切通理作
@risaku

切通理作メールマガジン「映画の友よ」

夫婦ってなんなんだ、結婚ってなんなんだ

『なん・なんだ』

烏丸せつこさんインタビュー

結婚40年を迎える美智子と三郎。大工を引退してしばらくになる三郎だが、ある日、美智子が関西で交通事故に遭ったことをきっかけに、妻が自分とは別の男と、33年もの間、逢瀬を重ねていたことを知ってしまう。美智子が入院している中、三郎は娘の知美とともに、妻の過去を知る人々に会っていくのだが……。

山嵜晋平監督のオリジナル企画を中野太が脚本化した本作は、自分が思い描いていた人生のシナリオが、妻とも娘ともズレていたことがわかり、1人みんなから気持ちがはぐれて、焦り、もがく男の話であるとともに、1人の女性である妻そして娘の視点から、結婚とはなにか、恋愛とはなにか、家族とはなにかを問い直す物語でもある。


 今回は美智子役として、夫の下元史朗氏とともにダブル主演となった烏丸せつこさんにお話を伺った。

切通 去年の9月28日、キネマ旬報の取材で撮影現場見学に参りました、切通という者です。

烏丸 病院の撮影の時に来てくれたでしょ? あの日は脚本の中野太さんも来たけれど、私には会わないで帰った。

切通 そうなんですか。

烏丸 怖いから。私がホンに対して文句ばっかり言ってるから。
 あの時外でタバコ吸って、質問に答えたでしょ。

切通 はい。

烏丸 あの時も言ったでしょ。私は(この脚本)アウトなんだって。「ここ気持ち悪いンだけど。変えようよ」って言ったら(監督の山嵜晋平さんは)「わかりました。検討しときます、考えます」って言うけど、でもギリギリまで「どうなった?」って訊いても、全然何も答えてくれなくて、そのまま言わされる羽目になったみたいな。

切通 おっしゃってましたね。

烏丸 そうでしょ? じゃあ「ここはこういうことだから変えられません」と言やいいのにさ。「変える」「変える」って言って変えてこないからさ。「なんで?」って。それなりのこと説明してくれよっていう。だからたぶん寺脇グループ(本作のプロデューサーは寺脇研さん)からはこう言われ、こっちからはこう言われ、結局あっちを選んだみたいな。監督が。

切通 間に立って迷われたんでしょうか。

烏丸 迷ったっていうか、自分が監督だから、自分の意見を言えっていう話だよ。

切通 この映画は、最初どんな風にお話が来たのでしょうか。

烏丸 「ホン読んで」って。ペラで。なんか面白そうになる予感がしたんだよ。ずうっと30年間も隠れて男と会ってたとかさ。

切通 あ〜。

烏丸 「なんか面白そうじゃん」と。でも「原因がコレかよ〜」って。そこはまあ、話し合い出来るかとか。やっぱり、夫婦ってどういうアレなんだろうっていうことを問いかけられるじゃない? 結婚ってなんなんだろうとか。ホントに「なんなんだ」だよ。……ということを、ちゃんと撮っていけば「あ、面白いな」って。

切通 今回は「夜間飛行」の「プレタポルテ」という媒体でお話伺いに来ました。

烏丸 あれは見たよ。シモさん(下元史朗/『なん・なんだ』では烏丸さんの夫役)と(高橋)伴明にしたインタビュー。

切通 ありがとうございます。高橋伴明監督の『痛くない死に方』の時ですね。

烏丸 伴明さん、『なん・なんだ』の推薦文みたいなのも、書いてんじゃん?「これは赦しの映画かもしれない」って。なんで? あなたはどう思った? ぶっちゃけ。

切通 僕は事前にシナリオ読ませて頂いてたんですけど、そこでは唐突に感じられたようなことが、映画ではあんまり気にならなかったです。

烏丸 うわー。もう語ることないわ。

切通 そんな……シナリオでは感情のつながりがよくわからないところもあったんですけど、でも映画観たら、飽きさせない形で持っていくんだなと。字面で読むと平板なところでも、映像ではわりと持たせているなって。動線の引き方がいいのかな。もちろん烏丸さん以下役者さんの演技で立ち上がっている部分も大きかったと思いました。

