川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

アマチュア宇宙ロケット開発レポート in コペンハーゲン<前編>

川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!』vol.003より

コペンハーゲンの“熱い”おっさんたちを訪ねて

コペンハーゲン・サブオービタルズは、アマチュアで宇宙ロケット開発を自主的に行っているグループだ。

資金はクラウドファンディング。全員、アマチュアとして参加。それこそ、学生のロケットサークルと変わらない。

「放課後」というか、本来の仕事の終業後と週末だけの活動で、実際に宇宙ロケット開発する。実に野性味あふれる連中なのである。

英語ではCopenhagen Suborbitalsなので、よくCopSubsなどと略される。それでも面倒なので、単純にCSと言うこともある。ここでは、以後、CSと呼ぶ。

ぼくは、コペンハーゲン市内のプラネタリウムで、偶然、かれらの歴代ロケットや宇宙船の展示を見た。

その中でも、ティコ・ブラーエと呼ばれる、エントリープラグみたいな、不思議な形の(しかし理に適った形状の)一人乗り宇宙船に目を奪われた。(詳しくレポートしたメルマガ創刊号はこちら。記事の一部はこちらから読めます)

CSは、2011年、この宇宙船ティコ・ブラーエのデモフライトを(ほぼ)成功させている。高度としては2000メートルくらいの控え目なものだったが、その後も矢継ぎ早にプロジェクトを発表し、いくつかは実際に「成功」させた。

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〈プラネタリウム内の展示。手前の筒型カプセルはCSのもので、背景の宇宙飛行士はESAについての展示〉

デンマーク国内での認知度もあがっていて、宇宙に関心を持つ人たちが集う件のプラネタリウムには、実物のアマチュア宇宙船が、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が開発した各種の宇宙探査機と一緒に、誇らしげに展示されている。

ESAというのは、ヨローロッパ各国が協力してつくっている宇宙機関で、ロケットとしてはアリアン・シリーズが有名だ。南米の仏領ギアナからドカンと重量級の人工衛星を打ち上げるのは、迫力がある。国家というよりも、国家連合が威信を賭けた機関でもあって、アマチュアによるロケット開発とは対極にある。

そのESAとCSが、同じプラネタリウムの展示スペースに並んでいるのだから笑ってしまう。

デンマーク国民、コペンハーゲン市民としては、遠くて大きなESAと、「ご当地宇宙機関のCS」という対比で親しまれているのだろう。今や、プラネタリウムに足を運ぶような宇宙好きにとっては、「知る人ぞ知る」くらいの存在になっている。誰もが知っているという話ではないとしても(タクシーの運転手さんに聞いてみたら、やっぱり知らなかった)。

さて、メルマガ創刊号では、結局、会えずに終わった顛末だったけれど、じゃあ、今度こそ本当に会えないものか、作業所を訪ねられないかと思っていたところ、偶然、「来週、行きますよ」という人に出会った。

インタステラテクノロジス株式会社(「なつのロケット団」のロケットの開発をしている会社)の稲川貴大さんだった。また同社の北海道・大樹町の開発拠点で技術チーフを務める前田祐義さんや、さらには、稲川さんたちのボス、堀江貴文さんまで視察に参加するという。

これは同行させていただくしかないと頼み込み、結局、現地一泊というあわただしいスケジュールで、コペンハーゲンを再訪したのだった。

とんぼ返りの過密スケジュールだったが、本当に行って良かった。当時の自分の判断に、1ヵ月後、感謝しているわたくしです。

 

人魚姫の像よりさらに奥に行くと見えてくる「あのビル」

指定されたのは、港湾エリアである。

コペンハーゲン中心部からは橋をわたって海側に出る。

人魚姫の像がある内湾の逆サイドだ。だから観光で人魚姫像を訪ねたことがある人は、海を挟んでいるとはいえ、結構、近くまで来ているのだ。直線距離で、たぶん1キロくらい。大きめの燃焼試験などをやれば、充分に聞こえるだろう。

