ジャズピアニスト・福島剛による馬鹿ジャズ名盤講座①

彼女を部屋に連れ込んでどうにかしたい時に聴きたいジャズアルバム

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100年を越える歴史を持つジャズという音楽には、古今東西さまざまな素晴らしいアルバムがある。

これらの中から私が厳選して、「このような場面にはこのジャズアルバム」という独断と偏見に満ち満ちたアルバムを紹介したい。

 

彼女を部屋に連れ込んで
どうにかしたい時に聴きたいジャズアルバム

付き合って一ヶ月ほど経つ彼女が、部屋にやって来たいと言ってきた。

となれば、男の脳裏には「いざ鎌倉」の四文字が太文字かつ斜体のフォントででかでかと鎮座まします事は避けようのない事実である。ちなみに結婚して数年以上経った男の頭の中では、よほどの精神異常者でない限りは「いざキャバクラ」に変換されている。

もしも読者諸氏が福山雅治やオダギリジョーのようなフェイスを既に具備しているのであれば余計な小細工などは一切必要ないだろう。「今夜の君は誰よりも美しい」だとか「やらせろ」だとか適当に言っておけば、即座に合戦開始となる。部屋は瞬時に水の都ベネツィアと化す。お好きにやってくれ。

そのような流麗なフェイスを具備していない場合。どちらかと言えば、いや、どちらかと言わなくても「面白いタイプ」のフェイスを具備している場合。筆者の場合などがそのケースに該当する訳であるが、そのようなフェイスの人間が上記のような科白を吐いた瞬間に目の前の女は鞄の中から携帯電話を取り出し、光の速さで1と1と0のボタンをプッシュする事だろう。間もなくポリスが到着し、プリズンへゴーだ。

「い、いや、まだ何もしてないし…」などと言おうものなら「まだって何よ!まだって! ケダモノのような目をして!」と反論されるに決まっている。

「てめえ! その気もねえくせに家まで来てんじゃねえよ!」などという魂のシャウトは女にもポリスにも届かない。

女達のぬかす「フクシマくんといると何だか落ち着くなっ」というタイプの戯言は、言い換えれば「テメーまかり間違っても襲ってくるんじゃねーぞ、その面白フェイスで」という事であるから誤解をしてはならない。

となれば、我々はナオンと二人で部屋に到着した瞬間に種々の雰囲気作りに執心し、その雰囲気に任せてのラッキーパンチを狙うより他に方策はない、という事になる。その為の、ジャズアルバムである。

極めて流麗、とまではいかないにしても、そこそこのイケてるメンズ(イケメン)であれば無難にピアニスト、ビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』をお勧めしたい。

 

『Waltz for Debby』/Bill Evans


<ショットバーで「とびきりドライなマティーニを」と注文したことがあるアナタはコチラ>
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この『Waltz for Debby』はベーシストのスコット・ラファロとドラマーのポール・モチアンとのトリオがニューヨークのライブハウス Village Vanguard で行ったライブを録音したものであり、本盤の中には観客の話し声やグラスのぶつかる音なども収録されている。それがいかにもな「大人の雰囲気」を醸し出す。

この「大人な雰囲気」にメロメロになってくれるナオンならばそのまま合戦を開始すれば良い。「まいりますか」、「うむ、いざ!」といった具合の阿吽の呼吸である。

しかし幾つかの懸念もある。

このアルバムにおいての聴き所は、エヴァンスの知的で繊細なピアノと抑制の効いたモチアンのドラムであり、そして何よりの白眉はラファロの創造的で個性的なベースである。

仮にナオンが「このラファロがいる時のエヴァンス・トリオの素晴らしさったらないわね。25歳なんていう若さで亡くなってしまった不運を私達は呪うしかないわ」なんていう言葉を吐いた時には「じゃあその後にエヴァンス・トリオにベーシストとして加入したエディ・ゴメスの事は君はどう思うんだい」などという会話に移行せざるを得ない訳だ。ベーシストの個性がもたらすエヴァンス音楽への影響というのは、とても興味深いテーマの一つである。なかなか「やらせて」が言い出せない。いつまで経っても合戦は開始されない。

さて、我々ブサイクさん達の攻め方へと移ろう。我々ブサイクさん達が部屋にナオンを連れ込んだ時にかけるべきジャズアルバムは、ジョン・コルトレーン・カルテットの『Live at Birdland』で決まりである。
 
