高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

それなりに平和だった夏がゆっくり終わろうとしているのを実感する時

高城未来研究所【Future Report】Vol.481(2020年9月4日発行)より

今週は、山梨から長野周辺で、車中泊を楽しみながら移動しています。

長い読者の方々はご存知かもしれませんが、僕が20代前半の大学在学中から卒業してしばらくの間、およそ2年半に渡って自動車のなかで暮らしていたことがあります。

自動車と言っても、最近流行りの「バンコン」と呼ばれるようなバンを改造して泊まれるようにした車種などではなく、小さく狭いホンダ・プレリュード2ドアが愛車でしたが、後部座席背面が開き、トランクに足の伸ばせて寝ることができたので、当時の僕にとってはとても快適な生活空間でした(だから、二年半にも及んだんです)。

時代は、バブル真っ只中。
学生時代からロケや取材(や遊び)でほぼ毎月のように海外へと出向いており、でも、レンタカーを借り、行った先でも同じように車中泊をすれば、事足ります。
今で言えば「アドレスフリー」なんでしょうが、当時はインターネットも携帯電話もなく、ついでに性格的に締め切りを守らないことから、いつも担当編集者やプロデューサーが、僕が立ち寄りそうな場所に伝言を残したり、ワイパーに仕事の依頼が挟まっていました。

幸いなことに、学生時代からCMやミュージックビデオの監督として活躍し、また雑誌のライターとして、月に何本もの連載を抱えながら、自分の音楽プロジェクトのライブでも忙しい日々を送っていて、もしかしたら、いまと基本的な生活は、変わってないのかもしれません。

いまでも当時の心境をよく覚えていまして、とにかく社会に迎合するのが、嫌だったんです。
日々、違う場所に寝泊りして、気分を変えながら創作に没頭する。
もしかしたら、これもいまだに変わりないのかもしれません。

大学三年生にもなると、周囲はスーツを着て、就職活動に勤しみます。
いまでは考えられませんが、大学の校門に大手企業からスカウト&接待の車が日々並び、さらに信じられないことに、芸術学部へ大手航空会社や銀行から勧誘があるほど、世は狂っていたのです。

そんな中、僕はスーツを着ることも、大手企業からのスカウトと一言も話すこともなければ、お迎えの車に乗ることもなく、なにより住所不定でしたので、会社案内のパンフレット(とギフト)が、届くこともありません。
たぶん、周囲からは「頭がイカれている」と思われたのかもしれませんが、僕は「いまの社会がイカれている」と強い思念を持って、スーツとは真逆の半ズボンを履いて、車で暮らしながら、時代が変わるのをひたすら待ちました。
その数年後、バブル経済は崩壊し、企業や多くの人の価値観(と学生への接し方)は180度変わることになります。

ほどなく、不動産価格が暴落したこともあって、僕は都心に近いエリアに安価な一軒家を借り、定住することにしました。
久しぶりの定住です!
ところが、長い車中生活の癖からなかなか抜け出せず、冷蔵庫を購入するまで一年近くの時間を要しました。
それまで、その日得た食べ物は、その日のうちに食す生活を続けていたため、冷蔵庫を必要としなかったんです。
何度か秋葉原に冷蔵庫を買いに行きましたが、決まって買って帰るのはコンピュータおよび周辺機器。
そんな中、友人たちに連れられ、なかば強引に冷蔵庫を「買わされる」日が訪れました。
この日を、自分史のなかでは「Xデー」と呼んでいます。

この冷蔵庫を購入した「Xデー」を境にして、僕のなかでなにかが崩壊するように(まるでダムが崩壊したように)、目についた気になるものを、次々と購入するようになってしまいます。
25歳にして、毎週連ドラや1日三本ミュージックビデオの監督をこなすほど仕事は好調だったので、スニーカーやストリートウェアを買う程度のお金には困っていません。
その後、さらに大きな一軒家に引越し、溜まった(履かない)スニーカーは、気がつくと800足! 自分(の言い訳)としては、ナイキのCMにも出ていたこともあって、仕事の一貫だと言い張ってましたが、米国同時多発テロが起きて、道中やむなく車中迫したある日、これらのモノたちは、本当に必要だろうか、と思い立ちます。
なにしろ、車だけで6台も持っていて、北海道と沖縄の空港にも一台づつ停めていたほど、僕の周囲にはモノが溢れていました。
そこで、すべての物(と所有していた不動産)を処分して、スーツケース4つだけにまとめあげ、再び住所不定の生活に戻り、ロンドンへと移住したのです。
それから一年も経たずに、リーマンショックがおき、その数年後に東日本大震災による原発事故が発生しました。

今週、夏休みが終わって人波が落ち着き、まだ季節が良い時期に、久しぶりに車中泊を楽しんでいます。
そして夜な夜な満点の星を見ながら、ノイズを徹底的に削ぎ落とした自分に問うのです、そろそろ定住の頃なのか、と。

しかし、僕のなかのもうひとりの僕は、まだその時期ではない、と囁きます。
もし本当にそうならば、いまのうちにもっと荷物を減らして「いまの社会がイカれている」と強い思念を持って、時代が変わるのをひたすら待つのが正しいのかもしれません。

歴史に波があるのは間違いなく、その波に欲望や功名心にかられ無理に乗ったり、また抗おうとしなければ、無理してがんばらなくても、ただ自由に楽しくブラブラ過ごしているだけでいいんです。
なにがあってもいいように身支度だけして。
そうすると、周りが次々といなくなるので相対的に浮上し、さらに自由度が増すのは、何度も経験から理解しています。

世界的な大きな変化は、不思議なことに秋に起き、日本では冬に起きることが大半です。それが今年か来年か数年後か、わかりません。
でも、そこまで遠くはありません。

いま、それなりに平和だった夏が、ゆっくり終わろうとしているのを実感する今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.481 2020年9月4日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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