やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

東京15区裏問題、つばさの党選挙妨害事件をどう判断するか


 選挙というのは民主主義のインフラであり、これへの妨害は社会に対する攻撃だという法的解釈が一般的で、演説の自由に対する妨害行為は公職選挙法で制限されています。

 ところが、今回の一連のつばさの党・根本良輔さんとその一派による出馬各陣営への妨害は許容されるべきものではなく、選挙期間中も所轄署からの警告も出ていたこともあり、近い将来お沙汰があるのは間違いないところです。

 で、実のところこの事件はふたつの大きなコンテクストがあって、片方がつばさの党代表の黒川敦彦さんとそのスポンサーと目される山中裕さんが、過去の関係先でもある旧NHK党の立花孝志さんとの法的トラブルで「暴力団関係者にカネを支払い『暴力団関係者から立花孝志さんが2,000万円(金額は諸説あり)を借りたという金銭消費貸借契約』を偽造させ、裁判でこれを提出した事件」という話があり、つまりは旧NHK党からつばさの党に至る関係先に何らかの反社会的勢力タッチがあったんじゃないかと目されることです。

 ここで関わったとされる暴力団関係者は界隈ではそれなりに知られた人であり、どうも証拠の捏造を行って裁判所に証拠として提出してしまっていたことは事実のようなのと、山中裕さんはジャーナリストの横田由美子さんや山口三尊さんなど面白界隈ウォッチャー村とも裁判をやり、果ては上杉隆さんとの関わりまであったり、まああらゆる角度から見てあまり近寄ってはいけないタイプであることは指摘せねばなりません。

 つばさの党を構成している面々についても、どうしてこう揃いも揃って粗暴な若者をうまい具合にかき集めてきて徒党組んでるのって話もあるわけなんですが、過去に根本良輔さんが出演したとみられるホモビデオの制作会社がまた微妙な立場の人たちで、彼らの関わりの中から頼まれてつばさの党の運営や応援を(有償という説もあるが)頼まれたのだという話になっています。

 なんじゃそりゃと思うわけですが、このつばさの党に参画している人物の一人は以前私も別のベンチャー企業で手伝っていたときに中山太郎さんの秘書やボランティアで協力していた面々が含まれていて、ただ昔からの繋がりだったわけでもなさそうで、いま見たらなんかへんなYouTubeまで顔出しでやっていて「おまえ何してんの」って感じの話になっています。

 いずれにせよ、面倒くさい方向からのタッチがあるという文脈から警視庁も捜査二課だけでなく公安まで出てきて事情を聴いて回っているのは素敵な話で、本件の事態認定の転がり方によっては単発の公職選挙法違反の事案ではなく組織犯罪処罰法とかそっち方面のネタに発展する可能性が否定できません。

 一方で、もう一つのコンテクストとして出ているのは警察庁・警視庁の事情による部分もあり、これは安倍晋三演説妨害事件で札幌高裁がヤジを飛ばして演説を妨害した男性の表現の自由を認めた控訴審判決が尾を引いている面があります。

やじ排除で賠償命令 男性の訴えは退ける 札幌高裁

 実のところ、過去にもつばさの党代表の黒川敦彦さんが安倍晋三さんが単独出馬していた山口4区補選に立候補し、安倍陣営や安倍昭恵さんに嫌がらせを繰り返していた事案がありましたが、これも結局は「立候補者であるから逮捕されない」という暗黙の了解を悪用したやり方で逃げ切っています。

恐怖!黒川敦彦陣営が昭恵夫人の手を握りSPに緊張が走る!事務所への嫌がらせ訪問や嘘の選挙情勢流布も

 これらの演説の自由の妨害に対する事態認定は、立候補者であるか演説の聴衆などのただの国民かで差のあるものではないということです。ただ、問題は先にも挙げたような「表現の自由」を警備当局が妨害したとされて賠償請求されて高裁で認められてしまうような状況があると、当局としても積極的に対処しづらいという事実もまたあります。

 これが奈良県警の失態と扱われる安倍晋三さんの選挙演説暗殺事件の理由なのだとまで飛躍させるつもりはありませんが、選挙活動とその妨害については、選挙カーや演説場所の先取りの問題など、一定の暗黙の了解や紳士協定で成り立っていたものをフリーライドする勢力が出たり、当局が選挙期間中は踏み込んだ対策を取り得ない状況で派手に妨害されてしまうと、妨害された陣営は落選するなどして取り返しのつかない事態となることも考えられます。

 今回は特に、東京15区では与党候補が出ておりませんでしたので、前述の安倍晋三さんへの選挙妨害のような権力者への妨害とは異なることから野党がワイワイ騒いで警察の動きを批判したりもしております。選挙は与党も野党も公平であるべきで、今回のつばさの党がこのような妨害をしたからにはもちろん問題視される一方で安倍晋三さんへの演説妨害についても等しく野党からもきちんと選挙のルールを守り民主主義に忠実であるべきという話が出ても良かったのかなとは思います。

 そして、一連の事態では一国民が騒いだというよりは、小さいながらも組織的バックのある団体による妨害であったことを斟酌するならば、公職選挙法の厳格適用のあり方をいま一度考えるべきだという声も上がるでしょうし、また、民主主義のインフラへの攻撃を問題勢力とつるんで実施していたのであれば公職選挙法ではなく組織犯罪処罰法だろうという風にも思われています。どう転ぶかは分かりませんが、同じようなことを都知事選でも起こすとつばさの党が宣言していることを考えても、あまり緩い決着にはしないのではないかと思うのですが、さてどうなりますか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.440 つばさの党選挙妨害事件についてツッコミを入れつつ、経済安全保障にまつわるあれこれやネットのなりすまし事案について触れる回
2024年5月1日発行号 目次
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【0. 序文】東京15区裏問題、つばさの党選挙妨害事件をどう判断するか
【1. インシデント1】経済安全保障と網の目のかからないところからのざる問題
【2. インシデント2】なりすまし行為がそれなりにペイしてしまうネットの問題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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