まで滞在していたスリランカのアーユルヴェーダ施設に滞在すると調子が良くなるのは、環境と食事だけではありません。
なにより、人が生活する空間がきちんと保たれていることにあると、いまさらながらに実感しています。

かつて、経済産業省に依頼された講演で、日本のスタートアップが増えない要因のひとつは、首都圏に空き地がないことだと解いたことがあります。
戦後間もない東京で、続々と新興企業が巻き起こったのは、それまでの社会システムが瓦解したことだけでなく、至る所に空き地があったからだと、お話ししました。
空き地は、不動産価格が安いだけでなく、人の心にゆとりと創作意欲を与えます。
その昔、子供たちが空き地で秘密基地ごっこをしたように、いまも、シリコンバレーでは「ガレージ」でスタートアップを起業しているのです。

また、狭い空間で生きているとストレスだけでなく視野が狭くなり、俯瞰的に物事を見れずに、成長を妨げてしまうものです。

現在、通勤時の輸送障害は平成元年時と比べて、およそ三倍増。
働き方改革より、お金を払って乗っている満員電車の緩和に本気で取り組む必要があると、東京に戻るたびに個人的には考えますが、年々首都圏は拡大し、与党と票田でもある建設業は共に結託し、私鉄沿線にある市街化調整区域にタワーマンションを立て続けるのに、余念がありません。

翻って現在、米国ではリモートワークが30%を超え、場合によっては50%を超えることもあるため、人と人が出会う機会を設けるための「出勤日」を裁量している企業もあるほど、この十年でライフ&ワークスタイルが大きく変化しました。

現在、日本の生産性はOECD加盟35カ国の中では20位。
かつて日本は、世界第10位の生産性を誇っていましたが、今では先進国最下位に陥り、労働者ベースで見てもスペインやイタリアよりも低く、全人口ベースでは世界第27位まで凋落しています。

国家の成長率を高めるための真の働き方改革、いや、生き方改革は、空間性と移動にこそ鍵があると、改めて実感する今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.442 2019年12月6日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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