烏丸 役者ったって、佐野(和宏/烏丸さん演じる美智子の不倫相手である医師役)だって役者じゃないじゃん。監督でしょ。

切通 監督ですけど、キャリアとしては役者が先ですよね。

烏丸 あっ、『狂い咲きサンダーロード』(1980)出てるね。ヤマタツ(山田辰夫)の。
 いやかわいそうだよね。声失くしたの(註:佐野さんは喉頭がんで声帯を取っている)。かわいそうだけど、なんでワッキー(寺脇研)と友だちだったからって、出したらさあ、結局そこでなにか、芝居が途切れるじゃん。和田光沙(註:烏丸さんの娘役で出演)がさ「そうなの」「そうなの」っていちいち問い返さきゃいけないしさ。なんでそんなお友達集めてやるの?みたいなさ。

切通 あれはでも、山嵜晋平監督の方の意向でのキャスティングだと聞きました。佐野さんは寺脇さんプロデュースの『バット・オンリー・ラヴ』(2015)を撮っているから、僕も実は最初寺脇さんつながりかと思ったんですけど「俺じゃないんだ」とおっしゃっていて。それを逆に寺脇さんがオッケーしたということのようです。

烏丸 佐野も常に文句言ってたよ。「やだこんなの」って。でもあいつは「えへへ、俺なんで出るんだよ?」みたいなこと言ってるから、かわいらしいんだけどさ。

(c) なん・なんだ製作運動体
 

余韻を残す「考えさせられる映画」に

烏丸 私はこの映画、「よかった」とは感じなかった。とにかくキモチワルイ箇所がいっぱいあったから。そっちの方の印象が勝ってるな。すごくいいショット撮れてるなあってところが全カットされてるしさ。
 私と下元さんの2人が帰るじゃん、団地に最後。あそこで、とぼとぼ、とぼとぼ、くねったところを2人で行くシーンがあったのよ。何分も歩かされて。それはいい場面かなと思ってさ。
悶々とさ、2人で何を考えてるか、離婚するのかどうかわかんないけど、「ああ、せつないシーンだったな。いいとこ撮るなあ」と思ったんですけど、それで最後のシーンに行くわけじゃない? ベランダでタバコ吸って写真撮って「あなたのゴツゴツした手が好きだった。笑って」って私が言う。そこで終わればよかったんだよ。
そのえんえんと歩いてる一番いいとこ全カットだよ。何考えてるんだよって、もっとさ、なんちゅうの、映画の……映画のあり方とかわかってんのかなって。
 ツッコミどころはそこだけじゃないけど。一番の私のツッコミどころは、この女(註:烏丸さん演じる美智子のこと)が佐野とずっと浮気してるじゃない?(夫から)大事にされてないとか変なこと言って。その原因が「私から誘ったのに、応えてくれなかった」って。

切通 病院のエレベータのところで、過去を振り返って。

烏丸 そうそう。「ここ、気持ち悪いんだけど」って私が文句言ったら、(監督は)「そうっすね。考えておきます」って言うんだよ。撮影の2日前まで。でもさ、そのまま当日になって、現場に来ちゃったら、もうやるしかないから。現場で「これがいやだ」「あれがいやだ」って揉めたくないんだよ、私は。スタッフもいるからかわいそうだし。だから前から言ってるのにもかかわらず……それでも私勝手に変えてるからね。なるべく。気持ち。たとえ理由がそうであっても、言い方とか。

切通 セリフを言う時の気持ちのニュアンスを。

烏丸 でも無理じゃん。「私あなたが押し入れに隠してるエロ本見て、死にたかった」とか。「そんな自分がいやでいやで」とか。そんなセリフ言いたくないっていうか、もっと違うセリフ書けっていうか、私書けって言われたら書くから、その部分だけでも。もっと早く「烏丸さん、どんなセリフがありますか」って言ってくれたら書いたのに。「こんなん、どーお」って。でも監督の作品だから、あいつが考えてくれてるかと思ったのに、
 そういうのがけっこういっぱいあった。下元さんと2人、京都の河原で喋る時も、私が「私の40年返して」とか言うわけ。そういうセリフは、この期に及んでもうイヤだと。「なんだったんだろうね。私たちの40年は」に変えたりだとか。

切通 それが映画のタイトルになったんですね。

烏丸 宣伝にもいっぱい使ってね。そういう細かいセリフを積み重ねていって、丁寧に映画って作っていかないと……私たちはコマだから、ずっと監督の言う通りやるわけ。それがちゃんとしてないと、役者はどうやってやっていいかわかんなくなってくるんだよね。ものすごいキツかったですよ。
 で、夫とも不倫相手とも「2人とも別れない」とか言うんだけど、そんなこと言わなくても、どうなるかわからないってとこで引っ張っていかないと。ラストにかけてなんだから。
 佐野が最後(痴呆が進んでいると診断され絶望した)下元さんに語りかける長いセリフも、佐野の声が出ないから、何言ってるかわからない。(監督は)「いや、わからなくても伝わるから」って。いやいやいやいや……。

切通 「生きてください」。

烏丸 よく知ってるじゃん。聞こえたの?

