やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ポストコロナ:そろそろコロナ対策の出口戦略を考える


 東京は4月27日の新規感染者数が39人と、油断は禁物ながら&検査数が微妙に少ないながらという条件付きで、そこそこ自粛の効果が出てきているようです。

東京 新たに39人感染確認 都内計3947人に 新型コロナウイルス

 どっちにせよ大変であることには変わりないのですが、緊急事態宣言の延長も睨んだ話として、また、その後の日本経済の状況を考えると夏消費に向けてどうやって立て直していくのか、また、傷ついた部分の修復をどういう道筋でやっていくべきかという出口戦略もそろそろ真面目に考えていかなければならなかろうと思います。

 繰り返しますが、油断すると多分また感染者は増えると思うんですよ。自粛で引き締める→感染者が減る→自粛疲れで緩む→感染者数が増えるを繰り返しながら、良い塩梅でビヨンドコロナ、アフターコロナを考えようという話になるのではないでしょうか。

 個人的に思っているのは、そうはいっても世界経済の回復には相応の時間がかかる、また、次なる感染拡大があるかもしれないというおっかなびっくりで進めていく状況において、いままで同様にアクセルを地べたまで踏んでチンパンジーのようにカリカリのROE経営をするところは死ぬかもしれないと言うことです。

『東京の都市封鎖』待ったなしで、起きる産業と社会の変化(追記あり)

 何より、怖ろしいのはコロナはあくまできっかけに過ぎず、世界全体からすれば割高すぎるほど割高になった株価や商品についての揺り戻しが起きているとするならば、需要の減退で大変なことになっている原油や、本来ならもっと上がるべきコーンなどの相場において一定の回復局面が見られないならば、やはりコロナ対策が進んだかどうか関係なく世界の景気はどんどん沈んでいくだろうと思われるのです。

 それは、単に感染症対策で自粛したので一時的に経済が落ち込んでいる、その回復には時間がかかると言うことではなく、いままでたいして好ましくもない新興国やハイイールド債のようなものが世界の金融市場で高い利回りを目指す金融機関に持て囃され、物凄い勢いでリスクマネーが回っていたものが、実需要の減少という局面で一気に逆回転をする途上にあるのでは、という恐怖感です。もちろん、現段階では株価はそこそこ維持していますし、為替も安定していますが、その水面下ではけっこうグロテスクなことが起きる前兆として航空会社を筆頭とした不採算基幹事業の国有化議論、地方金融の疲弊からの再々編などなど、非効率を糺すために動く部分と、不採算な事業体を救うためにより非効率な投資を行わなければならない状況とが並行で起きるのではないかと思うのです。

 例えば、コロナのお陰で東京一極集中というある種の非合理・非効率は糺されるかもしれないし、いままで温存されてきたぱちんこ業界やナイトクラブといった遊興系の規制、学校教育(ギャップイヤーやオンライン授業など)、医療(遠隔診療やカルテの高度電子化、お薬手帳との連携など)、さらには電子政府のようななるだけ自治体の業務を効率的にするための仕掛けなどに、どんどん再編投資が回っていけば、コロナのお陰で社会改革が進みました、という怪我の光明もあり得る。そこにはマイナンバーできちんと国民の経済状況を把握して必要なときに国家が決定すれば二週間で緊急資金が各家庭や法人に降り込める仕組みを作ろうとか、そういう前向きな再編も可能なところがあります。合法だけど適切かどうかも判断つかない日本のぱちんこや風俗業などの再編も、いままで当局対応の裁量の中でだましだましやってきたものが一気に改善できるようになれば良いでしょうし、生活保護や雇用保険といったセーフティネットの在り方も上手く問い直せるかもしれない。社会保障改革はいままでしがらみがあってできなかったけれど、このような問題があったからこそ脇を締めてやれるものはやっていこうという動きはできるかもしれません。

 一方で、財源論は重要です。何と言っても大型補正予算だ、108兆円のリーマン以上の経済対策だと大見得を切っても、これらの財源というのは所詮は赤字国債の積み増しに過ぎず、いま苦しい分のおカネを将来の世代からのツケ替えでどうにかしようという話に他ならない。何よりも、国家財政というのはせいぜい100兆、年度歳入が60兆なのだとするならば、我が国のGDPが550兆円として二割吹き飛んで110兆円、こんなものが国の対策ですべてが掬われるはずもなく、それだけ我が国は民間経済が大きく、自活的で自立した存在であることの認識なしに政治の舵取りなどできない、というのもまた事実であります。

