やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

音楽生成AI関連訴訟、Napster訴訟以上の規模と影響になりそう


 いわゆる面倒くさいけど大事な訴訟に入るやつ筆頭とも言える裁判が始まりました。

音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え

米3大メジャーレコード会社、音楽生成AI「Suno」「Udio」を著作権侵害で提訴

 当然そうなりますよね、ということで「その教師データ群は合法ですか」から始まり、いかなる経路で似たような音楽を生成したんですかというところが司法判断されるとどうなるかが肝になってきます。

 似た経路として、オンライン音楽配信のさきがけでもあったNapster裁判では、オンラインに客が流れて困るもともとそれで商売をしている、音源を発売しているレコード会社や、これらの売上からの印税収入が減少する作詩家、作曲家や歌手などであって、ある意味で著作権に守られたビジネスVS技術という対立事項の中で解決してきた問題であったと言えます。

 他方で、今回の生成AIについて言えば文脈から翻案してくるものの財産性を正面から問うものであって、既存の著作権の枠組みとは異なる文脈での解釈が出るんじゃないかと怖れられている面があります。すなわち、生成AIで作られたものは著作物として主張できないという考え方や、Napster裁判でも初期にあったように個人の楽しみで使う複製であった場合どうなのかといった面から話がスタートすると、技術がもたらす社会的影響から、現行法でのいままでの解釈とは異なった判決が下される可能性だってあるんだぞという話になり、警戒されるのも当然のことと言えます。

 この辺は、アメリカで知的財産をメインでやっている弁護士ら法曹界たちの間でも大変な騒ぎとなり、これはSNSでの発言が民主主義的にどうなのかと通信品位法での扱われ方を議論してきた論争よりも激しくなっていくんじゃないのかという話でもあります。例えば、生成AIが引き起こす問題のひとつであるハルシネーションも、これらの問題からするならばハルシネーションがノイズとなって必ずしも100%のものが毎回出来上がるわけではない人工知能での生成物にそれほどの価値があるのかという話にもなる。

 ただ、人工知能の世界においてはハルシネーションがあるから完璧な生成物ではなく知的財産を脅かさないのだという理屈にするにはさすがに厳しい。そもそもいま吐き出されている生成AIによるテキストや画像や音楽はすべてがハルシネーションであり、人間が読んだり見たり聴いたりして品質の低いものや間違っていると認識できるものが単に問題視されるだけであって、人工知能がLLMの仕組みとして吐き出すものはすべてはちゃんと理解されて作り出したものではないのだ、という哲学的な話にまで発展していくわけですよ。

 同じような話として、目下我が国でも文部科学省が傘下文化庁でやっている知的財産権分科会で著作権法30条を巡る議論をしていますが、いわゆる王道の法曹が知恵を出し合ってより良いものにしていくんだというベクトルとは全く異なる政治的な横車が出ているのは気になるところです。要は、生成AIがもたらす社会的変革による価値とリスクをきちんと見極めて制度設計をしていこうというあるべきスタイルに対して、他国で生成AIが禁止されているのであれば我が国はそれを弛めてAI大国にして他国から産業投資を引き入れようという、割と邪な動機で介入する偉い人が出てきていてどうするんだって話になるわけです。

 個人情報保護法改正においても4月に予定していた中間とりまとめが平井卓也さんらの横やりが入ってきてまとまらず、8月ぐらいまでずれ込んで年内に最終出せるの出せないのってなってるのも概ねそういう話なんだろなとも思うわけでございまして。

 皆さんご存知の通り、我が国も毎年この時期は短冊をかき集めて作った骨太の方針からの総合対策の起案、さらに閣議決定で「これやるんや」「おかのした」という流れになることも踏まえると、国民生活(社会)と産業育成、ソフトウェア産業の国際競争力というところまできちんと一気通貫で物事をとらえられるようにしておかないと駄目なんじゃないのか、とは常に思うところです。

 突き詰めれば、冒頭の音楽分野における生成AIの脅威というのは商流と音楽における技術革新による民主化の衝突という文脈で見ていいのかっていう、デリケートなところまでくるんじゃないかとも思います。

 関連して、目下どうするのか検討課題にはずっと上がってるけど世論はさっぱり盛り上がらない新サイバー犯罪条約どうするのってのも出てきます。いままでは、非実在少女が仮におったのだとしても実在している少女の人権をどうにかするのが筋なんだから各国法規の枠内で処理せえよ、例外を認めるぞという話だったのが、ここまで生成Aiが進化してくると、元の教師データになっている少女の裸体その他違法コンテンツを元に学習したエロAIが大量のロリ画像や映像をリアルに出力してくることに対してどう解釈するねんという話がどうしても出てきます。いままでは、脳内の自由や所詮はイラストであり被害に遭っている女性がいるわけではないのだからという抗弁であったものが、生成AIの登場によっていくらでも本物に近いロリ動画が出たときこれはさすがに放置できんやろとなります。

 まあ最高に面倒くさいわけですが、許可を取っているのかどうか定かではない教師データから導き出された生成AIを提供する事業者が法的リスクにさらされるという話になりますと、目下かなりの割合の新進AIはその元データにやべぇのたくさん埋まってんだろってところから逆算し直す必要が出てきますから、これはもう国家がどうにかしないといけないよねって毎回思います。

 我が国はそういう本流のど真ん中に著作権法30条一丁で飛び込んで行こうとしている雰囲気さえあるわけでして、なかなか波高しじゃねえのかといつも思いながらニュースを眺めております。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.445 生成AI関連で派手なやらかし事案が頻発してる様を眺めつつ、ネットの偽広告対策はこれでいいのかとあれこれ考えてみる回
2024年6月26日発行号 目次
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【0. 序文】音楽生成AI関連訴訟、Napster訴訟以上の規模と影響になりそう
【1. インシデント1】いわゆる「偽広告対策」の骨子が固まりつつある一方、これでいいんでしたかねという話
【2. インシデント2】robots.txtを無視するAIサービスが登場して無事炎上の件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】KADOKAWA「ニュースピックスの身代金報道に抗議」の補助線

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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