やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

憂鬱な都知事選



 というわけで都知事選が今月末31日に投開票を予定しておりまして、14日の告示に向けて各党各団体がどこにつくか大詰めの調整が続いているようでありました。

産経新聞 「都政はワイドショーではない」 新潟大の田村秀教授

 新潟大学の田村秀教授が正面から論じておられますが、都政がワイドショーとなるべきではない一方、都民が都知事を選ぶとき、あまりにもワイドショー的な候補者、ワイドショーが好きそうな事案の数々が煌きますと、どうしても下世話な方向に話がいくわけであります。

 告示された以上は、各候補者が政策議論を都民に示し、論戦がしっかりと行われることを希望しますが、我が国の地方自治は知られているとおり二元代表制であるだけでなく、東京都は国家としてのイタリアを凌ぐ予算を持つ大自治体であるぶん、強力な官僚組織が存在し、一定の機能を発揮している限り都知事に誰が就任しても大きくは変わらない、というのが実態だったりもします。

日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択
「もう失敗できない」都知事の間違えない選び方
明大教授・元都副知事 青山?

 「都知事に誰がなっても変わらない」ように見える都政は、果たして岩盤規制のような存在なのか、非常に悩ましいところですけれども、さすがに一連の与野党の候補者選びのすったもんだはワイドショー的にならざるを得ない側面もあります。小池百合子女史が電撃出馬表明からボタンを掛け違い、結局、解散権のない都知事に就任したら、不信任案が可決されれば冒頭解散も辞さないという公約を掲げたため、大票田である公明と支持母体の創価学会が完全に敵に回ってしまうという自爆をしてしまいました。しっかりとした支持母体があり組織票が強いから与党であり、ゲタを履いているから政治家としての目標を満たすだけの思い切った行動が取れるのが利点であったはずの与党政治家が、与党の基盤を破壊しようという話を始めた以上、善戦できるはずがありません。

 また、本流からの支持を取り付けた増田寛也さんについては、このメルマガの冒頭で重ねて申し上げる必要もないぐらい、問題ある人物なのではないかと思っています。

増田寛也「ほとばしる無能」を都知事候補に担ぐ石原伸晃&自民都連(訂正とお詫びあり)
増田寛也と「すでに失われた」都税一兆円
増田寛也と「西松建設」

 とはいえ、対抗が自爆したネトウヨの星・小池百合子女史と、末期がんを克服したとはいえ健康面に重大な問題のある素人・鳥越俊太郎さんとで比較した場合、最終的に増田さんのほうが安定感がありマシであろうという議論も出てくると思います。あれだけ批判しておいてなんですが、私もこの並びだと増田さんしかいないんじゃないかとさえ感じるわけです。

 逆説的に、都知事選のスコープで全体を見渡したときに、個人的には思想や哲学の不在、筋の通し方が良くわからないという気持ちを強く持ちます。つまり、同じ韓国学校の建設見送りひとつとっても、単純に待機児童が新宿区にはこれだけいるから日本人、都民のベネフィット優先、ということは簡単です。

 しかしながら、都民優先といいながらも、東京都に税金を納めて普通に暮らしている韓国人はたくさんいらっしゃいます。東京都の多様性を考えたり、今後入るかもしれない移民の方も考えながら、少数派に対する配慮をどう考えるのか、同じ韓国学校を建てないにしても同じく東京に暮らす韓国人や外国人の教育を東京都はどう考えるべきなのか、といった都市設計や哲学というものがどうしても必要になるはずなのです。そして、それらを公約として掲げるにあたり、政治思想や哲学を垣間見せる発言をしてくれた候補者は一人もいませんでした。

 もっとも、私自身が保守主義者であり、多様性と対話を行いながら漸進的な改革を促していこうという考え方の持ち主であるため、どうしてもそういう考え方の骨子や、政治と自由に関する思考が優先されるべきと思ってしまうからこそ気になるだけかもしれません。ただ、やはり本来必要となるのは「東京一極集中が駄目だ」というスローガンは一定の理解はするとして、そうした集中をしないで東京をどう都市経営していくのかという視点や、過去の発言と都知事になった後の職責の整合性をどうとって行くのかという切実な問題がおざなりになったまま話を進めてはならない、と思っています。

 誰が都知事になってもろくなことにならない感じがする以上は、少しでもマシな人を選び、きちんと都政を監視してよい方向に話が向かうよう関心を払い続けるしか方法はないのでしょう。東京都として、やらなければならないことが多種多様にある中で、どのような取捨選択、優先順位で解決していくのか、予算配分を促していくのかは、思想や哲学に紐づいた都市経営に直結していきます。少しでも、そのような体感が得られ、都民に示されるような選挙戦になるといいなあと思うのですが、さてどうなるのでしょうか。

 蛇足ですが、自民東京都連が突然、小池百合子女史を応援したら「除名等の処分の対象とな」るという微妙な文書を流して騒ぎになっております。政党政治の世界では、自らの組織を引き締めるにあたってこのような話が出るのはあることですが、親族を含む除名等処分というのは大変なことですね。大丈夫なの。

都知事選で出馬表明相次ぐ 各候補の「勝利の方程式」は

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.159 今読まずしていつ読むかという都知事選スペシャルですがついでにソシャゲ界隈の闇やLINEのIPOにも触れてみました
2016年7月28日発行号 目次
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【0. 序文】憂鬱な都知事選
【1. インシデント1】ソーシャルゲーム「消費者事案」第2ラウンド
【2. インシデント2】LINEの株式上場ブームが一段落したようですね
【3. 特別読物】空白の大都知事選
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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