切通 いや、(スクリーナーの試写だったので)何度も再生して聴き直しました。

烏丸 映画館はそういうわけにはいかないじゃん。

切通 たぶん部分的には聞こえますよね。

烏丸 私も「なんだったっけ」ってホン読み返したらさ、嫌なセリフだと思って、それ佐野さんが言ったから聞こえないからちょうどよかった。「生きる」ってとこだけで。

切通 そこだけわかりました。

烏丸 佐野っちがあそこでそれ言うのもさ、あまり説得力ねえよな、あんなの。あそこで下元さんに言ってもさ。「お前、それまで何してたんだよ。よくそんな、当の旦那に言えるよな」みたいな。

切通 佐野さんが下元さんの奥さんである烏丸さんと不倫してたわけですからね。

烏丸 そういうとこもホントに、なんか男の人の感覚……でも別の取材でもみんな「キモチワルイ」って言ってたよ。いろんなところに。箇所箇所。女だけじゃなくて、男もそうだったみたい。


 

この映画を観てほしいから

烏丸 やっぱり最後、団地に帰っていってさ、タバコ吸ってる私と下元さんの後ろ姿。あそこはいいな。どうせ死ぬんだから好きなだけ吸いなって。「写真撮ろう」って言って。「あなたのゴツゴツした手が好きだった」。そこで終わればいいじゃん。やっぱ好きだったんだよ。結婚したときは。きっと。ね? 

切通 (チラシ出して)まさにこの場面。


(c)なん・なんだ製作運動体

烏丸 そこで終わってほしい。
 (チラシ見て)これ見たら、なんか観たくなるよね。映画っぽいじゃん。

切通 そうですよね。とっても観たくなる。

烏丸 そうでしょ? 「俺の人生、なんなんだ」って。長年連れ添ったのに……みたいなさ、そういうので呼び込もうとしているんだけど、みんなをガッカリさせたくないんだよね。観てくれたお客さんを。
あなたみたいに「そんなに悪くなかったよ」って言うと、観に行く人もいるかもしれない。でもそれで嬉々として「素晴らしい映画が出来た」って言うことは私には出来ないんだよね。なぜかって言うと「烏丸がいい映画だって言ってたから観に行ったけど、なんだこりゃ、烏丸なに考えてんだよ」って思われたくないから。映画好きとして。映画ファンの人にも申し訳ないから。
それだったらあからさまに言ってるツッコミを読んで「観てみよう」となるのか。観て「ホントだ」って言うのか、「そうでもなかったよ」って言うのか。結局は観てほしいんだけどさ。まあそんな、高い金じゃないから、観に来ちゃどうですか。「女の人はすごい共感できるかもしんないし」とか、「男は身につまされるし」みたいなことをさ。私たちは宣伝しなきゃいけないから。この映画を観てほしいから。「こういうツッコミあるけど、こういうところはいいよ」って。
 だからさっきの写真のくだりの後、最後の消えてく感じとかはね、いいんだよ。映画的に。「人間って、こんなもんなんだよ。消えていくもんなんだな」とかさ。そこで終わってほしかったな。なんか余韻的なもの?映画っぽいじゃない?


(c)なん・なんだ製作運動体

烏丸 そういう風になるのかなと思ったら、最後みんなで円卓囲んで記念写真になるっていうさ、キモチワルイのになっちゃって。要らないじゃん?
 ボケてく旦那を愛人の医者がやってる病院に入れて、私はカメラかなんかまたやってるみたいな。そんなのなぜ見せる?あえて。「カッコ悪ぅ〜」と思った。

切通 たしかにエピローグ的なくだりはちょっと多かった印象はありました。

烏丸 多いでしょ? 尺が欲しかったのかな。尺が欲しかったなら、えんえん二人で歩いてるとこ使えよ、あそこが一番映画的なんだから。

切通 ただ、おっしゃったように、人物が歩いてるのをカメラが付けてるのはところどころあって、入っていけたんですよ。

烏丸 他には、どっかあったっけ。

切通 わりと最初の、烏丸さんが事故に遭ったっていうので、下元さんが……。

烏丸 走っていく?

