石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』より

フランス人の「不倫」に対する価値観

石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』4月22日 Vol.020より

石田衣良の作家の眼を通して時事問題をもう一段深く掘り下げていくコーナー、「IRA'S ワイドショーたっぷりコメンテーター」より抜粋してお届けします。

[聞き手]早川洋平(プロインタビュアー)



仏の最高裁で「不倫は反道徳的にあらず」の判決が下される

― 以前、オランダの自動車教習で、レッスンの対価を体で支払うことが「合法」と判断されたという話をしましたけれど、今回はフランスです。昨年の12月、フランスの最高裁にあたる破毀院が「不倫はもはや反道徳的とはいえない」という判決を下しました。問題になっていたのが、フランスの元ファーストレディーのヴァレリー・トリールヴァイレールさんと保守系国会議員の不倫疑惑ということです。

すごいですよね、最高裁でそういう判決をしちゃうっていうのは。ちなみにフランスでは不倫が1975年から法律の処罰の対象から外されているそうです。

衣良:要は「不倫」ではないってことだよね。不倫は「人の道に外れたこと」という意味じゃないですか。でも、人の道に外れていない、道徳的にいけないことではないということになると、不倫という言葉そのものが当てはまらなくなるので、単純な婚外恋愛っていうことでしょう。そう考えると、ヨーロッパ人のハッキリした考え方ってすごいよね。「売春も全部認めて、ちゃんと税金取った方がいいじゃないか。不倫もこれだけ数が多いんだから、法律で罰するなんて言ったって無理じゃないか」って割りきってしまっているんですから。

言われてみればその通りだなと思いますよ。逆に日本は、異常に厳しくなっていますけど。

― この記事によると、まだ大半のフランス人は「パートナー以外に性的な抱擁、キスすることは不貞に当たるが、誘惑は問題ない」と考えているそうです。

衣良:なるほど。ここら辺がフランス人のダブルスタンダードじゃないですか。悪いと言いつつ、でも「しょうがないよ、人間だから」っていう、ある種大人の判断が働いているんだと思いますね。

― 衣良さんはどうですか? そういう考え方は。

衣良:いや、日本もそうなると思いますよ。ただ、今は不景気なので、みんな昔からある日本の結婚観にしがみつこうとしているんです。

― フランスのそういう結婚観のバックボーンってどこにあるのでしょうか?

衣良:ラテンの血なんじゃないですかね。イタリアもフランスも、スペインもそうでしょうけれど。ヨーロッパも南の方の国々はちょっと考え方が違いますよね。たとえば、夫以外に好きな人ができたら、すぐに離婚してその人とくっつかないといけないというような、そういう厳しい価値観ではないですよね。カトリックで、離婚が禁止されていたというのも関係あると思います。

でも、不思議ですよね。伝統的に一夫一婦制の、カトリックの国の方が不倫に関して自由で、日本みたいについ最近一夫一婦制を取り入れたような国が異常にカチカチになっているというのは。まあ、ちょっと遅れているからだと思いますけどね。

― だから日本も100年、200年、300年たったら変わるかもしれないと。

衣良:可能性は高いと思いますね。日本人はそういう点では今、景気が悪くてビビっているというのもあって、昔の価値観にしがみつきすぎだよね。

― そうすると、人間は本来、フランス人のような考え方が自然なのでしょうか?

衣良:仕組みとして一夫一婦制がちゃんとあるとしても、人間って「心」というものを作ってしまったので、「それ以外がゆるくなるのは、しょうがないよな」というところですかね。

― そうですね。心がありますから。

衣良:そうそう。一カ所にとどめておけないじゃないですか。キリスト教も、心の中で姦淫したら、実際に姦淫したのと一緒だなんて、メチャクチャな理屈で男の人を戒めていますけれど。そんなことを言ったらグラビアアイドルなんて誰も食べていけませんから。

 

石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』

kinei大好きな本の世界を広げる新しいフィールドはないか? この数年間ずっと考え、探し続けてきました。今、ここにようやく新しい「なにか」が見つかりました。

本と創作の話、時代や社会の問題、恋や性の謎、プライベートの親密な相談……

ぼくがおもしろいと感じるすべてを投げこめるネットの個人誌です。小説ありエッセイありトークありおまけに動画も配信する石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』が、いよいよ始まります。週末のリラックスタイムをひとりの小説家と過ごしてみませんか?
メールお待ちしています。
banner
http://yakan-hiko.com/ishidaira.html

石田衣良
1960年、東京都生まれ。 ‘84年成蹊大学卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターとして活躍。 ‘97年「池袋ウエストゲートパーク」で、第36回オール読物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。 ‘03年「4TEENフォーティーン」で第129回直木賞受賞。 ‘06年「眠れぬ真珠」で第13回島清恋愛文学賞受賞。 ‘13年「北斗 ある殺人者の回心」で第8回中央公論文芸賞受賞。 「アキハバラ@DEEP」「美丘」など著書多数。 最新刊「オネスティ」(集英社) 公式サイト http://ishidaira.com/

その他の記事

国内IMAX上映に隠された映画会社や配給会社の不都合な真実(高城剛)
リアルな経済効果を生んだ「けものフレンズ」、そして動物園のジレンマは続く(川端裕人)
5年すればいまの世界はまったく違う世界に変わっている(高城剛)
住んでいるだけでワクワクする街の見つけ方(石田衣良)
2023年は「人工知能」と「公正取引」の年に(やまもといちろう)
週刊金融日記 第309号【東大現役合格率上位15校すべてが男子校か女子校だった、麻生財務大臣は森友問題でG20欠席】(藤沢数希)
働かないのか? 働けないのか? 城繁幸×西田亮介特別対談(後編)(城繁幸)
美食の秘訣は新月にあり(高城剛)
自分の心を4色に分ける——苦手な人とうまくつきあう方法(名越康文)
「身の丈」萩生田光一文部科学相の失言が文科行政に問いかけるもの(やまもといちろう)
動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない(川端裕人)
『好きを仕事にした』人の末路がなかなかしんどい(やまもといちろう)
武器やペンよりもずっと危険な「私の心」(名越康文)
もう少し、国内事業者を平等に or 利する法制はできないのだろうか(やまもといちろう)
週刊金融日記 第292号【ビットコインのお家騒動は続く、ビットコインキャッシュ大暴騰他】(藤沢数希)
石田衣良のメールマガジン
「石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月 2 回以上配信(メルマガは第 2・第 4 金曜日配信予定。映像は適宜配信)

ページのトップへ