やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

人工呼吸器の問題ではすでにない


 3月上旬のことですが、投資家グループの人たちと一緒に医療機器を製造している会社のヒヤリングをしていました。といっても、目的は単にコロナウイルス関連ではなく、スポーツ医療向けの特製機器の納品が大幅に遅れそうだというので話を聞きに行くという仕事だったのですが、そのころ、徐々に中国での医療機関のパンクは、命の選別、ICUの病床数の不足による問題だ、とすでに報じられ始めていたので話題になったんですよね。

 事の推移は、カエル先生こと高橋宏和先生がブログに書いておられます。

志村けん氏の訃報を聞いて町医者が伝えたいこと。

 死ぬんだよなあ… コロナウイルスで肺炎になったとしても人工呼吸器がついていれば、命は救えるんだ、だから人工呼吸器を増産するんだ、という議論がいまの時点で華やかになり、医療機器を作っている人たちも、政治的な要請や医療機関からの悲鳴を聞いて増産に打って出ているわけですけれども、肺炎でICUに入ることになり、人工呼吸器が必要な手当が大事だとなったとき、それはもう予後が悪いことも覚悟しなければならないということになります。

 たとえそれが、2割の患者に危機が訪れるのだとしても、残りの8割がどうにかなってくれれば、もちろん人工呼吸器はあったほうが良いのは間違いありません。また、病院に患者や感染者疑いがたくさん担ぎ込まれる近未来があったとして、人工呼吸器だけがあっても仕方がなく、ICUが必要で、技師が必要で、モニタリングする仕組みが必要で… と救急の現場がより過負荷になっていくことでしかありません。

 結局、救える命は人工呼吸器でどうにか持たせられるという言説そのものが、実際には希望的観測に過ぎなかったことはイタリアやスペインの事例で良く分かるようになりました。医療は資源であり、社会システムの強さを示すパラメータそのものだった、と国民がようやく気付きつつあるんでしょうね。

 だからこそ、我が国の医療の仕組みがどれだけ献身的な医師の努力に支えられてきたか、また、看護師や出入り業者の皆さんといった医療関係者全員の努力で成立してきたのかを改めて知ることになるのです。

 著名人であり、誰もが愛した志村けんさんでさえ、最適な治療を受けても亡くなってしまうんですよね。危機感をどう持つのかって、こういうところでセンチメントが出てこないと駄目だったと思うので、振り返って、志村けんさんが、我が国の、日本社会のために警鐘を鳴らすために身体を張ってくれたのだ、と感謝を言う日が来るのかもしれません。

 蛇足ながら、私個人としてはもう志村けんさんとは何年もお会いしていないのですが、ご一緒させていただいた何度かの宴会では朝までご一緒する中で非常にきれいなお金の使い方、お店やスタッフへの心遣いのできる偉大な御仁でした。共通の知人から伝え聞く限りでは、今回志村さんが感染してしまったのも、行きつけのお店などがコロナウイルスの影響で売上が激減するなかで、少しでもお金を落としてあげたいとスタッフをたくさん引き連れお店に来られたとのことで、最後の最後のエピソードまで非常に立派なものだったなあと思う次第です。

 神の御元に召された志村けんさんの魂に平安がありますよう心からお祈りするとともに、一人でも日本人、世界中の人がこの疾病で不幸な命を落とすことのないよう願っています。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.292 人工呼吸器へ寄せられる世間の期待に思うこと、東京オリンピックにまつわる焦臭い話、コロナウイルス渦とITセキュリティの関係などを語る回
2020年3月30日発行号 目次
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【0. 序文】人工呼吸器の問題ではすでにない
【1. インシデント1】東京オリンピックの再延期論と誘致にまつわる悪弊について雑感を述べるの巻
【2. インシデント2】新型コロナウイルス渦が招く新たなセキュリティ問題のあれこれ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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