切通 ええ。

烏丸 あと、ボケ始めてどこ行ったかわからなくなるみたいな。

切通 ウロウロ歩いてるところ、けっこう多かったじゃないですか。

烏丸 ああいうとこ、いいんじゃない?

切通 いいですよね。

烏丸 そうそう。下元さん頑張ってるけどね。


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身につまされろよ、男ども

切通 最初の方で、烏丸さんに電話で「もつ鍋が食べたい」って下元さんが言うと、烏丸さんが「絶対に嫌」って拒絶するじゃないですか。下元さんからすれば、もつ鍋は妻の好物だと思ってたのに、これまではお付き合いで食べてただけだったと。

烏丸 もつ鍋って象徴なの。彼女が育った貧乏な時代の。だから関西が出てくる。

切通 そこを表わしてるんですね。食べ物で。

烏丸 そうそう。

切通 それはわかんなかった。

烏丸 わかんないよね。誰も気づかないし、古いっつうんだよ。美智子は新地で働いていた母親の、客との子っていう設定なんだけど、客となんかそんな、妊娠しないよ。絶対に。プロだから。新地に失礼だ、ホントに。そういう構図で、私は貧乏でもつ鍋アレルギーっていう、わかりやすいところで作ってる。

切通 寺脇さんは、ご著書の『昭和アイドル映画の時代』でも、自分が若いころ観た60年代後半の映画で、同じ世代だけど金持ちの子が居たり貧乏な子が居たり、そういう時代背景で作られた青春ものが好きですよね。黒沢年雄さんが主演だったり。

烏丸 え、そうなの?階級があって?

切通 階級があって、片方が労働者でみたいな。

烏丸 そういう構図が好きなんだね。それを仲間内で楽しくやってんの?

切通 前半は仲間になるんですけど、同じことをして捕まっても金持ちの子は釈放されるみたいな、そういう社会状況が反映されているような。

烏丸 ああ。そういうの、昔の人は描くじゃない? そうしたら別な視点はあるよねっていう。いまも実際いるんだから、貧困層は。そちらが好きだとしたら、そういう風に考えればよかったのにって。そこはボカして、ヘンに「もつ鍋」っていう言葉だけ残ってるからわかりにくい。


(c)なん・なんだ製作運動体

切通 下元さんが、妻の烏丸さんが昔付き合ってた外波山文明さんに会いに行くところで、彼女の生い立ちが明かされていきますね。

烏丸 外波山さんが「ここで俺が美智子の写真撮ったんだよ。あいついじめられててな」とかなんとか。飛田新地で、貧乏な境遇で育った私がそっから逃げて、下元さん演じる三郎と結婚したのはいいけど、その三郎の大工っていう貧しい職業と、私のつき合ってる佐野の医者っていう、わかりやすいブルジョアとの構図。それがものすごい古臭いんだよね。「全共闘」とかのセリフも、もう要らんって。でもたぶんワッキーはものすごい入れたいんだよ。観た人の中に「大人のノスタルジーだ」とか言ってた人もいるけどさ。でもそんなのイキナリ振られてもいやだよ〜みたいな。

切通 佐野さんの医者が「命を賭けた遊びだった」とか言って振り返って、昔全共闘に燃えてたと言うけど、でもその割には、医者のお父さんから勘当するって言われたら、烏丸さんとの結婚をあきらめたわけですもんね。そこには命賭けないのかよって。

烏丸 そうだよ。なんだよそれって(笑)。

切通 世の中変えられなくても、個人的に階層を乗り越えたんならともかく、それすらも出来てない。

烏丸 で、私が会いに来たらそのまま付き合うわけでしょ。あんまり、魅力的な人たちじゃない。

切通 しかも、奥さん以外は烏丸さん一途だったのかと思ったら、指で今までの彼女数えだして。

烏丸 あんな数えるのなんかしないよ。カットせいや。

切通 (笑)あそこは面白かったですけどね。

烏丸 佐野が言うじゃない?女とは、同じ水で一緒に泳いだ方が楽しいって。ドすけべ野郎。なんちゅうセリフなのホンマにぃ。よく覚えてるでしょ?私も。(最近シナリオを)もう一回読み直したの。「キツイなあこれ」って。今後の反省のために映画館は行こうと思ってるんだけどさ。
でもみんなもっと話し合って、いい映画にしようってのはないのかね。私もワッキーと話したことはないしそんなに。監督は話そうとしないし。現場で佐野とだけいっぱい話して。佐野っち面白いから。「ここキモイよなあ」とか言って。それが現場の救いだった。

