高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

フィンランド国民がベーシック・インカムに肯定的でない本当の理由

高城未来研究所【Future Report】Vol.378(2018年9月14日発行)より


今週はヘルシンキにいます。

昨年1月から、フィンランドではユニバーサル・ベーシック・インカムが、実験的にはじまりました。
これは、世界で初めて政府レベルで実行したベーシック・インカム・プロジェクトということもあって、世界中で注目を集めています。
そこで、KELA(フィンランド社会保険庁)を訪ね、実態を僕なりに考察するため、ヘルシンキに訪れました。

まず、社会保障が手厚いフィンランドでは、失業保険が毎月1000-2000ユーロ支給され、それにベーシック・インカム560ユーロが足されます。
KELAは、「失業中」と登録している人たちから無作為に2000人を選び、ユニバーサル・ベーシック・インカムの付与を尋ねたところ、ほぼ断る人がなく実験が開始。
日本でも、それなりのニュースになりました。

しかし、フィンランドでこのニュースを知る人は、ほとんどいません。
その上、ユニバーサル・ベーシック・インカムに関心がなく、例え実験とはいえ、「このようなこと」に税金を使うことは良くないと考えている人が大半なのです。

KELAの担当者に話を聞いても、「個人的には、ベーシック・インカムは難しいと思う」と、はっきり発言していたのは驚きです。
大抵、どの国でも官僚は、自分たちの仕事の失敗を認めません。
このあたりも、フィンランドならではだと思いましたが、肝心の理由は、誰もが仕事をしないでお金をもらう社会を好まないので、結果として話題にならないし、むしろ教育費のカットなど他の有益な財源がカットされてしまう懸念が多くの国民に高まる、というものでした。
受給者は「ベーシック・インカムは、素晴らしい制度だ」と口々に言いますが、KELAの担当者は「ユートピアはない」と明言していたのが印象的です。

ただ、フィンランド政府はAIやロボティックスによる「さらなる格差社会」や「無人社会」の到来を理解しており、「まだ、問題解決の方法はない」としながらも、「ベーシック・インカムは回答ではない」と考えている様子が伺えますが、ひとつの可能性を「あたらしい教育」に置いているように見えました。

その「あたらしい教育」とは、クリエイティビティを高めることです。

ヘルシンキ郊外の中学校を訪れ、僕が面白いと思ったのが、時間割のおよそ半分を、クリエイティビティを高める授業にあてていることです。
例えば、音楽の時間には、DTMソフト「Cubase」を使って、リミックスを行います。
DJは、もっとも稼げる職業になったことは欧州では常識ですが、ここが面白いのは、例えばアナログのギター音源が欲しければ、木工の時間にギターを木を削って作成する点にあります。
写真の授業では、レンズと被写体の関係性を考えながら撮影し、残りの時間で母国語の他、英語、スウェーデン語、その他の外国語を学びます。
もちろん、数学や化学などもありますが、ほんのわずか。
塾なども一切なく、放課後は自由に遊ぶのです。

このようなクリエイティビティを高める「あたらしい教育」が、脳を活性化することにより、イヤイヤ詰め込まれる「古い教育」より功を奏し、結果、フィンランドは世界有数の学力を持つに至りました。

言うまでもなく、この教育の根幹には、教師の質が高いことがあります。
つまり、フィンランド国民は、ベーシックインカムの予算があるなら、国家の未来のために、良い教育人材に投資すべきだと考えているのです。

「いま」のための「ベーシックインカム」と「未来」のための「あたらしい教育」。

まだ、途中のフィンランドのベーシックインカムの実験の成否はともかく、フィンランドの国民が選んだのは、後者なのです。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.378 2018年9月14日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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