高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

コーヒー立国エチオピアで知るコーヒーの事実

高城未来研究所【Future Report】Vol.587(9月16日)より

今週は、エチオピアのイルガチェフェにいます。

近著でも書きましたように、エチオピアには「エチオピア時間」という、なかなか理解できない時間と暦があります。
先週金曜日、このメールマガジンを発行した日時は、日本時間では2022年9月9日16時20分でしたが、エチオピアでは2014年13月4日16時20分になり、本日は年が明けて2015年9月6日です。

何度教えてもらっても、サッパリわかりません!

今週日曜日が「エチオピア時間」では元日(9月1日)だったことから、そこらじゅうでハッピーニューイヤーの文字が掲げられ、一晩中大騒ぎ。
翌月曜の挨拶は、もちろんハッピーニューイヤーです。

みなさま、あけましておめでとうございます!

さて、イルガチェフェ。
エチオピア南部ゲデオに属するこの地域は、世界一との呼び声も高いコーヒーの生産地です。
トリッシュ・ロートゲブが作った高品質を重視するマーケティング・ワード「サードウェーブ・コーヒー」が、リーマンショック以降米国で大ブームとなり、スターバックスに代表されるアンフェアトレーディングが蔓延る大量生産大量消費型のセカンドウェーブ・コーヒーのカウンターとして持て囃されました。

しかし、エチオピアでは誰も「サードウェーブ・コーヒー」という言葉を知らないばかりか、「シングルオリジン」などと言っても不可思議な顔をされるだけ。
なぜなら、単一農園・単一品種で分けられたコーヒーを意味する「シングルオリジン」の実態は、僕が見る限り、相当怪しいからに他なりません。

一般的にコーヒー豆は、複数の農園で採れたものが混合しています。
出荷の段階で同じ場所に集められてしまうため、トレーサビリティが辿りにくく、風味の個性も生かしづらくなるので「シングルオリジン」が好まれるのですが、エチオピアを見る限り、「コーポラティブ」と呼ばれるユニオンや投資家が作った水洗式精製所にあちこちから持ち込まれるため、単一農園・単一品種とは言い難いのが正直なところです。
しかも、イルガチェフェは強いブランドネームのため、他地域からこっそり運び込まれたコーヒー豆も少なくありません。
こうのような現実を見ると、「シングルオリジン」とは単なるマーケティング・ワードで、その上、(主にエチオピアン・ムスリムの)投資家に農家は散々買い叩かれまくっていますが、なぜかフェアトレードの認証を受けているのが実態です。

しかも、この国では浅煎りでコーヒーを飲む人は皆無なことから、「日本で飲むエチオピア・コーヒー」と「エチオピアで飲むコーヒー」は、まったく別の飲み物です。
いわば、日本の素敵なカフェで飲むエチオピア・コーヒーは、「エチオピアの豆を使った(アンフェアトレードな)ニューアメリカンコーヒー」なのです。

現在、エチオピアのコーヒー産業は、胡麻を抑え同国最大の輸出品になり常に外貨を稼ぐため、コーヒー・ビジネスに携わる人たちの地位が想像以上に高い印象です。
この傾向は政治にも反映され、日本はゼネコンと近しい政治家が強い力を持っていますが、エチオピアではコーヒーに近い政治家が力を持ちます。
その代表が、デスタ・リダモです。

リダモは、イルガチェフェなどのエチオピア南部シダマを代表する地域政治家で、コーヒー産業の力を背景に、二年前にシダマを独立自治州として中央政府に承認させました。
これにより自動車ナンバーも差別的だった「SP」(サウスピープル)から「SD」に変更され、地域アイデンティティが一層強固になっています。
まさにコーヒーキング!

また、シダマから首都アディスアベバへの幹線道路は、未舗装も多かったグラベルロードでしたが、アフリカ随一と言っても過言ではないほどの綺麗な有料道路に変わり、現在、シダマの首都アワッサまでの半分ほどが開通され、全開通は来年を予定してます。
これにより、6-7時間の航路が3時間に短縮される「コーヒーロード」が開通することになります。

さらに、地域独立した際、シダマ族ではないイルガチェフェを切り捨てました。
この背景には、イルガチェフェは多くの米国人投資家と組んで、コーヒーの値段を不当に釣り上げた事情などもあり、今後、エチオピア南部のコーヒー・トレンドは、品質も含め独立したシダマのイルガレムやディラに移ることが予測されます。
すでに大金を投じた農業研究センターの建築がイルガレムではじまっており、今後10年で近代化し、いままでとは違ったエチオピアのコーヒー豆(グレード1超)が登場するでしょう。
この様相は、わずか5年でTHC量が二倍になったカリフォルニアの大麻産業と酷似しています。

コーヒー立国エチオピア南部の地域国家シダマ。

値が上がらずに楽しめるのは、いまのうちだけでしょうからお早めに。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.587 9月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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