切通 最初僕が現場にお邪魔した時、烏丸さんの笑い声だけが聞こえてきて……。

烏丸 そうそう。佐野が笑かすんだよ。声が出ないから(会話用のボードに)書いて。あいつ悪口ばっかり書いてるから。寺脇はなんとかかんとかって。「なんでこんなの出てんだろ」とか。「よくそんなセリフ言えるな」とか、私に向かって書いてくる(笑)。


 

「結婚ってそんなものなのよ」って言いたくなかった


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烏丸 私が佐野とイチャイチャするとこあるじゃん? あれ照れるんだよ。イチャイチャも要らないんだよ、病院にまで来て。(夫の下元さんから)バレたところ。佐野が来てるじゃん?

切通 でもあそこがないと、烏丸さんと佐野さんの愛人関係が説明だけになる。

烏丸 キモッ。

切通 ああいうちょっと艶っぽいシーンが1個もなくなっちゃうじゃないですか。

烏丸 要らねえんだよだから。もうちょっと良い撮り方ないのって。監督のアイデアも何にもないし。最初は、髪梳かして「ブラシしてくれる?」みたいな。で、「恥ずかしいわ。口紅は?」とか言って、(その流れで)キスするシーンだったんだよ。キモイ!でもかろうじて佐野が「なんか、俺が飴玉でもあげるか」って言ってくれて。なんか2人仲良しだなあみたいな。

切通 佐野さんから飴玉もらった烏丸さんが口に入れて照れた顔するところ、中高年の年代の人が少女の面影になるのが、すごい好きですけど。

烏丸 それはそれでいいとしても、ジジとババがイチャイチャするのはき〜もちワリイ。あと鴨川で手ェつないでるのもキモーイ。

切通 (苦笑)。

烏丸 いや、手さえつながなければ……2人で喋ってるところはやっぱり良い感じじゃん? 「私、甲斐ちゃん(佐野さんの役名)と一緒になってたらどうなってたかなあ」とかさ。「今度はお葬式来てや」とか。でもそこで耳とか噛むなよみたいな。「キモ!」と思って。
もう会わないつもりなんだよ、たぶんこの女は。

切通 夫にバレてから、佐野さんとも別れると決めたと。

烏丸 もう会うこともないんだよ。旦那にバレて、ホッとしてんだと思うよ。
ちょうどいい時、旦那が認知症になったし。ああ、この人はいいわ、忘れていく。でも私は一人で再スタートするわみたいな。

切通 そういう気持ちになってるから、バレた後にいまさら佐野さんとあんなイチャイチャはしないのではみたいな?

烏丸 そうそう。そしたらもっとお客さん引き込めるんだよ。「どうなっていくんだろう」って。

切通 そこはリアリティのある女性の意見ですね。

烏丸 そうでしょ? あんたたちは男と女が仲良くしてると「ヘヘヘ」って嬉しそうに見てるんでしょうけど。

切通 でもやっぱそういう場面がないと。せっかく烏丸さんが出られてるんですから。
烏丸 女の客は多分それ気持ち悪いと思うだけだよ。

切通 はあ〜。

烏丸 しかも、病院に居るんだよまだ。私が寝てて。そこに来て。イチャイチャ、イチャイチャして。「甲斐ちゃん来ると思わなかった〜」とか。こういうところ、お客さん正直に観るからホントに。「キモ〜」とか。「ゾワ〜っとする」とか。だからこれは男の(書いた)ホンなんだなと思って。男の中には、そんなに違和感ないっていう風な人はいた。たしかに。そういうことなのかなと思った。わかんないけどね、それは。

切通 生理的に受け付けないものは受け付けないと。

烏丸 もつ鍋嫌いだったけどあなたが好きだから、食べ続けてたら好きになった。結婚ってそんなものなのよ……っていうのも言いたくないんだよ。カッコ悪いから。

切通 カッコ悪い?