 しかるに、人口減少下で国力の衰退局面にある日本は、限りある資金や人材、時間といった資源をどのように合理的に再編するべきなのかというグランドデザインがどうしても大事で、単にコロナ対策だからといって大盤振る舞いして楽になったねと言える余裕はどこにもないのだということを弁える必要があります。何しろ、2月3月4月5月と確実に実体経済を回してきた実需が減る以上、どこを救って、どこを再編の対象にするのかをきちんと考えないで対策を乱発すると、本当の意味で無駄金にしてしまうリスクはどうしてもあると思うのです。

 私の案としては、やはり最初に死ぬのは地方経済であり、地方金融であると思っています。世界経済と実は日本の地場金融がこれほど連結している時代はないのではないかというぐらい、地方金融は例えばアメリカのハイイールド債をたくさん買っています。一部報道では三菱UFJ銀行に4桁億の損害がという内容もありましたが、これも事実とすれどもそれ以上のインパクトは地方金融だと思います。日本人がかつて経験した住専問題で、故・宮澤喜一さんが財務大臣として早期の公的資金注入をといって大反対し、結果としてそれ以上の不良債権処理に国費が投入されることになって失われた10年となった記憶が蘇ります。結果的に宮澤さんの言っていることは正しかったのに、日本人の感情や報道による逆風に晒されて必要な手当てが行えなかったことで、日本はプレミアム金利を乗せられて大変なことになって、結果としてベビーブームであった私ら団塊Jrの世代が社会に出るタイミングに直撃し、定職につけない貧乏な同世代の同志が経済問題もあって結婚できず、子どもを儲けられず、第三次ベビーブームはついに来なくて日本の人口減少に拍車をかけ国力低下にまで導いてしまったのは忸怩たるところがあります。

 やはり、我が国はこのコロナ禍をてこに、より合理的な社会システムを構築し、出生、教育、研究、産業再編、自治体再々編、金融や航空など主要産業の一部国有化による安定化と伝口戦略の構築など(国有化したら効率的な経営などできるはずもない)はどうしても必要になります。それもこれも、人口が減っていき、もてるリソースの中で最適な社会、経済を再編成する中で、ぜい肉を落とし、財政規律を守り、より効率的で合理的な社会にするためにコロナ禍を活用していくという考え方でいくしかないのではないかと。

 単に苦しいから助成します、休業の対策として補償します、というのは本当の意味で単なるバラマキに過ぎません。もちろん、厳しいときに国庫を開けて国民が喰えるようにするのは政治の役割であり国家の大切な機能ですが、後先考えず苦しいからおカネを配っていいとは本来はならないはずなのです。飲食店が苦しい、実演家が危ないのは事実として、彼らだけが苦しい経済事故ではないのだから、ある程度、国民全体が痛みを分かち合い、次の世代に必要以上にツケを回すことなく、この問題に乗じてより合理的な国民経済を構築するという出口戦略をしっかりくみ上げることが大事だ、と思います。

 そのためには、自治体の再々編や電子化を適切なレベルで進め、マイナンバーをよりきちんと普及させて経済、所得、健康各分野で連携可能とし、地場産業と支える金融機関を効果的に維持する仕組みを用意することこそが、いまの政治に求められているビヨンドコロナの骨子であろうと考えています。一番最初により一層地方が死に、ますます都市部に人口が集まる状況は、必ずしも効率的な未来像ではありません。政治はどうしても大見得を切るし、パフォーマンス中心になるのは仕方がないところではあるのですが、何を出口にするのかはしっかりと考え、見据えて進んでいかない限り、コロナと一緒に沈んでいくのではないかと強い危機感を覚えます。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.294 コロナ禍にあって我が国はこれからどうするのか、隣の大国は何をするのか、ICTやプラバシーはどうなるのかをあれこれ考えてみる回
2020年4月28日発行号 目次
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【0. 序文】ポストコロナ:そろそろコロナ対策の出口戦略を考える
【1. インシデント1】中国が仕掛ける「ポストコロナ外交」 コロナ戦犯説を中国はどう切り返すか
【2. インシデント2】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行とICTとプライバシー問題の行方
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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