やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

19人殺人の「確信犯」と「思想の構造」



 先日、みんなの介護という大手サイトに記事を寄せたところ、大変な反響をいただきました。ありがとうございます。

第158回 【やまもといちろう氏 特別寄稿】相模原の障害者19人刺殺は思想犯と言えるのか

 私個人としては、この手の確信犯は反省もしないであろうし、思想的なバックグラウンドをどうひねり出してもある種の「サイコパス型犯罪」はどんなに社会が教訓を受けようとも一定の割合で起こしてしまうタイプの惨事なのだろうと思うと忸怩たる気持ちになります。

 その上で、やはり犯人の犯行にいたった理屈はMADであり、いわばその考え方は「理解はできるが、まったく理解できない」し、それが「行ったことを正当化することはできない」と思うわけであります。

 平たい話が、これを社会的、国家的容認のもとで行った場合は、まさにナチスドイツが行ったT4作戦と同様の事態となります。ぜひ知っておいていただきたいと思うわけですが、wikipediaにも詳細が掲載されてますので、興味のある方はお読みください。

T4作戦

 突き詰めれば、自分が共感を持てない相手と接するときに、所詮は相手と分かり合えることなどないという他我問題が根底にあるわけで、おそらくは今後、弁護士がこの事件を扱うときに戦後最大級の殺人事件の異様さと共にこの犯罪の解説がいろんな角度から行われることになるのでしょう。

 しかしながら、これは障害者、とりわけ知的障害者の現実などもどうもリンクするようで、いずれは介護問題にも波及していく部分は出てくるでしょう。当事者が、いかに「これは特殊な事情にすぎない」と言いながらも、老いて壊れていく人間を介護することの労力が、介護する人の心や財力を押しつぶすまでの過程と相似形だと感じるならば、何度でも蒸し返される事例でしょうし、いかに日常社会はこのような精神障害や介護を隔離しながら平穏を演じてきたかをえぐり出すことになります。

【相模原19人刺殺】ニュースは決して報じない! 戦後最悪の殺人鬼・植松容疑者があぶり出した日本の最暗部

 こればかりは避けては通れない議論を呼び起こす可能性もあるので、もう少し推移を見ながら社会が冷静にこの問題を受け止められる日が来るまで考えをまとめておきたいところです。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.161 とりいそぎ都知事選の総括をしつつ、相模原19人殺人事件やAIについても語ってみる回
2016年7月31日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】19人殺人の「確信犯」と「思想の構造」
【1. インシデント1】小池勝利と浮かぶ地域政党の有象無象決戦
【2. インシデント2】AIがもたらすであろう未来について杞憂してみる話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

経営情報グループ『漆黒と灯火』会員募集、まもなく終了します(やまもといちろう)
季節の変わり目はなぜ風邪をひきやすい?(若林理砂)
組織変革とは、まず自分が変わろうとすること(やまもといちろう)
泣き止まない赤ん坊に疲れ果てているあなたへ(若林理砂)
「意識高い系」が「ホンモノ」に脱皮するために必要なこと(名越康文)
Qualcommブースで聴いたちょこっといい話(小寺信良)
コロナ後で勝ち負け鮮明になる不動産市況(やまもといちろう)
【期間限定】『「赤毛のアン」で英語づけ』序文(茂木健一郎)
ガイアの夜明けで話題沸騰! 15期連続2桁増収のスーパーの人事戦略を支える「類人猿分類」のすごさ(名越康文)
結婚はむしろコスパサイコー!? ほとんどの若者が理解していない賢い老後の備え方(岩崎夏海)
いつか著作権を廃止にしないといけない日がくる(紀里谷和明)
今年買って印象に残ったものBest10(小寺信良)
結局Apple WatchとAndroid Wear搭載Watchは何が違うのか(小寺信良)
「モザイク」は誰を守っているのか−−向こう側からは見えている(小田嶋隆&平川克美)
世界中の未来都市を訪れて気付いた良い街づくりの必要条件(高城剛)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