烏丸 なんでそうやってしたり顔でわかった風な口きくのって。もつ鍋嫌だったけどあなたが好きだったから一緒に食べてっただけって終わらせばよかった。その方がもっとお客さんも考えるわけ。
「結婚ってそんなものなのよ」って言いたくなかった。嫌だったけどあなたが好きだったから食べ続けてたら好きになっただけ。なんで嫌いだったのって訊かれて、その答えだけでよくない?って何度も言ったんだけど。


 

「結婚2度説」

切通 佐野さんが下元さんに殴られながら突然「昔ゲバ棒ふるってた」とか言いだすじゃないですか。

烏丸 2人が喧嘩するところでしょう。

切通 シナリオで読んだ時は唐突だなと思ったけれど、映像で見ると、まあそうでもないかなと。

烏丸 そういう喧嘩っ早い男をやりたかったんだろうけど、普通しないよねえって。いきなり殴りかかるぅ?って。私も殴られるし、娘も殴られるし。「なんやねんこれ」って。すごい、ステレオタイプな昔の、ひどい男。で挙句の果てに(佐野さん演じる医師に)「(美智子は)お前にやるよ」って。私、モノじゃねえし。そういうことにお客さん、ものすごい引っかかるんじゃないかなと思って。「なにこのホンは」って。

切通 でもそういう夫は世の中にいまだに多いんじゃないですか。

烏丸 ほとんどそんなおっさんばっかりやん。嫁のことをなんにもしないし喋りもしないしセックスもしないしなんなんだよこのオッサンみたいな。
成り立ってないじゃん、この夫婦も。だからそっち(不倫)に行くんじゃん。きっとせいせいしたと思うよ、この女。夫の方も、ちょうど認知症になってホントに良かったと思う。普通じたばたするじゃん。狼狽するじゃん、誰でも。

切通 夫の方も、古いタイプの男のままでいたら、置き去りにされちゃったみたいな。

烏丸 だから「身につまされろよ男ども」って。そういう見方も出来る映画だよ。
 でも身につまされたって、いまから急に嫁には喋りかけられないじゃん。長い間こんなカッコつけてごめんなとも言えないしさ。かわいそうだねえ。夫婦ってなんなんだ(笑)。結婚ってなんなんだ。
 もともと好きでもないのに結婚してっていう、そんなずっこいことはこの女(註:美智子)もないと思う。ただ1点、ずうっと秘密ごとを抱えて生きてきたっていうのは……もっと自由な方法でやればよかったのにって。
いまの若い人たち……こんなのわかんなくても、年寄りが観ればいいんだけど……どう思うかなあって。
私思ってるんだけど「結婚2度説」っていうのはいいねって。夫婦って、嫌になることはあっても、お金のこともあるしメンドくさいし簡単に別れることは出来ないじゃん。人生2度……最初若いころは好きで結婚したかもしれないけども、長年経ったら、50歳あたりで法律的にもう慰謝料とかも取られなくて「あなたどうなの?これから先も行きます?」って。

切通 あ〜、制度としてですね。

烏丸 そうそう。そのまま行くんでも行かないんでもいいんだけど、行かないんなら、金を渡すとかそういうのじゃなくて、財産も普通に分けて……みたいな。そうしたら、片方が「好きな人が出来た。私、50からこの人と生きて行く」とかきれいに……それだったら面白いよね。だってもう、人生100年時代だよ。そんな、嫌なままさ……あなたが来る前の取材の記者も言ってたけど。「(妻とは)全然喋らない」って。


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私はお母さんとは違う

切通 寺脇さんはなにかおっしゃってましたか。「烏丸さんでこういう映画を作りたい」とか。

烏丸 言ってない。私のキャスティングは別のキャスティングプロデューサーだから。ワッキーはたぶんピンク映画に出てた人でまとめたかったんでしょう。ピンクの女優さん、私の年ぐらいでもいるじゃないですか。それがうまくいかなかったから私に来たみたいな感じじゃないですか。