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〈世界○大ガッカリと言われても仕方ない人魚姫。しかし、その背中の1キロ先にCSの開発拠点が!〉

実際に近づいて見ると、大きな倉庫のようなビルが林立する産業地区だった。中には造船業で使われていて巨大なものもあり、CSのブログやTwitterで背景に映り込んでいる、いわゆる「あのビル」が出てきたりして、さっそく興奮をおぼえた。

ぼくと稲川さんとの間では、「あのビル」で通じたのだから笑える。彼等が公開する動画にたいてい映っているのだ。

「あのビル」でビビッと来た人は、CSに注目してきた強者に違いない。友よ!と呼びたい。

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〈なんか「あのビル」が見えてきた。分かる人だけ分かれ!〉

さて、住所をナビにいれて走っていたタクシーは、ここで行ったり来たりを繰りかえした。「あのビル」は見えているのに情けない。完全にバカナビである。
しかし、この住所は非常にざっくりしたもので、すごく巨大なブロックに簡単に数字を割り振っているだけみたいだ。それこそ、東京ドームの敷地にひとつの住所表記だったら、迷っても仕方ない。

結局、最後は「目視」であのあたり!と決めるしかなかった。ここでも「あのビル」との位置関係が役に立った。「プライベート進入禁止」なところに突っ込んでいったら、あった。

なにがって、ロケットだ。

直径1メートル以上あるやつが、ごろりと転がっていた。近づいてみると、溶接部分が浮いていたり、放棄された機体のようだ。

それが、巨大倉庫のような大きな建物に出入り口のところに転がっているのである。

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〈放棄されているロケットの群れ。さすがに、開発途中!とは言い難し〉

奥から、陽気なお兄ちゃんが出てきて、「さ、どうぞどうぞ」と中に招き入れてくれた。

まずは、標準的な「見学コース」である。

 

いよいよ、ロケット開発の“秘密基地”内部へ

だだっぴろい空間で、特にここから先は見ちゃダメよ的な制限エリアがあるわけではない。

20人近いおっさんたちが、広い作業場所のあちこちに分散して、それぞれの仕事をこなしていた。

いやいや、若い大学生くらいの子もいるぞ。

おっさんだけがやっていると思ったのは、偏見か。スミマセン。

で、彼らは、雑多なことをやっているように見えつつ、年内に三週間後に予定されていたNEXOロケットの準備に余念がない。(本当はNEXOのOは、斜線の入ったゼロみたいなOだ)

にこやかにキビキビ、それぞれの仕事をこなしているのだった。

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〈いきなりガジェットだらけの作業場である〉

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〈作業場では、何かを作っていたぞ!(小並感)〉

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〈燃料・酸化剤の供給の仕方を議論したホワイトボードが現場感をもりあげる!〉

(続きは川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!』vol.003にてお読みください)

 

川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

2015年11月06日発行vol.003
<コペンハーゲンのおっさんたち~アマチュア宇宙ロケット開発見学レポート前編8000字/ヴァイキングからコンティキ号、そして南極のフラム号/ドードー連載/イルカと水族館問題/「かけ算の順序」の問題について>ほかより

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Vol.003(2015年11月06日発行)目次

01:本日のサプリ:NZ南島キガシラペンギン・まだまだ続くよヒナシリーズ
02:宇宙通信:
コペンハーゲンのおっさんたち~アマチュア宇宙ロケット開発レポート前編・8000字
03移動式!:ヴァイキングからコンティキ号、そして南極のフラム号
04:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(3)
05:カワバタヒロトへの何でも質問箱
06:秘密基地で考える: イルカと水族館問題/この際、WAZAの倫理規定(英文)を
ざっくり読むぞ。まずは序文だ!
07:プレイバック:「かけ算の順序」の問題について
08:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
09:せかいに広がれ~記憶の中の1枚: ブルンジの学校のとある日曜日
10:イベントのお知らせとご報告
11:著書のご案内・予定など

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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