小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

総務省調査に見るネット利用の姿

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年8月12日 Vol.093 <意志の力号>より


7月22日、総務省から平成27年の通信利用動向調査の結果が発表された。平成2年から連綿と続く調査で、時代の流れを読むデータとしてもなかなか興味深い。

我々ネットユーザーは、スマホやSNSを利用して当たり前の世界に生きているが、広く一般社会の平均値としての本調査とは、かなりのギャップがある。今回はこの調査から見た、「世の中の平均値」を読み解いてみよう。

 

ようやくスマホ利用が本格化した40代

まずインターネットの利用動向だが、平成23年から27年までの傾向をまとめている。これによれば、13歳〜49歳まではほぼ飽和状態となっており、この年代ではすでにインターネットは基幹インフラとなっているのがわかる。

社会人として現役である50代ではまだ伸びしろがあるようにも見えるが、ここ数年頭打ちになっており、一定数は使わなくても生きていける層があることを示している。

一方で定年退職者が含まれる60〜79歳でインターネット利用が上昇傾向にあるのが見て取れる。この背景は、通信機器の利用状況から伺い知れる。

下は平成26年末と27年末における利用機器の違いだが、全年齢層のうち、パソコンの利用が伸びているのは60代以上だけである。スマートフォンの利用は全部の世代で伸びているが、60代以上でもその傾向は同じだ。

そこから想像するに、定年を期に第2の人生が始まり、これまでの生活を変えて、新しいことにチャレンジする闊達なイメージが浮かび上がる。

もうひとつ注目ポイントは、40代で初めて、スマートフォンがパソコンの利用を上回ったところだ。50代もかなり利用の差が縮まっており、来年か再来年には40代と同じように逆転する可能性が高い。

ネットの世論的には、パソコンからスマホへの移行は当然のように言われているところだが、それを裏付ける調査結果とも言えるだろう。

一方で機器の保有状況を見てみると、パソコンはそれほど減っていない。また前のグラフをもう一度見直してみると、パソコンの利用自体はそれほど大きく減ってはいない。

つまり、パソコンは不要として廃棄したり利用しなくなったわけではなく、スマートフォンの利用がアドオン的に増えているということである。

このグラフは、詳細資料のほうで見た方が面白いだろう。こちらは平成11年からのグラフとなっており、スマートフォンの爆発的普及の様子が見て取れる。またタブレットも順調に数を伸ばしており、ネットの論調で言われるほど、ネガティブな状況ではないようだ。実際筆者の回りでも、ケータイキャリアで契約のオマケ的にタブレットを購入したという家庭が多い。あったら便利かも、の魔法は未だ健在ということだろう。

なおグラフの一番上の携帯電話・PHSのところは、スマートフォンも一緒になっている数字なので、ほぼ天井張り付きとなっている。純粋に携帯電話・PHSが未だ使われ続けているわけではない。

 

伸び続ける企業のSNS利用

続いてSNSの利用も見ておこう。調査によれば、SNSの利用は40代〜50代の伸びが顕著である。これはスマートフォンのこの年代への普及と連動していると見て差し支えないだろう。

事業体別で見ると、建設業、サービス業・その他での伸びが著しい。企業のSNS進出は、もはや当たり前のものとなりつつある。

クラウドサービスの利用については、現時点で一部でも利用している企業は44.6%となり、来年には50%を超えるだろう。利用意向のある企業まで含めれば60%に届くことから、少なくともそこまでは伸びしろがある分野だと言える。

一方企業のネットワーク利用上の問題点としては、王道とも言えるウイルス感染リスクがトップとなっている。昨年は運用・管理の人材不足がトップだった。

だが全体を俯瞰してみてみると、どのポイントも均等に上昇しており、問題点のポイントが変わったとは言いづらい。ある意味、利用者のリテラシーが高まった結果だと言えるだろう。

問題点は、かぎりなくゼロにするのが目標ではあるものの、絶対にゼロにはならない部分でもある。利用者が増えれば増えるほど、穴の数も多くなるからだ。

ウィルス対策は、対策アプリを入れましょうという話であるが、一方で情報漏えいのリスクをどのぐらい重視しているのか、この調査からはわからない。

実は概要の方には乗ってないが、詳細版のほうには個人に対して質問した、「インターネット利用で感じる不安の内容」という項目がある。これによれば、昨年に引き続き不安のトップは「個人情報が外部に漏れていないか」である。

各個人は、企業からの漏えいを心配しているのだが、それを防衛する側の企業では対策ポイントが複数あり、そのどれにも不安を抱えていることがわかる。実際のところ、個人情報漏えいに関する抜本的な解決策は見いだせないままである。

そろそろ個人情報漏えいに関しては、個人向けに掛け捨ての災害保険が出てきてもおかしくない。もしそういう商品があったら、ぜひ加入したいと思う。ただ保険会社は、かなりの確率で保険金を支払うことになりそうだが。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年8月12日 Vol.093 <意志の力号> 目次

01 論壇【西田】
 シン・ゴジラの凄さを「内容以外」で説明する
02 余談【小寺】
 総務省調査に見るネット利用の姿
03 対談【小寺・西田】
 VRおじさん・広田稔さんに聞く「バーチャルリアリティ」の今とこれから(4)
04 過去記事【西田】
 「メリダとおそろしの森」はこうして生まれた
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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