切通 そうなんですか。

烏丸 だから私だけはちょっと異質じゃん。匂い的にはそっちのあるかもしれないけど、たぶん異質なんだよ。そういうノスタルジーが好きなんだよ、ワッキーは。

切通 夫役の下元さんは、現場では「二の線」だったって、おっしゃってましたね。

烏丸 一生懸命情けない役をやろうとして素晴らしいんだけど、時々二の線が出るんだよな。もともと、精神が「二」の人。時々出るのよ、会話に。見えるの。

切通 他の役者さんはいかがでしたか。

烏丸 あの子好き。吉岡睦雄さん。

切通 和田(光沙)さんの不倫相手の。

烏丸 おもろい。正名僕蔵みたいな芝居するじゃん。

切通 そっくりだとよく言われてますね。

烏丸 なんとなく、おもろい芝居する子やなと思って。和田との、あの噛み合わない感じとか、あのシーンはよかったわ。うまいなあ、あいつホントに。「吉岡さん、褒めたよ〜」って伝えたい。単独で観たらあのシーンが一番面白いんじゃないの?っていう(笑)。

切通 あの車の中の、和田さんと2人の場面ですね。

烏丸 三島(ゆり子)さんもよかったんじゃない? 

切通 烏丸さん演じる美智子のお姉さん役ですね。


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烏丸 あの辺に住んでそうな。リアリティあったよねって。いいところがあったのはそういうとこ。吉岡さんと三島さんがよかった。和田もよかったよ。和田はうまいんじゃないですか。芝居自然だしね。一生懸命監督と打ち合わせしてたけど。

切通 和田さん演じる娘は、お母さんが長年不倫してるってわかったとき、自分の不確かさに向き合いますよね。


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烏丸 それも、そういう「血」?だから「私も風俗嬢になろうかな」とか、たぶんそういう風に思ってるんじゃないの? 私のオカンがそうだったから私も……でもその前に不倫してるんだよ娘自身が。

切通 自分も不倫してるからっていうのも当然あるわけですよね。

烏丸 それでお母さんの気持ちが知りたかったっていうのは整合性取れてないんだけど。ホントはその前に浮気してるんだからあいつも。でもホン屋さんの意図としては、その位置を同じにしたかったんだろう。それが私は「いやだ〜気持ちわりぃ」と思って。そういういろんなツッコミどころがある。でもそんなの、気にしないで観る人もいるからさ。一回だけ見た人は、気持ち悪いところやツッコミどころがあったとしてももう、全体観たときの感じだからね。

切通 娘も最後に「私はお母さんとは違う」って言いますよね。

烏丸 あそこは良いんだよ。すごい良いんだけど、あれを最後の蛇足の方に持ってくるんじゃなくて、本編に入れときゃいいんだよ。そしたら娘と母の2人の関係性はもっと出た。微妙な感じの、2人の。お母さんの気持ちはわかるけど、私はお母さんと違うからって。
そういう、ところどころには良いところがある。「良いところを見つけようよ、みんなで」なんて(笑)。
 すみません、うまくまとめてくださいね。


烏丸せつこ からすま せつこ

1955年生まれ、滋賀県出身。1979年6代目 (1980年度) クラリオンガールに選出され、芸能界デビュー。日本人離れしたプロポーションで、当時のグラビアを席捲した。映画 『海潮音』(80/橋浦方人)に出演し、女優としてのスタートをきる。同時期に五木寛之のベストセラー『四季・奈津子』の映画化で四姉妹の主役・奈津子役に抜擢され、映画『四季・奈津子』(80/東陽一)にて初主演を飾り、日本アカデミー賞主演女優賞・新人賞、ゴールデンアロー賞新人賞受賞、『駅 STATION』(81/降旗康男)で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。主な出演作に『マノン』(81/東陽一)、『松ヶ根乱射事件』(06/山下敦弘)、『祈りの幕が下りる時』(17/福澤克雄)、『教誨師』(18/佐向大)、『彼女』(21/廣木隆一)、『明日の食卓』(21/瀬々敬久)。次回作として、『夕方のおともだち』(22/廣木隆一)など。

『なん・なんだ』

1月15日(土)より新宿K's cinemaにて公開 全国順次公開
監督 山嵜晋平 脚本 中野太 企画 山嵜晋平 プロデューサー 寺脇研 撮影 山村卓也 照明 神野誉晃 録音 篠崎有矢 美術 三藤秀仁 衣装 米村和晃 メイク 木内香瑠 音楽 下社敦郎 助監督 冨田大策 デザイン 成瀬慧 
出演 小田三郎:下元史朗 小田美智子:烏丸せつこ 甲斐田一雄:佐野和宏 知美:和田光沙 鴨下:吉岡睦雄 明梅田勇:外波山文明 絹代:三島ゆり子
配給:太秦

公式サイト:https://www.nan-nanda.jp/
公式ツイッター:https://twitter.com/nan_nanda0115

切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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