やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

野党共闘は上手くいったけど、上手くいったからこそ地獄への入り口に


 菅原琢先生がハッキリ書いておられましたが、動かすことのできない事実として、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党による野党共闘はうまくいったと思うのです。

 ここで「うまくいった」と書くのは、実質的に支持層の総和以上に得票を増やすことができた、それに伴って議席数をより多く確保することができたというのが大きい。

 それでも立憲民主党が負けたと評されるのは改選前勢力よりも議席数を落としてしまい、また、辻元清美さんや尾辻かなこさん、平野博文さんといった立憲民主党の支持基盤を形作っていた有力議員が比例復活もできず落選に追い込まれてしまったことが背景にあります。

 もちろん、単体として立憲民主党は野党共闘を仕込んで短期的には票をより多く確保することができたけれど、選挙では奮わずに負けたということになりますので、共闘で候補者調整をしなければもっと多くの議席を失っていたという予測になり、党勢の退潮は決定的なものとなりかねません。

 その結果、執行部は福山哲郎さんが早々に幹事長辞任を発表し、また、粘る姿勢は見せていたもののやはり地位を守ることができずに枝野幸男さんも代表辞任に追い込まれました。当然だ、という人たちも少なくありませんが、個人的には「枝野路線の踏襲をするのかどうか」というあたりの党内のコンセンサスがいまだはっきりと見えず、代表選を行って別の人物が就任するにしても当面の党の戦略について明確なアプローチを打ち立てることはむつかしいのではないかと思います。

 とりわけ、次の照準は明らかに来年夏の参院選であり、ここでコケると解党的出直しレベルの話になりかねませんので、支持団体や地方組織も含めた方針の練り直しと徹底は必須になります。ただ、代表が後退し、こうするぞと言い始めたところでどうにかなるものも少ないというのが実情ではないでしょうか。

 特に、連合はかなり明確に共産党(全労連)との協調については否定的な発言を繰り返しており、ここで立憲民主党の具体的な支持母体を失うことになると大変なことになります。社民党も足回りを担当していた労働組合の支援が無くなった瞬間からまともな選挙戦さえもできなくなってしまい身動きが取れなくなったというのが何よりも大きなことで、ここで何かの理由で連合と立憲民主党が完全に関係破綻するよということになれば、文字通り社民党と同じ党消滅への運命を辿りかねません。

 連合については、特に全トヨタ労連の話はすでにWILLで執筆したところではありますが、カーボンニュートラル(CN)という大きな枠組みの中で労働組合といえど大きな産業構造の転換を前にして、かなり本気で政策実現を果たせる仕組みを持たないと雇用そのものが死んでしまうという危機感を強く持っています。なので、長年の組織内議員であり無所属ながら立憲民主党と連携していた古本伸一郎さんを降ろしてでも自民、公明、維新など政策誘導できる政党との対決姿勢を薄めていきたいという方針にシフトしました。

 これに呼応するように、原子力発電に対してポジティブにならざるを得ない製鉄・電機など複数の組合が連合の方針を引きずるような形で内々で自民党へのアプローチを強化しつつあり、当たり前のことですが原子力発電に後ろ向きな左派政党である立憲民主党やれいわ新選組のやり方では「この冬が越せない」という危機感を持っていろんな情報発信をしてきているというのが実情です。

 それゆえに、早い段階で(下手したら年内にも)連合は立憲民主党への全党的な支援体制を見直す決定をする可能性が否定できません。言い方は悪いですが、旧民主党→旧民進党時代に連合との関係が急激に悪化した以降、再び発生した危機はかなり待ったなしのエネルギー安保や脱炭素経済への流れと合体したものだと言えます。

 さらに悪いことに、一連の野党共闘は単純に党利党略からすれば「共産党との候補者調整や選挙協力なしには確保できない議席が少なくない」ことを浮き彫りにしてしまいました。しかも、頼みの無党派層は第三の勢力である日本維新の会が選択肢として出てくると東京12区のように綺麗に無党派の政権批判票をごっそり奪われてしまい、勝利確実と思って挑んだ選挙で単に負けるだけでなく次点の維新候補のさらに下の得票の3位で終わるという問題になってしまうわけです(東京選挙区ごとの詳細は次のインシデント1で詳述します)。

 ここまでくると、別れた国民民主党のように政策提言型野党となって野党共闘路線から脱するか、より純化した野党共闘路線に立ち入り共産党と一層の一体化を目指すのかの二択を枝野さん辞任後の代表選で選択しろと突き付けられることになります。

 連合の支援がなくなる大前提で共産党との野党連携を一層強化するということは、実質的に共産党と一体化することに他なりません。社民党がそうだったように、党勢は怖ろしく衰えるものの、いわゆる左派政党としては一定の支持層に向けた心地よい協和の世界ができることもあって、約束された緩やかな旧民主党の死が実現することになります。これらは徐々に共産党本来の支持率へと向かっていくことでしょう。

 国民民主党のように政策提言型野党となり、連合の支持を得ながら議席を確保し、無視できない野党としてワイワイやるという方針も残ります。この場合、明確に共産党との決別をし、現状批判票は共産や維新と分け合う激戦区に身を委ねることになって、おそらくは短期的に小選挙区選出議員の数を大幅に減らす可能性があります。場合によっては、自民党が逆風選挙のときに上手く議席数を増やすことができれば、翼賛的な大連立の具としてキャスティングヴォートを担うこともワンチャンスあるよという流れです。

 いずれにせよ、ごく近い将来、立憲民主党はむつかしい選択を迫られることになり、状況によっては発展的解党・分党論が出るのではないかと思います。本来であれば、小沢一郎さんが元気なら傀儡の一人も立ってまたぶっ壊しに回るのかもしれませんが、さすがに老いては力も発揮できず、なにぶん自らも小選挙区で敗戦し比例復活の身ですからどうにもならないのではないかと思います。

 返す返す、現実的な政策を主張する野党として当面の苦難を受け入れ脱共産に向かうのか、共産党とガッツリやって連合と切れても左派政党としての緩やかな死を迎えるのかの二択は非常に興味のあるところです。もちろん、野党が割れて一番喜ぶのは自民党と公明党であって、我が国は55年体制後初めてノイジーマイノリティ的な左派政党の限界集落的な状況をどう解決するかを考えるべき時期が来ます。

 いまのところ、代表選では小川淳也さんが立候補を表明していますが、行き詰まった立憲民主党がどっちに流れていくのか注目していきたいと思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.350 「野党共闘」という宴の後を考察しつつ、衆院選東京選挙区の総括やプラットフォーマーの現状などに触れる回
2021年11月3日発行号 目次
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【0. 序文】野党共闘は上手くいったけど、上手くいったからこそ地獄への入り口に
【1. インシデント1】備忘録的にたくさん歩いた東京選挙区について個人的な総括など
【2. インシデント2】デジタルプラットフォームとの付き合い方を再考すべき時代
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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