高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

日本の未来を暗示する名古屋という街

高城未来研究所【Future Report】Vol.671(4月26日)より

今週は、名古屋にいます。

昨年3月、タイム誌の「世界の最も素晴らしい場所50選」に日本では京都と並んで名古屋が選ばれ、市長や知事が歓喜の声をあげるほど地元では大騒ぎになりました。
なぜなら、日本の代表的都市の中でもっとも魅力に乏しい都市として2回連続選ばれた負の歴史があり、東京、横浜、大阪に次ぐ日本第四の都市ながらも、文化都市とも経済都市ともいえない中途半端な位置付けでした。

今週、名古屋市の都心部・栄で新たなランドマークとして期待されている「中日ビル」が開業。グランドオープンは長蛇の列で、日々大盛況です。

ただし、テナント・リーシングを見ると「リトルトーキョー」に思えてなりません。
中日ドラゴンズのキャラクター「ドアラ」がウロウロしている以外、床に自虐的とも思えるエビフライ模様がありましたが、ローカルらしさはほとんど見当たらず、正直「あたらしいのに内向き」な印象が否めません。

事実、インバウンドは東京、京都、大阪のゴールデンルート上にありながら、名古屋に魅力を感じて宿泊する人たちが極端に少なく、街を歩いても銀座や原宿のようなインバウンドばかりの場所は見当たりません。

その上、リニア中央新幹線が開業すると品川―名古屋間は約40分で移動できるため、10年も経たないうちに首都圏に組み込まれていくのは間違いなく、品川から見ると「横浜の少し先」あたりに体感上の名古屋が存在する印象になるように思えます。

そうなると、中部地方の意識的消滅を意味します。

中日、つまり中部日本は、日本列島の中央に位置することから東西のいいとこどりできる地の利によって、モノづくりとビジネスのバランスに長けていました。
名古屋の既得権は、長い間「五摂家」=松坂屋、中部電力、東邦ガス、名鉄、東海銀行でしたが、いまは見る影もなく、トヨタは三河ゆえ「五摂家」には入れません。

ところがバブル経済が崩壊し、銀行再編や自由化によって電力とガスが対立するようになって、「五摂家」は事実上崩壊します。
この間、国鉄分割民営化により東海道新幹線を引き継いだJR東海や、尾張に出てこないゆえ「三河モンロー主義」と呼ばれたトヨタが名古屋駅前に大進出。
現在は「新御三家」と呼ばれるトヨタ自動車、JR東海、中部電力が中心となって名古屋駅を中心に開発を進めてきましたが、栄の利権の多くはいまも「五摂家」が握っており、旧勢力と新興勢力(外様)の溝、もしくは尾張と三河の溝が埋まらず、「名古屋」という街を自ら定義できていないように見受けられます。
それゆえ、観光戦略含めたブランディングが大きく欠如しているのです。

今週、栄にオープンした中日ビルのオーナーは中日新聞社であり、江戸時代には尾張藩(名古屋藩)の家老を務めた白川家が強い権限を持っていました。
旧中日ビルは1966年に中部地方最大級のビルとして誕生。
中日劇場など文化の発信拠点となり、半世紀にわたり栄のランドマークとして親しまれましたが、名古屋駅周辺では2000年ごろからJRセントラルタワーズやミッドランドスクエアなど高層ビルが続々と誕生して一大商業地へと変貌。
岐阜県や三重県からのアクセスも良く、18年には名駅地区の百貨店売上高が栄地区をついに抜きます。

つまり、新しく開業した尾張旧勢力による中日ビルが競い合っているのは、三河勢を中心とした新興勢力による名古屋駅前の開発ゆえ、外に目を向ける気配がありません。

果たして、栄も名駅周辺も含む「大名古屋」の未来は「ジャイアント・トーキョー」の一端になるのか?
それとも尾張と三河が一致団結し、「新名古屋」を形成するのか?
もしくは、域内の力関係をいつまでも争うのか?

答えが出るまでに十年もかからないだろうな、と名古屋の街並みを歩き考える今週です。

どうもこの街の内向き加減と村社会は、日本の未来を暗示しているように思えてなりません。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.671 4月26日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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