 

『Live at Birdland』/John Coltrane Quartet


<全員が全員「セックスしてえー!!」と叫びながら砂浜を全力疾走する童貞で童貞を煮しめた中2男子のごとき、エネルギーに満ちた演奏である>
 
 
 
 
 
 
 
 
 

これ以外の選択肢は、ない。一曲目の「Afro Blue」からしてぶっ飛んでいる。

ジョン・コルトレーンのソプラノサックスから導かれるテーマの冒頭部に続いて、ピアノのマッコイ・タイナー、ベースのジミー・ギャリソン、ドラムのエルヴィン・ジョーンズのリズム隊が後方から一斉射撃のように、激しいワルツのリズムを放出する。

10分にも及ぶテイクであるが、前半の聴き所は、テーマの直後に繰り広げられる激しいマッコイのピアノソロ、そしてその際のエルヴィンのドラムである。エルヴィンはこれでもかと言わんばかりに音の嵐を巻き起こしている。最初の内はぴしっぴしっという鋭い音を立てていたシンバルも、次第にピアノソロが白熱するに従って「ドンガラガッシャングワラバキー」という音に変わってくる。ちなみにこの効果音は、水島新司先生の漫画『ドカベン』における岩鬼のボールを打つ際の効果音に酷似したものである。


<モテる男子が読むのが『タッチ』、モテない男子が読むのが『ドカベン』>
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、ピアノソロのテンションが最高潮まで盛り上がり、エルヴィンのドラムやギャリソンのベースが狂乱の宴と化した所で、コルトレーンのサックスがケダモノの咆哮のごとくぶわーっとかぶさってくる。

聴いている私は、ゲラゲラと爆笑しながら「何なのアホなの?」と言うよりほかない。ケダモノのような男達のケダモノのようなジャズ、自然のままな剥き出し状態の本能が芸術へと昇華されていく過程が、このアルバムには収められている。

これをナオンに聴かせる。そして「ああケダモノさ!」と開き直る。これ以外に我々ブサイクに選択肢はない。

コルトレーン・カルテットの、このアホ過ぎて素晴らしすぎるアルバムを聴いてナオンが逃げ出すようならば、「コルトレーンの良さもわからないナオンなどこちらから願い下げじゃあ!」と良いながら「大五郎」などの焼酎甲類を生(き)のままにゆけば良い。

ブサイク諸氏、活路はエヴァンスにはない。コルトレーンにある。

 
 
 
『Waltz for Debby』/Bill Evans
 
リリース:1961年
録音:1961年6月25日(ニューヨーク)
レーベル:リバーサイド・レコード

1.My Foolish Heart
2.Waltz for Debby (Take 2)
3.Detour Ahead (Take 2)
4.My Romance (Take 1)
5.Some Other Time
6.Milestones
7.Waltz for Debby (Take 1)
8.Detour Ahead (Take 1)
9.My Romance (Take 2)
10.Porgy (I Loves You, Porgy)
 
 
『Live at Birdland』/John Coltrane Quartet
 
リリース:1961年
録音:1961年11月2日、11月3日(ニューヨーク ヴィレッジ・ヴァンガード)
レーベル:インパルス!レコード

1. Afro-Blue
2. I Want To Talk About You
3. The Promise
4. Alabama
5. Your Lady
6. Vilia

 
 
(執筆者プロフィール)

福島剛/ジャズピアニスト

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1979年東京都出身。青春時代のすべてを柔道に捧げた後、京都府立大学在学中の20歳の頃よりピアノを始める。故・市川修氏に師事。2006年より「ボク、ピアノ弾けます」という嘘とハッタリによりプロの音楽家となる。プロとしての初めての仕事は故・ジョニー大倉氏のバンド。07年、活動の拠点を地元、東京江戸川区に移す。各地でのライブ、レコーディング、レッスン、プロ野球(広島カープ)観戦、魚釣り、飲酒などで多忙な日々を送る。

主なアルバム作品に映画作品のサウンドトラック『まだあくるよに』(2012年 ※iTunesの配信のみ)、お笑いジャズピアノトリオ「タケシーズ」による『みんなのジャズ』(2013)、初のソロピアノアルバム『Self Expression』(2015)がある。座右の銘は「ダイジョーブ」。

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